ゾディアック 3
離れていても、心は彼と共にあり 彼のマインドの地獄に寄り添っていた。
「 私の愛は永遠にあなたを愛している・・ 」彼は自分でマインドに打ち勝たねばならなかった、カヨの愛と共に。
もうすっかり夏になったある日 蒸し暑い夕暮れ時、私は車を飛ばしてバイパスを走っていた。
道は夕方のラッシュ時と重なり、混雑していた。
「 あの角を曲がれば、住宅街で道もすいている・・ 」思った瞬間
いきなり罵声が聞こえた。
「 おまえは嘘つきだ!愚劣で卑怯な悪魔め!おまえなんか死んでしまえ!地獄へ堕ちろ!・・ 」
頭が割れそうな程痛くなり吐き気がした・・
同時に別の声がした
「 愚か者。罵る事しか出来ぬ弱き者。私の鋼に絶ち消える・・ 」
キーンと響く高音のガラスのような透き通る声が 罵声の相手を退けた・・
一瞬、柑橘系の香りがした
二つの相反するエネルギーに ギャーーー!!甲高い耳鳴りが響き 頭は割れそうだった
突然、前を走る車が 急ブレーキを踏んだ!目の前の車を間一髪でかわし、追い越し際に見ると
2台の車が道路の真ん中に止まって、運転手が外で言い争いをしていた。
「 車道の真ん中で? そんな馬鹿な・・ 」思った瞬間、また声がした
アナタヲ トルカ? ワタシヲ トルカ?
さっきの高音の透き通る声が
「 あなたを取るか・・て、あんたの事?私を取るか・・て、私?え??あんたは誰? 」
私は混乱して繰り返した。頭がグルグル 今起こった事を理解しようと始めたが
ずっと自分のしっぽを追っかけ回していた・・
翌日、カヨがやって来た。
「 マリオンさん、彼氏から連絡が来ました!! 」やつれて頬がこけた顔に笑顔が戻っていた。
「 昨日、夕方両親と言い合いをしたそうです。病気だと言って入院させようとする親に、彼がマリオンさんの話をして・・ 」
昨日・・ 私に罵声と高音の声が聞こえた時間だと思った。
「 自分は前世の痛みと戦っているだけだから大丈夫だと親に言ったら 前世の話などするヤツは詐欺師だ おまえは騙されていると
両親に逆上され酷く罵られたそうです。・・そしてやっと解ったそうです。
修道女だった最期の時、身体の痛みや恐怖心よりも、兵士に罵られた言葉に、一瞬 自分の信じる心を疑ってしまった事を・・
それが一番、自分にとって恐ろしかったのだと。そして最後に会った時の私の言葉を思いだし・・
私の愛が永遠にあなたを愛してる。まるで 息を吹き返したように、恐怖心が消えて行ったそうです 」
カヨは嬉しそうに泣いていた。
2人はやっと出逢えた。
遥かな時を超えて
星を目指して歩き続けた 聖堂騎士は、今、修道女の元へ還ることが出来た。
今日は夏至だった。
アナタヲ トルカ? ワタシヲ トルカ?
あれは 男の声だった・・ ルシフェルでは無い・・アリエルでも 女神でも無かった
あなた・・とは投影で見る外の状態 猜疑心や恐怖心を取るのか?
私・・ とは何にも依らない 自分の信じる心を取るのか?
意識に自分を選択させる言葉だった。
ヤツもきっと天使に違いない 誰なんだろう
柑橘系の香りが ほのかに匂っていた。
~ 20 ~
アイシテル・・ アイシテル・・
私はいつも アイシテル
あの夢を見ていた、
13歳の私は 誰かの背中に摑って 雲の上を飛んでいた。
風になって・・
「スーと行くよ」彼は私にそう言った。
青に立ち典る 至高の不可視を行く
どこまでも続く 深く青い空が広がっていた
「光が色に分かれて生まれてきた・・」
声がした
「様々に変容しても
魂の本質は同じ 光」
声のする姿を見ようと 私は摑まった背中から少し離れてみた
輪郭が微細な光の粒子に包まれ 陽炎のように風に揺らめいている
そのオーラは・・ 背中から天に向かって長く伸び、上の方で薄くなって消えていた
まるで 輝く大きな翼のように・・
これは前にも見た事がある。ルシフェルだ!月光の翼を持っていた。
しかし今 目の前にいる姿は ルシフェルのそれとは少し違っていた
青い空を背景に 明るく眩しい 光輝く彼は・・
彼は・・
私は思い出せそうで、どうしても思い出せなかった。
そして もう一度よく見ようとしたが、近すぎて
姿がぼやけ よく見えなかった
声は続いた
「 光が色(チャクラ)に分かれて
地球(肉体)にやって来た
スピリット (光) が 自分という状態を
器 (肉体) に入って体験したかったから
人は世界を愛する為に生れて来た
何千年経っても 闘争が終わらないのは
愛されていることが分からないから
愛し方が分からない!!と、
迷子が いつまでも駄々を捏ねている・・
この世界 (器) は 全てを生かしている
存在する事は もう愛されていると
同じ事なのに 」
私は 目を覚ました。
「 今、誰と話していたんだろう・・ 」
夢の中で 誰かと話ていた。
光り輝く朝陽のような、眩しい姿の
柑橘の匂いが ほのかに香っていた・・
サロンに着くと、カヨが受付に座っていた
「 おはようございます!マリオンさん 」
すっかり元気になって幸せそうだった。2人は婚約していた。
「 おめでとうカヨ。新婚旅行はケランス? 」私が聞くと、
「 いえ、まだ何となく怖い気がして・・ でもいつかは2人で行ってみたいです 」
カヨは躊躇しながら答えた
意識はマインドに怯える。 生きている限り マインドは無くならない。
今の人生で、瞬間 瞬間の自分を選べばいい
その為の マインドは道標になる
あの夏至の日、カヨの彼氏が自分のマインドに打ち勝ったように・・
瞬間 瞬間 アイシテルを選べばいい
「 あなたを取るか? 私を取るか? 」そう言った・・ あの天使は・・
「 アイツの名前は誰だっけ・・? 」私が言うと
「 え?アイツって? 」カヨが驚いて聞き返した
「 ああ、何でもない・・ 」その時 カヨの頭上に 赤と青の旗と塔が見えた
「 あんたに、赤と青の旗が見える・・塔も・・これってケランス? 」私が言うとカヨは
「 ええ?何なんですか・・またぁ・・ 」勘弁してくれと言わんばかりに、席を離れて行った。
ミオナがやって来た「 マリオンさん、明日でちょうど1年ですね 」
「 1年?・・何かの記念日だっけ? 」私が聞くと
「 去年 月食を見てから 明日でちょうど1年なんです。早いですねー
月といえば・・ 面白い雑誌を見つけましたよ! 」
表紙に大きな月の絵が描いてある 占い系の雑誌だった。
ミオナは以前 私に数秘占いの本を見せて 今、色々ハマッテているらしい。
ミオナの出して来た雑誌には、鳥や動物や人間や鍵の形を並べた文字が載っていた。
「 これは古代エジプトの象形文字で ヒエログリフって言うんです 」
「 へー、面白いね!ヒエログリフ・・ 」それを見た時、私は不思議な感覚に襲われた・・
幻覚が現れ
赤い砂嵐の中で 誰かが呼んでいた
目を閉じると・・ 石の椅子に腰かけた 私の足元に 細い月が映って見えた
「 自分の名前を ヒエログリフに出来るんですよ 」ミオナが言った。