ゾディアック 3
扉の横には 窓が付いて、店側からは鏡になって 中の土間は見えないが
土間からは 店の様子が伺えた。
昔は土間でパンを焼き、この鏡窓から客の動向を見て、焼き立てのパンを店へ運んだそうだ。
「 いい香りがしますね・・ 」私は鼻にツンと抜けるようなアロマの香りを感じた。
「 ああ、これはランプで炊くアロマなんです。ケランスのアロマランプです。
私はこの美しいフォルムや細工が大好きなんです 」ラムカはうっとりしながら言った。
突然 ラムカの顔が、あの前世の若い貴族の男とダブって見えた・・
顎に手を当て話す癖や 眉間にしわを寄せて見る鋭い視線は全く同じだった。
「 彼女は、この部屋を何かに使えないかと考えているんです 」ビスティが言った。
「 あ、でも、今調子が悪くて・・ とてもそんな気分じゃないんです 」ラムカが遮った。
確かに ラムカの顔色はあまり優れなかった。
彼女の首から上の周りに 暗い影が掛かっているように見えた。
「 では、今度うちにセラピーにいらっしゃいますか? 」私はラムカに聞いた。
「 はい、是非お願します!もう1週間以上も身体が重くて、偏頭痛が治らないんです。
医者に行っても原因が分からなくて・・ 疲れだろうとしか言われませんでした。 」
まあ・・ 医者なんてそんなもんだ・・ 私は思った。
「 マリオンさんに昨日見えたのは、この絵ですか? 」ビスティが塔の絵を指さしながら聞いた
「 ケランスの塔。 ここに来て何か分かります? 」
私は暗がりの中 鏡窓をじっと眺めていた。
キーーン・・ 小さな耳鳴りが 深い闇の奥から・・ 僅かに聞こえて来た。
何かが、じっと息を潜めて こちらを伺っていた。
ふと、鏡の奥に視線を感じた。 鋭い目が、鏡の向こう側から じっとこちらを見つめている。
いきなりフラッシュバックが起こった。
急に辺りは明るくなり、私は 煌びやかなシャンデリアの光に包まれた。
美しいガラス細工がキラキラ輝き、あのランプもテーブルの上に置かれていた。
沢山の人の声や雑踏、管弦楽の演奏が聞こえ、豪華な衣装を身に纏った宮廷貴族達の
華やかな舞踏会が開かれていた。
「 ここは何処だ? 私はラムカの店にいたはず・・ 」概念がまた騒ぎ始めた
「 鏡!鏡の窓を見ていて・・ 誰かと目が合って。そしたら・・ 」
キーーン! 耳鳴りがして 気が付くと、私は鏡窓の反対側に立っていた。
ここは・・ シャロン城、ケランスにある美しい城だ。私は鏡の中から
外の華やかな舞踏会の様子をじっと見ていた。
ラムカの 前世のあの若い貴族の男だった。
顎に手をやり、眉間にしわを寄せ・・ 舞踏会に来ている貴族達を、じっと鏡の中からチェックしていた。
彼は 給仕に指示を与えると、給仕はある紳士にそっと近づき、小さな手紙をこっそりと渡していた。
ラムカは秘密情報をやり取りするスパイのような役割を、パーティの中で行っていた。
彼は裏の世界と繋がる秘密結社だった。度々行われる舞踏会が その舞台となっていた。
「 そうか・・ 」思った途端、急にまた辺りは暗くなり、
私はラムカの店で暗がりの中 鏡窓をじっと眺めていた。
「 分かりました。ラムカさんは・・ 前世、ケランスのシャロン城のコンシェルジュでした。
今この部屋にあるような 鏡窓を覗いて、貴族達と秘密裏の取引をしていました。秘密結社です。 」
私の言葉に2人は、驚いて顔を見合わせたが・・ 暫くして
「 なるほど・・ 確かに私は 父がパン屋をしてる頃 この鏡窓の奥から人を眺めて 人間観察をするのが好きでした。
そう言われても、不思議と違和感がありません。 」ラムカが言った
「 私は?マリオンさん、私には何か見えましたか? 」ビスティが聞いた
「 ビスティさんは・・ 海賊でした。海を自由に航海し異国の宝物や情報を集めては シャロン城の地下部屋で
ラムカさんと会っていました。ビスティさんも秘密結社でした。 」
私の言葉にビスティは興奮し
「 まあ、素敵!私は海を自由に駆け廻る冒険家だったのね!確かにエジプトにも凄く憧れるわ.! 」
いや・・ 海賊だけど・・.。私は思ったが やめといた。
キーーン・・! 耳鳴りが強くなり、ラムカの背後にまた 漆喰の闇が渦巻く宇宙が見えた。
彼女には まだ何かがあった・・
「 では来週、マリオンさんのお家にホットストーンセラピーを受けにお伺いしますね。
どうぞよろしくお願いします。 」ラムカが言った
「 はい、お待ちしていますね。 」私は2人に別れを告げると車に乗った。
外はもう日が沈みかけ、西の空に 宵の明星がひときわ明るく輝いていた。
~ 24 ~
決して気のせいではなく
常識的に知っているこの世界は 一部分でしかない
私たちは狭い現実の中に住んでいる
多次元の世界が交錯する・・
「 彼らはおきている時は、ボー・・ と彷徨っているようです 」
「 ここ ( 頭 ) を いじるだけじゃダメなんだよ 」
Dream dreamer
私達は ここでは半分眠っている
私は 店に着くと カヨを探した。カヨは受付に座っていた。
「 カヨ!分かったよ、一昨日あんたに見えたケランスの塔が!昨日出逢った人の店に飾られてた。
その人の前世にもケランスが見えたよ! シャロン城のコンシェルジュだった 」
カヨは ポッカーンとして言った
「 はい?ケランス?シャロン城?コンシェルジュ??なんです?? 」
「 だから! あんたに一昨日見えたケランスだよ! 同じ物が昨日あったの!! 」私はイライラして言った。
「 マリオンさん・・ 怒んないで下さいね、 私には何の話だか・・ 」
「・・ 何で?あんたに見えた物だよ・・ 前世の話も信じてくれたのに・・ 」私は何も言えなくなった。
「 信じてますよ!私と彼の前世も。だけど・・ 同じ物が見えたらいいんですけど・・
マリオンさんと 同じ物が見えたら、きっと私も信じる事が簡単なんですけどね 」カヨは困ったようにその場から立ち去った。
そうだ、ナアナだ。私は昨日あった事をナアナにメールした。ナアナなら分かってくれる!
すぐ返事が来た。「 凄いねー!そのパン屋さんだった店、うちの近所だよね。今度紹介して!
今、スピリチュアル誌を発刊してる人の仕事を手伝ってるよ。この前スピコンで会ったUFOおじさんの取材も行くよ!
また何かあったらメールするね 」
ナアナはスピ系の人達と かなり知り合いになっていた。
私は何だか・・ 置いて行かれるような・・ 前世の少年の心が疼いた。
9月に入り、日が暮れるのも早くなってきた。
車を飛ばして帰っていると、東の山の上空に 菱形に並んだ4つの星がピカピカ輝くのが目に入った。
「 あの星は・・秋の四辺形、ペガサス座だ。あんなに光ってる 」じっと見ていると
私の眉間にも クルクル回る光る菱型が浮き上がるのを感じた。
光る菱型は高速回転し 眩しさが増して行くと 眉間の奥が
後頭部に突き抜けていくような感覚に襲われた。
静かな無音の美しい音、ナディアが聞こえた。
実際に音は聞こえていないのに・・ 聞こえると強く感じ、光も見えると強く感じた。