ゾディアック 4
私は笑った「 違うよ、ただのオヤジだよ。ウリエル 」
「 ウリエル?天使の? 」カヨが聞き返した。
「 そう、ゴンチャス巡礼を護った・・ 女神の遣い 」
「 へー・・ 何か凄そうですね。宗教の方ですか・・ 」カヨはオヤジをジロジロ見た。
カヨは 前世巡礼に関わっていたが・・ 結婚前だし、止めておこう・・ そう思った時、コミュウが声をかけて来た。
「 あの男性、マリオンさんのお知り合いですか? 」
「 知り合いて程でもないけどね・・ 歌で言霊を操るんだよ 」私は言った。
「 まあ、言霊を、面白そうですね 」コミュウは言った。
「 一緒に習ってみる? 」私は聞いてみた。
「 私もいいんですか?お願いします! 」コミュウは嬉しそうに言った。
よっしゃ・・ 心の中で呟いた。
フットバスから、オヤジの足を上げ タオルで拭いた。柔らかな綺麗な足だった。
頭部・・ 肩・・ 胸・・ 反射区を指で押す。キーーーン・・ 静かな高い音がした。
横隔膜から、ソーラーフブクサスへ・・ 足の中央の凹みを両手で押した時、風が熾った。
高音の美しい振動に包まれ、私は 静かな光の渦の中心へ、吸い込まれて行った・・
「 これが、オヤジのナディアなのか? 銀河のようなデカさだ 」目を閉じると
私は眩しい銀河系の渦の中にいた。キーーーン・・ 菱形のクルクル回る青い光を眉間に熱く感じた。
ふと目の前に、男が座っていた。
夜のような紺碧の髪の奥から、じっと私を見つめていた。
深い眼の光は、心の奥まで全て見透かしているような・・
射抜かれたように 私は身動きが取れなくなった。
彼の輪郭は微細な金色の光の粒子に包まれ 陽炎のように風に揺らめき立っていた。
そのオーラは・・ 背中から天に向かって長く伸び、上の方は薄くなって消えた
まるで大きな輝く翼のように・・ 金色の翼だった。
「 ウリエル・・ 」
私は彼を知っていた。ヒエラルキーが・・
私が思ったのか?誰かが言ったのか?思い出せない。
思考を取り戻した途端、ギャアーーーーーー!!女の悲鳴のような金属音に
頭が切り裂かれそうになった。
フラッシュバックが起こり・・
気が付くと、私は彼の腕の中にいた。
側には 炎が見え・・ 全て破壊尽くされていた。
「 ・・・何故?・・ 」ウリエルは女の名前を たぶん私の名前を呼んでいた。
どうやら私は、死んでいくようだ・・ 身体は暴行を受け、血だらけで骨も砕けていた。
ずぶ濡れだった。
思い出した・・ 森に棲む私は 魔女狩りに遭ったのだ。そして湖に沈められた・・
彼は 私を助ける為、焼き討ちに遭う前に 逃がそうとしたのだ。・・ しかし、私はここに留まる事を選んだ。
「 ・・・ 何故?・・ 」ウリエルは私を抱きしめ、何度も尋ねた。
陽気な村人達は いつも森を訪ね、私に色々な相談を持ちかけて来た。
癒し、愛を育み、導き・・ 私は彼等と穏やかで幸せな日々を過ごした。
私は村人達を 愛していた。
ある日・・ 女神信仰異端の嵐が吹き荒れた。
恐れに憑りつかれた 人間の狂気は恐ろしい・・ 従順で親切だった村人達は 暴徒と化した。
手に手に、斧や棍棒を持って襲って来た。
「 魔女め!悪魔め! 」「 俺達を騙してたな! 」「 汚らわしい悪魔め! 」
男も女も子供も、唾を吐きかけ 石を投げつけた。
ガボガボガボ・・ 肺に水が流れ込み息が出来ない。頭上の揺れる水面に 人々の狂喜の叫びが聞こえた。
薄れる意識の中で・・ 私は思った。
