鐘の鳴るとき
最終章
静まり返った暗い病室、白いシーツに仕切られたベッドの上にヨレヨレが横たわっていた。
窓の外から差し込む僅かな月の光が額に包帯を巻いたヨレヨレの顔を蒼白く照らし出している。
僕はベッド脇の椅子に座り、ヨレヨレの寝顔を見守っていた。
治療と検査の結果、脳に異常はなく、ただ額の表面が切れて出血しただけだという。
眠っているのはただ単に飲み過ぎということで、安静にしていれば問題ないと担当医は淡々とした口調で僕に語った。
その言葉を聞いた瞬間僕は安堵感に包まれると同時に飲み過ぎという言葉に思わず口元を弛めてしまった。
確かに飲み過ぎた、僕の方はすっかり酔いが醒めてしまったけれど。
時計に目を向かわせる。
時刻はもうすぐ0時を迎えようとしていた。
僕はうつむいてとんだ年越しだなと心の中で呟いて苦笑する。
そのとき視界の先でヨレヨレの手が微かに動いた気がした。
僕は驚いてヨレヨレの顔に視線を移した。
ヨレヨレはゆっくり瞬きをすると不思議そうに周りを見渡した。
僕に気が付いたヨレヨレは「おう、にいちゃんか。ここ病院?」と僕に尋ねた。
「うん、倒れて頭ぶつけて救急車だよ。」と僕は苦笑して答える。
「頭打ったんか。迷惑かけたな、すまん。すまん。」
ヨレヨレは頭の包帯を撫でながら言った。
「大丈夫だよ。そんなことより体調は大丈夫?」
「ああ、大丈夫。じゃっかん二日酔いだけど。」
と言いながらヨレヨレは少し笑った。
そしてヨレヨレは何か思い出したように上半身を起こして僕の顔を見た。
「もう年明けだよな。あけましておめでとう。」
「惜しいけど、まだ早いよ。」
2人して笑うと窓越しに除夜の鐘が響き始めた。
完。