鐘の鳴るとき
第四章
ヨレヨレの後に続いて通りのわき道を進んでいくと古い木造のアパートにたどり着いた。
黒ずみ至る所に傷がついた表の扉を開くと長い廊下と平行して部屋番号がついた扉が4つ並んでいる。
「悪いけど、ここで靴脱いでね。」
と言うとヨレヨレは自らの靴を脱いで廊下に上がった。
僕も靴を脱ぎヨレヨレに続く。床が軋む音が歩くたびに聞こえる。
左手にはまた扉があって消えかけた文字でトイレと書かれている。
トイレは共同で使っているみたいだ。
ヨレヨレは奥から2番目の扉で立ち止まるとポケットから取り出した鍵で扉を開けた。
「さあ、どうぞ、どうぞ。きたねえ部屋だけど。」
「おじゃまします。」
僕は少し緊張しながらヨレヨレの後に続いて部屋に入った。
他人の部屋に入るなんてそれはもう久しくない経験だった。
2.5畳ほどの広さの部屋の中央にはコタツが置かれていて、その前方には小さなテレビが小さな棚の上に置かれている。
テレビの横にはなぜかコケシの人形が置かれていて思わず微笑んでしまった。
右手には押入れが、左手には大きな窓とその脇に小さな冷蔵庫が置かれている。
そして天井には蛍光灯ではなく剥き出しの電球が暖かな色を放ってぶら下がっていた。
ヨレヨレは部屋の奥に進むと棚から2つコップを取り出しながら
「座って座って。コタツ、電気入れっぱなしだから。」とコタツを指差した。
僕は座るとコタツの中に足を入れた。
暖かさが足の奥から腰にかけて伝わっていく。
そして冷たく固くなった手もコタツの中に入れた。
「それじゃ、さっそく飲み始めましょか。にいちゃん。」
そう笑顔で言うとヨレヨレはコタツの上にコップを2つ置いた。
「とりあえず、このワイン飲みましょう。」
と僕はコンビニの袋から2つあるうちの1つの白ワインを取り出した。
「いいね、ワイン。俺はいつもビールか日本酒ばかりだからさ。」
ヨレヨレが僕の左手に座りコタツに入りながら言った。
ワインの栓を抜き、2つのグラスに注いでいく。
白みがかった透明な液体が部屋の光を反射しながらグラスを満たしていった。
注ぎ終えると片方のグラスをヨレヨレに向かって差し出す。
「あけましておめでとう!!ってまだ早いか」
ヨレヨレがおどけて笑う。僕もつられて笑ってしまう。
そして2つのグラスを重ねて乾杯した。
「乾杯。」
「乾杯。」
外の寒気によって冷やされたワインはとても美味しかった。
グラスを置くともう半分以上なくなっていた。
ヨレヨレの方のグラスといえばほとんどなくなっていた。
僕はヨレヨレのグラスに再びワインを注いだ。
「そんなに最初からトバしていくとすぐ潰れちゃうよ。」
「いや、ちびちび飲むなんて酒じゃねえ。男ならぐいっといかなきゃ嘘だろ。」
そう言ってヨレヨレは2杯目のグラスも一気に飲み干した。
ヨレヨレの潔い飲みっぷりに負けじと僕も一気に飲み干した。