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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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Wish プロローグ

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「うわぁっ!!は…春斗、放して…って、こらぁ~襟首掴むな~!…って、今度はスカート掴んでる~っ!!脱げるって~っ!!引っ張るな!!」

抱えられているかえでがバタバタ暴れだして運びにくいことこのうえ極まりない。

「ええ~い!注文が多い奴だ。往生際の悪い」

「そういう問題じゃないって」

俺は、餌を欲してぴーちく泣き止まないひな鳥のようにバタバタと暴れるかえでを何とか玄関まで運ぶ。

「いってらっしゃい♪お兄ちゃん、かえちゃん」

俺たちは、急いで玄関まで行き、靴を履こうとしていた…その時だった。

-プルルルル

俺の隣にある家電がけたたましく鳴り出す。
これはあれか?急いでる俺たちの邪魔しようと企むどこぞの組織の陰謀か?それとも監視カメラでも付いていて俺の行動を手を取るように把握し、嫌がらせでもしてるんだろうか。そうとしか考えられないこのタイミングだもんな。無理もない。

「何だよ、こんな時に。明日香、電話出てくれ~!」

「はーい♪」

迫り来る遅刻という名の魔の手のおかげで俺は急がなくてはいけないため明日香に電話を任せて、俺は急いで靴を履いた。

「じゃ、今度こそ、いってくるぜ」

俺は、ドアのノブに手をかける。

「ちょっと春斗、あたし、まだ、靴履いてないし、それにそろそろ降ろして」

よく見ると、かえではまるで猫のように俺に抱えられていた。
いっそこのまま猫化していたらどうだ?大人しくていいと思うんだが?

「あぁ、スマン!ほらよっ」

俺から解放されたかえでは、靴を履き始める。

「履けたか?んじゃ、行くぞ~」

「明日香~いってきマ~ウス~☆…って、春斗、引っ張るな~っ!!」

「いってらっしゃい♪♪」

俺たちは、勢いよくドアを開け放ち、かえでを引っ張って急いで学園に向かった。

「はい、雛月です……あ、お父さん?」





「はぁ…はぁ…はぁ…ここまで…来れば…大丈夫だろ…はぁ…」

「はあぁ…はぁ…疲れた。はぁ…ダルイ~もう…動けない」

俺とかえでは二人して道路のど真ん中でひーひーと肩で息をし、全神経を一時活動を休止させ、体力の回復に回していた。
あれから俺たちは、全力疾走で学園までの通学路を駆け抜けていた。
これがマジえれぇ。果てしない疲労と脱力感がドっと押し寄せる。

…ホント疲れた。立ってるのも億劫なくらいだ。
誰だこんな遠くに学園を建てやがったヤツは。見つけたヤツは連絡をくれたらありがたい。報酬は100円くらいなら出せるぜ。まぁ…だが、ここで休んでいたらここまで走った意味がない。

「ほら、かえで立て……って、路上で寝るな馬鹿者ッ!!」

「だ…だって、もうダルくて何もする気にならないよ~」

まぁ、わかんなくもないがな。俺だってかなりヤヴァイ。

「あともう少しの辛抱だ、耐えろ、耐えるんだッ!かえで~ッ!ゴールは目前だ」

俺は、疲れて塞ぎこんでいるかえでを何とかここから動かそうとエールを送ってやる。

「む…無理ぃ」

しかし、無常にも一瞬にしてかえでは、まるで漫画みたく、目をバッテンにして大の字で道路にへたり込んでいた。

「そうだ!お前が朝言ってた今日発売のコミックとゲーム買ってやっから頑張れ」

まぁ、冗談だけどな。
まぁ、今時こんな見え見えな嘘に騙されるわけ……。

「っいよしゃあああぁあああッ!!!み☆な☆ぎ☆っ☆て☆き☆た☆!!!!春斗、行くよ!あたしたちのゴールはすぐ目の前だ!うおおぉぉぉおおおりゃぁぁあああぁあああ~ッ!」

かえでは、いつの間にか立ち上がると、凄い勢いで走り出した。
おいおい。そんなあっさりと簡単に復活するもんなのか?さっきまでのへタレ気味は何処へ?

