ゾディアック 2
私達の車に暫く並走して飛んでいたが、街に着く頃には 何処かへ消えてしまった。
UFOを呼ぶおじさんに逢ったからなのか・・ ナアナとのエジプトの前世を見たからなのか・・
分からないが 確かにUFOはいた。
何かを隔てていた壁が崩れ落ち・・ そこから新しい風が吹き込んで来るのを感じた。
何かが変わろうとしていた・・ もうすぐ冬至だ。
~ 15 ~
砂塵が舞い上がる・・
青い月の砂漠を、ラクダに乗って 何処までも走った
夜明け前には 戻らねばならない
私はラクダを駆った 速く速く!もっと速く!!
大きな月が傾くまでに
後ろには、キラキラ揺れる装飾の付いたベールを
頭からスッポリ被った少女を乗せていた
ラクダのコブが揺れる度 彼女の腕や首に巻いた飾りが
シャンシャンと美しい音色を奏でた
私は彼女の音色や 威厳に満ちた声
身体から匂い立つフランキンセンスの芳香が好きだった・・
私は彼女の全てが好きだった
月に照らされ波打つ砂漠を 何処までも2人走り続けた
夜のイシス神殿にもぐり込み 女神の巨像に祈りを捧げる
2人だけの秘密
砂塵は舞い上がる 高く雲の彼方へ
遥かな星を越えて 遠く
時の果てまで・・
古より呼魂する
女神の思し召しにより導かれる者達を
人は それを運命と呼ぶ
目が覚めた「 夢か・・ 」
昨日の退行催眠で見えたナアナと私のエジプトの前世だった。
目を開けても まだ頭上に青い光がクルクル回っているのが見えた気がした
「 あれは青い星?それとも・・あの少年の鷹 」私は天井を見つめた
車に乗ってキーを回すと、キュルルル・・・
エンジンがかからない、何度回してもダメだ。
今朝の寒さでバッテリーが上がっていたのだ。
「 出掛ける時になって・・ 」私は舌打ちをしてドアをバン!と閉めた。
10年は乗っている年季物に加え、常にエンジン全開で走っていた代償がこれだ・・
私は急いでチャリに乗り替え、全力でペダルを漕いだ。
「 10分で着けば何とか電車に間に合う!! 」
チャリでもタイムアタックをしていた。いつも急いでいる、何に乗っても・・ 性分だ。
きっと過去世からの
坂を猛スピードで下り 車の間をすり抜けた。
プワワアー!クラクションを鳴らされながら車道を横断する
歩行者をかわしながら駅に入ると、キキィー!錆びたブレーキを軋ませ駐輪場にチャリを乗り捨てた
ジリリリリ・・発車の音と共に 電車の中に滑り込んだ
「 ハアハアハア・・間に合った 」肩で大きく息をしながら、心臓は張り裂けそうだった
間に合った安堵感と、電車内の暖房の暖かさに急に睡魔に襲われ
私は微睡みの中に堕ちていった。
気が付くと 目の前に黒服の男性が立っていた。
私は前のめりになっていた自分の体を起こし座り直した。
「 今どこら辺だろう・・ 」そう思った時、右隣に座っていた女性が
いきなり私の前に手を伸ばして来て、前に立っている黒服の男性の
腹の辺りをゆっくりと、時計回りに摩り始めた。
でも実際には触っておらず、摩る真似だけを何度も繰り返した。
異様な光景に眠気も覚め、私は思わず隣の女性を見た。
大きなつば広の黒い帽子を被り黒いワンピースを着た 無表情な女が、
無言で男性のお腹の辺りを 時計回りに摩る素振りを続けた。
黒服の男も女性の前に立てばいいのに、何故わざわざ私の前に立っているのか・・
全く意味不明だ。「何?」私が言いかけた時、今度は黒服の男が
私の眉間の辺りに向かって、何かボールのような物を投げ込む真似をした。
私は硬直し、一体何が起こっているのか理解しょうとした・・ 意識は混乱していた。
黒い女と黒い男は 何度もその行為を無言で続けた
私は助けを求めるように 周りの客に目をやったが、誰も皆この異常な光景に気づいてないようだった。
まるで見えていないかのように・・
私は諦め 黒い男が 私の眉間に何かを投げ込む手を見つめた
その時、反対側の 私の隣に立っていた黄色いTシャツの男性が
「 あいつの名前は誰だっけ? あいつの名前は誰だっけ? 」と言った。
私に言っているのか?
私は 投げ込む手を見つめたまま・・ 私の周りだけ時間が止まっているような気がした
電車は何事も無いかのように ガタタン!ガタタン!揺れながら走り続け
「 次はミョージン、ミョージン、お降りの方は・・ 」とアナウンスが流れた
私の降りる駅だ!呪縛から解かれ立ち上がると、私は逃げるように電車を降りた。
「 たまに乗ったらこれだよ! 」私はボヤキながら自分の運を呪った。
時間はギリギリだ、私は駅を走り抜け 直結するショッピングモールに入った。
「 あそこを曲がればすぐサロンだ!何とか間に合いそう・・ 」走り込んで
角を曲がった途端、人にぶつかった
「 あ!ごめんなさい 」私は落ちた相手の荷物を拾いながら顔を上げ、再び固まった
「 こちらこそごめんなさい。前をよく見てなくて・・ 」大きなつばの真っ黒い帽子を被り
黒いワンピース姿の女性がニッコリと私を見て笑った。
「 さっき電車にいた黒い女だ!! 」私は唖然として彼女を見つめた
黒い眉に、目の周り全体を縁取るように黒のアイラインを引いている
女は独特の雰囲気をしていた「 まるでカラス・・ 」
私の様子に彼女は「大丈夫?何処か怪我した?」と聞いて来た
「 あ、大丈夫です。ごめんなさい! 」私は我に返りその場から走り去った
こんな事ってあるのだろうか・・ あの黒い女は確かに電車に乗っていたはず
瞬間移動?私の思考はグルグルと答えの無い迷路を回り続けた。
着替えて受付に出ると、カヨが待ち構えたように声をかけて来た。
「 マリオンさん、この前はありがとうございました!彼氏とは
あの後仲直り出来ました 」
久しぶりに本来の明るいカヨに戻っていた。
「 よかったね!カヨ、2人は運命で繋がってるんだから
何があってもきっと大丈夫だよ、信じて 」
言いながら・・私はメリエスやあの魔女と同じ事を言ってるな・・と思った。
ダイジョウブ アナタハ マモラレテイマス・・
「 はい。不思議な事に 彼氏に過去世一緒だった話をしたら・・否定もせず黙って聞いていました。
あなたが私を信じれないのは、あの時の約束を私が果たせなかったからだって・・ 」
カヨは続けた
「 彼氏は信者でも無いのに、何故か十字架が好きで拘りがあると言ってました。
自分が女だった話も違和感なく聞けたそうです。
私自身も思い出したんですが・・子供の頃 聖十字ガールスカウトっていうのに入っていました。
ケランスにも何故かずっと行きたいと思っていたんです。・・ゴンチャス巡礼を護る聖堂騎士団があった国ですよね? 」
カヨは自分でも 聖堂騎士の歴史を調べてみたらしい、ゴンチャス巡礼・・何処かで聞いた事がある
そうだ!あの時、カヨの前世が見えた時、ナアナがメールして来たポスターの名だ!
「 何故か今 ゴンチャス巡礼のポスターが目の前にあるよ 」
何故、ナアナが知っていたのだろう・・ いや正確には ナアナの意識は知らずに
あの時違う場所であのポスターを目の当たりにして、あの瞬間に送って来た。