ログダム
2章~ログダム~
「お二人共知っているかもしれませんがこの学校は、50年ほど前にある事件がきっかけで一度建て直しをしています」
それは、いろいろな生徒の噂話などから聞いたことのあることだった。
50年前、突然やってきた謎の黒ずくめの集団、その頃校舎は木造で、次々に放火される学校。
訳が分からないまま結局校舎は半壊。この黒ずくめを雇ったとして、この頃の校長は責任を取り辞職。その後刑務所に入った、という事件だ。
未だにその真相は掴めていない。もっとも、時効で今更どうこう言う話でもないが。
「その事件と何か関係が……?」
裕子が聞く。
「はい。にわかには信じられないと思いますが、その犯人である黒ずくめは、別の世界から来た使者なんです。さっき櫻谷先輩が触ったという紫色の紋章……あれがあっちの世界<<ログダム>>への入口なんです。普段ならあの入口は他の者には見えないはずなんですが、あなたたちはそれが見えた。それは、あなたたちがログダムへの適正を持つということ。そして……」
銅島は続ける。
「櫻谷先輩。あなたはあの紋章に触ってしまった。これにより、あなたはもう普通の人間ではいられない。ログダムで戦うことを強制されてしまった、いわば戦士なんです」
「え……?」
一瞬。一瞬だが、僅かに寒気を感じた。季節は秋後半で、外に出れば確かに肌寒い。しかし、それとでは違う寒さだった。
「それに留目先輩。先輩は触ってはいなくともあの紋章を見てしまった。先輩も、このままログダムの入口という記憶を残したまま帰らせるわけにはいきません。私についてきてください」
鋭い目でそう言い、銅島は席を立ってしまった。
「研ちゃん……どうしよう……?」
「どうするもなにも、行くしかないだろ。早くしないと置いてかれちまう」
堂島を追いかけて歩くこと数分。研二達は再びあの場所に来ていた。
「もう一度確認します。先輩たちは、『これ』が見えますね?」
そう言い指を指された先にあるのは、先程も見た紫色の紋章のようなもの。銅島の言葉を借りるなら、異世界<<ログダム>>への入口だ。
「ああ」
「うん」
研二と裕子はそろって返事をする。
「では、今から<<ログダム>>へ行ってもらいます。この紋章を通れば、ログダムに着きます。」
隣で息を呑む音が聞こえる。裕子だろう。突然異世界へ行くことを強要されてしまったのだ、無理もない。かくいう研二もかなり緊張していた。
「櫻谷さん、この紋章に触ってください」
そう言われて研二は触る。すると、紋章が先程と同じく淡く光だした。
足を踏み出す。そこは本来壁のはずなのに、体は吸い込まれるように入っていく。そして……、
「――こ、ここは……」
目の前に広がるのは雄大な草原、見渡す限りの青空、そこかしこにいる見慣れない動物達。
広がる光景は、二人の想像を遥かに超えるものだった。
「す……すごい、こんな世界が私達のすぐそばにあるなんて……」
暗い空間から出てきたため、日差しを手で避けながら言う裕子。
「本当にこんな世界で戦わなくちゃいけないのか?」
そんな研二の問いに銅島はしっかりした顔つきで言う。
「それは、これから行く場所で分かります」
それからかなり歩いた。どれくらい歩いただろうか、三時間……四時間……?それ以上かも知れない。
「着きました」
「はぁ……はぁ……、やっと、着いた……の……?」
「ええ、着きました。ここが、これから先輩たちに通ってもらうことになる、『士官育成王立学園』です。」
「で、でかい……」
「なんだこの大きさ…………」
二人は驚嘆の声を漏らす。それも無理はない、目の前にあるのは現実世界では考えられないような大きさを誇る学校だった。
「ここでお二人には、2年生としてこの学園に入学してもらいます。ここでは戦闘に関する授業や、この世界にいる私達の敵対勢力などを一から学んでもらいます。まずはここの学園長に会いに行きましょう。彼女が全て教えてくれます」
こうして、俺達はこの学園に編入することになってしまった。