「って、こんな単純なワナに簡単に騙されてんなよッ!!ちょっ…ちょっと待て」

いたよ…ここに。騙されてるアホが…。
なんて単純な奴なんだ。
ホント、かえでの将来が心配になってきたぜ……。




「はぁ…はぁぁ…はぁ…。も…もう…無理ぃ~…走れない~ダルぅ~」

「はぁ…ま…まったく…いきなりマジ走りしやがって…はぁ…はぁ」

一体、こいつのどこにこんな力があるのやら。
短距離の選手でもなんてオリンピックを目指したらいい。
少しは今よりもマシになると思うぞ。それに俺はもちろんお前のおじさんとおばさんも安心すると思うしな。期待だってされるかもしれんぞ??

「春斗ぉ~疲れたよ~おんぶぅ~」

と早速、歩く気力もなくなったようで俺におんぶを要請してくるかえで。
まるで幼稚園児か小学生低学年の児童のように両手を広げるかえで。
…なんだ急に甘えやがって。
初見で見たヤツならば、迷うことなくおんぶするだろう。
じっとしていれば、こいつも可愛い女の子といっても過言じゃない。

身内びいきじゃないぜ??
かえでも容姿はいいんだ、性格だけ目を瞑れば美少女だろう。
だが断る!!

「やなこった。俺だって疲れてるんだよ。逆に俺がおんぶして欲しいくらいだ」

あれだけ何回も全速力で走ればこの俺でも疲れるわ。しかも、その大半はさっきのお前の異常なデッド・ハイ・スピードマラソンのせいなんだからな。

「できるわけないじゃん~。あたし、春斗より体小さいんだから潰れちゃうよ~」

まぁ、そうだわな。こんななりじゃな…。

「そういうことだ、諦めてさっさと歩きやがれ」

「ちょっと休憩~!HPが足りないし、ついでにMPも。瀕死状態なわけですよ」

「馬鹿なこと言ってないで行くぞ!せっかく走ったのに遅れるだろうが」

「わかってるんだけど、なぜか動けないんだよね~。身体がゆーこときいてくれないのだよ。こういうことあるよね」

ないない。
それは、たぶん、お前だけだと思うぞ。

「おーい!春斗~かえで~!」

俺たちの前方から朝を象徴するが如くって感じな快活な声が俺たちの耳に届く。

「あっ!茜、おっはよー」

「おう、茜、はよーっす!」

「はよー……って、お前らさっきから何やってんだ?」

俺たちに何だか呆れたような顔で疑惑な視線を向ける茜。
きっと絵で描くと茜の頭上にはクエスチョンマークのオンパレードだろうぜ。
でもまぁ、誰が見てもそう思うよな。この俺とかえでの構図を見ればな。

「あぁ、かえでがアホみたいに全力疾走して、体力使い果たしてダウンしちまったんだよ」

「ハハハ。何だよ、それは。まったくかえでったらホント馬鹿だな~」

「だって、春斗がゲームとコミック買ってくれるって言うんだもんさ」

「いやいや、あれは冗談だからッ!買わねーよ」

「何デスと!?嘘だったの?」

これを本気で言ってんだからな。
ホントどうしようもないな。

「気づくの遅せぇよッ!!っていうか気づけよッ!!」

「ひ…ひどいよ!あたしの純粋な心を踏みにじったぁ~!」

純粋~??

「まぁまぁ。そういえば、冬姫は?一緒じゃないのか?」

何だ?俺と冬姫はセットになってるのか?
まぁ、かえでとセットにさせられるよりかはマシだが。

「あぁ、あいつは、何か用事があるとかで先に行ったぞ」

「そうなんだ。でもさ春斗、今日はやけに遅かったけど、何かあったのかよ?」
作品名:Wish プロローグ 作家名:秋月かのん