ドッペルゲンガー
少し大きめの、真っ白な枕を掴む指の力を強める。直接触れているあたしには、その枕を握る指の音も今にも泣き出しそうなのを堪える声もよく聞こえていた。それはこんなあたしを悲劇のヒロインに仕立て上げようとしていて、やはり何とも滑稽なものだった。
もう一つあたしが気に掛けて許されることがあるならば、ゼン――あなたはこの震える指に気が付いているのだろうかという事くらいだった。
「そんな事、あってはいけないの……」
「だからお前は馬鹿なんだ、セン」
彼の唇があたしの背中を滑っていく。この男の唇と髪があたしの羽根も生えていない背中をくすぐるたび、あたしは振り払うかのように体を捩った。けれどそれが本気でないことくらい、ゼンはわかっている。また一つ、自分の意思とは関係ないところで体が跳ねてしまう。またあの不毛な行為を繰り返そうとしているのだ。今あたしの目に溜まる涙を見て、誰が恐怖の余りに溢れたものだと思うだろうか。背中に掛かるゼンの吐息さえあたしを救っているのだ。あたしは彼の優しさに甘えて、どうしようもなくなった涙を一粒二粒と枕に滲ませた。
「俺はここにいるだろう」