ログダム
3章~学園編入~
日本で言うマンモス校なんかとは比べ物にならないほどの大きさを誇る、士官育成学園。
学園の放つ大きさだけでは無い、もっと何か別の圧力に圧倒されながらも、銅島に案内されて学園のある部屋の前にたどり着いた。
扉の端には学園長室と記されてある。
「ここが学園長室か?随分でかいな」
銅島が見るからに重そうな扉を軽々開けることに少し疑問を感じながらも、中に入った。
「なんだ、誰もいないじゃないか」
虚しく背もたれをこちらに向けた椅子には人の影が見えなかった。
「…………います」
椅子がくるっと回り、そこには、金髪で小柄、更にはメガネ、と、いろんなジャンルが合わさったような女の子が鎮座している。
「この方が我が学園長、アリス・フォーレウス学園長です」
見た目はどう見ても俺達よりは年下だ。だが、銅島が学園長と言い紹介した上に、入口にはしっかり学園長室とあった。
ということは、紛れもなくこの人が学園長ということになる。
「いま紹介に預かった、アリス・フォーレウスです。一応ここの学園長をやらせてもらっています。気軽にアリス、と呼んで下さい」
「ええ!!こんなちっちゃい子が!?ほんとに!?」
アリス学園長が裕子を睨む。
「す、すみません」
しゅんとなる裕子。
そんな裕子をよそに、アリス学園長は話を進める。
「あなたたちのことは、そこにいるシェルから聞きました。どうやら向こうの世界で紋章に触ってしまったようですね。またこの世界の犠牲者が……」
最後の方はよく聞こえなかったが、アリス学園長は少し何かを悔やんでいるようだった。
しかし、気になることがある。
シェル?
誰のことを指している?
名前からして女性である可能性は高い。
なら裕子か?いや、いくら事前に聞いているとはいえ、流石に無いだろう。
ならば銅島か?それならありうる。銅島は元々はこちらの人間だ。こちらではそう呼ばれていてもおかしくはない。
「あのー、シェルって誰ですか?」
裕子が尋ねる。
「あなたの隣にいるその子です。シェル・フォーレウス。そういえば、そっちの世界では銅島咲って名前で活動してましたか」
やはりか。まあそのくらいしか可能性としては無かったが。
「へえ、シェル・フォーレウスって言うんだ~。……ん?」
……同じ名前?
「もしかして……?」
「ええ、私の妹です」
まさか、学園長の身内だったとは。思いもよらなかった。
「咲ちゃんお姉さんいたんだ~。こんなちっちゃ……」
裕子がアリス学園長に睨まれビクッとなる。
「とりあえず、話を戻します。」
咳払いをし、真剣な表情になる。
「既にシェルからある程度は聞いているかとは思いますが、あなた達にはこの学園に編入し、いずれ迫り来る戦争に迎え撃たなくてはなりません。この世界には、魔法(レット)と呼ばれる不可思議なチカラが存在しています。私たちもレットが完全に把握できているわけではありません。ですが、レットを使うことで、私たちは明かりを発したり、物を自動で動かしたりと、エネルギー源として活用できることが研究で分かり、今までは自由に、平等に使うことができました」
「しかし、過去形、ということは?」
「はい、約60年前、北の国『レーヴァ』の研究者達により、レットを戦闘に使う方法が編み出されてしまいました。レーヴァの国王であるレニスは、大変戦いを望む者で有名です。そんな彼の国でそんな使い方のレットが開発されたとなれば、考えることは凡人にでもわかるでしょう」
「戦争……ですか」
「はい。レニスはそのチカラを使い、瞬く間に近場の小国を取り込み、一大勢力となってしまいました。そして今から約50年前……第一次終末戦争が始まりました」
第一次終末戦争。ここに来る間、銅島……もといシェルから、知識の一つとして聞いていたものだ。
<<ログダム>>中の戦士、及び魔術師、治癒師達が参加したと言われる超大規模戦争。その規模は、日本に訳すと列島半分が消失するほどのとんでもない戦争だったという。
戦争の主導権を握ったのは、レニス率いるレーヴァ軍、そして、西の巨大国<<ヴァウル>>、東の貿易国<<ヒスイ>>の2国率いる連合国家軍。期間はおおよそ3年間の長い間だったという。
「そして、その戦争の勝利国は、この士官育成学園がある<<ルーアン>>も含まれる連合国家軍でした。その戦争により、多数の死者、行方不明者が出ることになったのですが、一番大きかったのは、レーヴァ軍のレニス、そして連合国家軍のリーダー格である、西の巨大国<<ヴァウル>>の国王ラートン、そして、ラートンの右腕でもあった特殊兵隊隊長レオなど、両軍のトップ、またはトップに近い者が、戦争直後突如姿を消したのです」
戦争後に、突如国のトップが姿を消した……。いささか信じ難い話ではある。
さらに、そのトップがいなくなったせいで一時期は治安が悪かったそうなのだが、いなくなった両国にそれぞれ別の国から支援が来て、徐々に治安も安定していったという。
「原因はまだ不明ですが、噂では死んだという話や、裏で誰かが操っていて、戦争後に各国の有力者を集め、またよからぬことを企んでいる……など、いろいろな憶測があります。そして今、また北のほうで動きがあると聞きます。となると……」
「……アリス学園長は第二次終末戦争が近いうちに起こると、そうお考えですね?」
「ええ、その可能性は十分高いでしょう。そしてそこにあなた達が現れた、これはもうなにかの運命としか思えない。私は別の世界から来たあなた達に、不思議な力があると直感で感じました。この直感を確かめるためにも、あなた達に我が学園への編入を望みます。如何ですか?」
答えは決まっている。どうせ最初から拒否権などないのだ、裕子もそれをわかっているのか、悩んでいる様子もない。
「では、決まりですね。シェル、案内してあげてください。それから、私達のほうであなた方が元の世界に帰れる方法も探してみます」
シェルは頷くと、扉を開けた。
「お願いします。それでは失礼します」
俺達は学園長室を後にした。