ログダム
学園長室を出た俺は、この世界に来てからずっと抱いていた疑問をシェルに投げかけることにした。
「なあ、シェル」
「はい」
「お前ってさ、この世界とあっちの世界とで、性格変わってないか?」
今まで微動だにしなかった眉が、ピクリと動いた。
「そうですね。どうやらあっちの世界、平行世界(パラレルワールド)では、このような感じの正確ではなかったと思います」
「ああ、なんかこうもっと、女の子らしいというか、もっと喋るイメージだったのになぁ……」
「どちらにせよ、私は元々こっちの人間なので、これが素です。平行世界のようになれ、というのであれば、それは少し難しい問題かと」
「いや、流石にそんなことは言わないさ。ただ……」
「ただ?」
「そろそろその敬語やめないか?もうここでは同じ同学年なんだし」
「善処します」
あっさりかわされた。
「さて、そろそろです」
シェルに連れられ第1学舎の3階、2年特別戦闘学科と書かれた場所に連れてこられた。
教室の中には複数人の生徒がおり、全員俺達と同じくらいの歳の生徒だった。すると、前から女の教師がこっちにやって来た。
「あら、シェルちゃん。もしかしてそこの二人が平行世界から来たっていう子?」
「はい、そうです」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
そういうと、その教師は教室に入っていき、生徒たちに何かを伝えているようだった。
「あれが、このクラスの担任か?」
「はい、2年C組の担任、レイメル先生です」
とても華奢で、美しい先生だった。しかし、ここはあくまでも戦闘学科と書かれている教室だ、ならば、ある程度は戦闘を教えるために強くなくてはならない。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ああ見えてレイメル先生は、戦闘用レットの使用に関しては一流ですので」
どうやらその話は本当のようだ。よく見ると、足やら腕やらに色々な見たことのないアクセサリを身につけている。あれがレットを使うための道具なのだろう。
そんな話をしていると、レイメル先生がこっちに手招きしてきた。
「ではお二人とも、教室に入りましょう」
教室に入ると、当たり前だが視線が集中した。こういう場はいくらやっても慣れないものだ。
するとレイメル先生が話し始める。
「この子達が今回新しく編入してきた……」
レイメル先生がウィンクしてきた。どうやら名乗れ、ということらしい。
「あー、えっと、本日付でこの学園に編入してきた、櫻谷 研二です。異端者ですがどうぞよろしく」
「同じく、留目 裕子です」
少しの静寂。そして、パチパチと誰かが拍手をすれば、それに釣られて周りの者がまた拍手をする。どの世界だって同じのようだ。
どうやら少なくとも、悪い印象ではないようだ。
「えー、では、ふたりの席はっと……」
先生が辺りを見回す。
俺はふと、窓際から一列ずれた席に座っている女の子と目が合った。その子は、いかにもお淑やかそうで、成績優秀……といった感じの女の子だった。
しかし、その子と目があった瞬間、何かよくわからない違和感に襲われた。
だが、今は気にしないようにする。
「……先生、ここ空いてます」
その子が声を上げた。どうやら、窓際の席が二つ空いているらしい。
「あ、そうね。じゃああそこちょうど二つ空いてるから、あそこに座ってちょうだい」
レイメル先生に促され、指定された席へと向かう。
席に座るやいなや、隣の男子に声をかけられた。
「よっ新入り君。一緒に来た可愛い子は彼女さんかい?」
もう言われ慣れた一言だった。
「そんなんじゃないよ、ただの幼馴染。後、俺はさっき名乗ったんだから、そっちも名乗ってくれ」
「おお、そういえばそうだったな。俺はルーク。ルーク・レオンハルトだ」
「そうか、よろしく。ルーク」
「んで、君の名前は?」
席を紹介してくれた子に話しかける。
「あっ……私は……、エルメ・クライス……です」
「クライスさんか、よろしく」
そう言うと、クライスは俯いてしまった。
「しかし話を戻すが、お前と一緒に来た子、すげー可愛くないか?お前はさっきただの幼馴染って言ったけど、俺あんな子と幼馴染だったら我慢できないぞ……」
「我慢できないって、何をだよ……」
裕子はもうすでに周りの女の子と仲良くし始めているようだった。もちろん、席を紹介してくれた彼女を含め。
「あの子、裕子ちゃん、だっけ?周りと仲良くなるの上手いなー」
裕子の人気者ぶりはどの世界に行っても変わらないようだった。
「まあ、あいつはどこいってもあんな感じだからな」
とりあえずこの教室の雰囲気は悪くないようだ。