「 何故・・人の心は あんなにも病んで行くのだろう? 何故・・ 己を信じれなくなるのだろう? 」
私は 人間を知りたかったのだ。それで ここに残る事にした。意識の闇の世界に
ウリエルは私を抱きしめ 尋ねた「 ・・・ 何故?・・ 」
私は、最期の息で彼に言った「 闇では・・ 闇と共に 」
~ 32 ~
私は 魅惑するために力を与える
受容性を指揮しながら
輝きという 倍音の音とともに
私は 永遠の出力を確信し
スピリットの力に導かれる
輪廻という同じ時を回し
ダルマに向かって起動し始める
ゾディアック
同じ宇宙に 同じ時間はない
私は銀河の中心にいた。
「 この前渡した 象形文字は見ましたか? 」突然オヤジが言った。
「 え・・ ああ、見ました 」トリップしていた私は 気を取り直し答えた。
「 丸や三角や四角に 棒や点が入り・・ 不思議な図形をしていますね 」
「 言霊の文字です。宇宙の運行や、天体の相関関係、また人との関わり合いなど・・ 存在する全ての 氣のエネルギーの流れを表しています 」オヤジが言った
「 螺旋の渦巻く宇宙ですね・・ 」私は言った
「 あなたは、解っているのですね。あれにメロディを付けて歌うのです。次はいつにしますか? 」オヤジは言った。
「 それなんですが・・ 他にも一緒にやりたいっていう子がいるんですが、構わないでしょうか? 」
「 ええ、大歓迎ですよ。一緒にやりましょう 」オヤジは喜んで言った。
「 では、女神島で来週あたり・・ 如何でしょう? 」
「 おお、いいですねえ!女神島は最高の場所です 」オヤジはすっかりご機嫌だった。
受付のテーブルで、ドリンクを出す時 オヤジは私に言った。
「 人のエネルギーが、替わる所を見なさい。同じ人間でも・・ 突然 入れ替わります。風が変わるのと同じように・・ 」
「 人のエネルギーが 入れ替わる? 」私には 意味がよく分からなかった。
あの時も・・ 魔女と呼ばれていた時代、ウリエルは私に教えた「 森に吹く 風が変わった」と。
「 逃げろ 」私の側には いつも黒猫がいた。ウリエルの媒体だった
あの猫はどうしただろう・・ そう思った途端、青いスパークが起こり・・ 森の中 焼け落ち燻る瓦礫が見えた。
私の遺体の側には、血みどろの黒い毛玉が 寄り添うように転がっていた。
「 あの猫だ・・ 」涙がこぼれ落ちた・・ しかし、ウリエルが今世 使って来た媒体には かなり無理があった。
「 何故?・・ウリエル 」私は 思わず声に出た。
「 はい?何ですか? 」オヤジは言った。
コミュウとナアナと共に 船で女神島へ 向かった。
「 どんな人なんだろうね 」ナアナが言った。
「 笑顔の素敵な紳士でしたよ 」コミュウが答えた。
「 そうなの?マリオン 」ナアナは期待に満ちた声で聞いて来た。
「 う、うん・・。まあ、美声の持ち主だよね・・ 」私は何故か 後ろめたさに心が痛んだ。
オヤジは 待ち合わせの場所にもう来ていた「 やあ、こんにちは 」
「 こんにちは、初めまして! 」ナアナとコミュウは 笑顔で挨拶を交わしていた。
「 じゃあ まず、お茶でもしましょうか 」オヤジは言った。
「 出たな・・ 」私はナアナとコミュウの後ろに隠れながら小声で言った。
「 ここのケーキは美味しいんだよ 」
「 まあ、女神島には よくいらっしゃるんですか? 」コミュウが言った。
「 そうだね、ここは女神の神秘を感じるパワースポットだからね 」