ログダム
4章～模擬戦～
幸いにも、異世界からやって来た俺たちに対するクラスメイトの反応は良く、違和感なくクラスに馴染んでいくことができた。
行われる授業に関しては、もちろんこのクラスの名前にもある通り、カリキュラムには戦闘に関する授業が用意されていた。
「これから実技授業を始ます！」
レイメル先生が声を上げると同時に、授業が始まる。
まずは戦闘レットの初期使用方法である、武器電磁（マグネ）だ。
「マグネ！！！」
この強力な磁場を発生させることができなければ、レットを戦闘で使うことなど不可能だ。
意識を武器に集中させる。
やがて、武器は金色の光に包まれる。
これがマグネだ。
金色の光は研二の刀の柄のあたりから発生し、およそ1、8秒ほどで光は武器全体に行き渡る。
「ふう……やっぱりこのぐらいが限界か」
そこにシェルがやって来た。
「どうですか？マグネ発生の調子の程は」
シェルも同様に武器にマグネを発生させている。
シェルの持つ武器は、シェルの身の丈半にもなりそうな大きさの大剣だ。
体に見合わず、シェルはその大剣を軽々振り回す。
「ああ、約2秒弱ってところかな」
「なかなかやりますね……。まだこの授業を始めてひと月たたないのに」
「いや、俺なんてまだまだだよ」
そこに、裕子とルーク、そしてクライスがやってきた。
「よう、研二。そろそろ休憩だぜ」
「もうそんな時間か。このあとは模擬戦だっけか？」
「うん。今回は、ゲストを用意してるんだって」
ゲストは気になるが、今の力を試すにはちょうどいい。
「いったいどんなゲストなんだろうな」
そうこう話しているうちに、休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴る。
そして、レイメル先生がみんなを集める。
「これから模擬戦をやるんだけど、先日言った通り今日はゲストを呼んでまーす！」
奥の方から、上級生と思わしき人物が姿を見せた。
「3年の道芝 優吾だ」
「同じく3年の久留米 瑠花です」
やはり先輩だったか。
「あれ？日本人みたいな名前……？」
裕子が疑問を口にする。
と、いうより、完全に日本人の名前だ。
「あのー、先生？あの先輩方はもしかして……？」
流石に気になったので聞いてみることにする。
「ん？ああ、そうか、まだ話してなかったわね。この学園にはあなたと同様、以前にも平行世界からきた子達がいるの。あの二人もその内よ」
なるほど。それでそんなに変な目で見られなかったのか。
「でも、その言い回しだとほかにもいるんですよね？」
裕子が聞く。
「ええ、その内会うことになると思うわ。さて、早速模擬戦やっちゃいましょ。参加するのは櫻谷と留目よ」
「えっ……」
思わぬ展開だった。全員があの二人を交えて模擬戦するのかと思いきや、俺達対先輩達のようだ。
「さあ、二人共！準備して！」
「まあいいか……」
俺は刀の柄を持ち、マグネを発生させるために、目を瞑り精神を集中させる。
レイメル先生の声が頭に響く。
「ルールは、武器の破壊、及び敵の降伏。そして、こちらが戦闘続行不能と判断した場合による。それでは模擬戦……始め！」
刹那、相手が動くのが空気を伝わって来る。
速い。マグネを発生させていないのか？
いや、いくら物理的な力に自信がある奴でも、相手が戦闘用レットを使えるとなれば、そうやすやすとマグネを発生させないなんて選択肢は取らないだろう。
「らああああっ！！！」
道芝が鬼気迫る勢いでこちらに改造斧を振り下ろしてくる。
それを紙一重のところで避けたところで、こちらのマグネが発生し切る。
「プリズン・ショック！」
紫色の光が稲妻の形になって、道芝に襲いかかる。
この距離のプリズン・ショックなら、マグネを発生させレットを使わなければ回避することは不可能だ。
「…………甘いな」
道芝は小さくそう言うと、斧とは逆手に付いている、ナタのような武器で反撃した。
結果は相殺。
「……え？……」
道芝は確かにマグネを発生させているような素振りを見せなかった。
しかし実際に、研二のレットは相殺された。
少し距離を置いた道芝が喋る。
「……反応速度とマグネ発生の速さは、聞いていた通りトップクラスのようだな」
さらに道芝は、俺の心を見透かしたように、こう言った。
「俺のしたことが気になるか？櫻谷」
「……ええ、正直」
「だが、今はその答えを教えることはできない。戦いで自らの手の内を明かす奴はいないだろう」
それはもっともだ。俺だって今すぐに答えをもらえるとは思っていない。
「だが……この模擬戦で俺を負かすことができたなら、教えてやる」
不敵な笑みを浮かべる。
俺を試しに来ているのだろうか。
なら、勝ちに行くしかない。
俺も自分で考えてみよう。
「そろそろ再開と行くか」
道芝が動く。
「……っく」
相手は、先ほどのようにマグネをしたような感じは無い。
だが、もうレットは使えると思っていいだろう。
「はあっ！！」
道芝が改造斧を振り下ろす。
俺の刀では、力だけに特化した道芝の改造斧による振り下ろしを受け止めることは効率が悪い。
なぜなら、この模擬戦は武器の破壊でも勝敗が期してしまう。
いくら同系統の素材の武器とは言っても、細身の刀と分厚い斧ではこちらの武器が受けるダメージの方が大きい。
なら、レットを使うか……？
いやしかし、それでは先程と同じだ。
それなら……
「これは、どうですっ！？」
先程のように斧をよける。
しかし、もちろん考えがあっての回避だ。
回避の方向は逆、道芝に向かってだ。
「懐をとるか……？甘いな」
武器の弱点は武器それぞれだ。
手で持つところであったり、刀身の先や、銃口の先。
はたまたそれとは別のところも。
この世界では、そういったものがあるらしい。
「そんな懐を取ろうとしただけで、簡単に行くとは思っていませんよ」
道芝の斧を、刀の柄で押し上げるようにする。
斧の弱点は、持ち手だ。
その柄を、レットを使い強化した刀身で切る。
「ふっ」
道芝が武器を引く。
この時、俺は道芝の武器にかなり近づいたことで、一つの答えにたどり着く。
マグネの光だ。
しかし、その光は道芝のそれでは無いと直ぐにわかった。
後ろにいるもう一人の先輩、久留米先輩だ。
彼女も同じ光を放っていた。
「そうか、あれがマグネの共有か」
授業の延長線上で、教師が少し話していたことだ。
この世界には自分で発生させたマグネを他人に共有することができる力を持った者がいるという。
マグネを与えると、元のマグネを発生させている人物により、出てくるメリットがあるという。
「それだけ分かれば十分だ」
進行方向を変える。
目標は久留米 瑠花。
「おい！研二！そっちは久留米先輩の方向だぞ！」
ルークが叫ぶ。
「大丈夫だよ、ルーク君」
落ち着いた口調で裕子が言う。
「ちっ！この短時間で気付きやがったか」
道芝が俺を追ってくる。