鐘の鳴るとき
第六章
2本目のワインもすっかり空になっていた。
今はヨレヨレが棚の上から持ってきた日本酒を2人で飲んでいる。
視界が回り始め、立ち上がるのも困難になっていた。
「にいちゃん、ろへつまわってないよ〜。」
「いやいや、おじさんもまわってないから。」
お互い何を言っているのかわからなくなり、それでいて何を言っても笑いが止まらなかった。
ヨレヨレは頭を支えているのも困難らしく、ガクッと下にうなだれては再び体制を整わせグラスを空にするのだった。
ヨレヨレが持ってきた日本酒も空になった。
「おっ、新しいの持って来なくちゃ。」
そう言ってフラフラと立ち上がるとヨレヨレは日本酒のビンがある棚に向かって歩いていった。
そしてその瞬間、前のめりに突然倒れ頭を棚に激しく打ち付けた。
突然の光景と大きな音に僕は固まった。
そしてすぐにヨレヨレの方に駆け寄った。
顔をついた畳の周りには血が飛び散り、白い歯が何本が散らばっていた。
僕はヨレヨレを仰向けに寝かせると肩を揺さぶり意識を確かめた。
だが、ヨレヨレは眠ったように目を閉じたままで返事をしなかった。
顔は蒼ざめ額は切れて血が滲んでいる。
口元に手を当てると幸い息をしていることに気が付いた。
僕は震える手で携帯を取り出し119番を呼び出した。
救急車のサイレンが鳴り響いている。
僕は救急車の中で横たわり治療を受けるヨレヨレの横に座りその一部始終をただじっと見つめている。
手の空いた救急隊員の1人が僕の方を向いて口を開いた。
「あの、患者さんのお名前を教えて頂けますか?」
「名前ですか?えっと、すみません。わからないです。」
隊員は怪訝そうな顔をした。
「えっとそれじゃ、患者さんとはどういう?」
僕は苦しげに眠るヨレヨレの顔を見つめながら
「友達です。」と答えた。