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ゾディアック

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僕らはお互いを分かりすぎていた 初めて出逢った瞬間から
その後の出来事は もうどうでもいい・・
すべて過去だ 何もなかったと同じ 僕の遠い記憶だけだ 」


「 マリオン大丈夫? 」ナアナが聞いた。
「 ああ、うん。この階段眩しいね・・ボーとしちゃった 」
私はカラカラ車輪を回しながら言った。
「 もう少しだよ頑張ろう!あの門に上がれば 観音堂だよ 」

ボーデー ボーデー・・ ハーラー ボーデー
ボーデー ボーデー・・ ハーラー ボーデー

石像達は頻りに唱えていた。
薄暗く影を落とす木立に並ぶ石像と 私達が登る陽に照らされた石段は
対照的なコントラストを映し出していた。
光と闇は 私たちの中に同時に存在している。



~ 5 ~


風に乗って お香の優しい香りが流れてきた
「 いい匂いがするね 」ナアナが言った
「 ほんと、花のような香り・・ 」私も言った
門をくぐると 頭からケープをまとった姿の大きな石像が
私達を出迎え微笑みかけて来た

「 これも観音様?まるで女神のような姿だね 」私が言うと
「 これは南海観音と言って 遠く海を越えて来た異国の・・女神の事だよね。
昔は宗教弾圧で女神信仰を禁じられた時代があったから 観音の名を借りたんだね 」
ナアナが教えてくれた。

寺院の庭は優しい光に溢れ、伽藍に下がった五色の長いリボンが風にはためいて
先に結われた鈴が、チリンチリン・・と美しい音色を奏でていた。
ここでは ゆっくりと時間が流れ、全てが不思議な安らぎの中に包まれていた。

サワサワ・・ サワサワ・・
庭の中央にある大きな桜の枝を風が揺らした。

「 マリオン見て、凄い眺めだよ! 」ナアナの声に振り返ると
私達が今上って来た参道が下に見えた。 正面に女神島の赤い鳥居があり その向こうに青い海が広がっていた。
どこまでも深く吸い込まれそうな青い空と海に 対岸の山の稜線から雲が立ち上っていく。
「 コミュウの家も見えるね。この寺院は女神島の真ん中にあったんだね 」
私達は光の中に立っていた。


寺院の回廊の端に 手を合わせた白い木彫りの観音像が立ち
その正面に闇の戒壇の入り口はあった。
観音の足元には 参道の石段にあったのと同じ筒状の車輪が付いていた。
私はそれをカラカラ回しながら「 闇に降りる前の通過儀礼だね 」と言った。

「 見て、観音様の後ろにも小さな観音様が付いてるよ。1、2、3・・ 33体もあるよ! 」ナアナが数えながら言った。
白い観音像は 木漏れ日に光りながら 私達に優しく微笑みかけていた。
後ろの軒に下がる五色の鈴の付いたリボンが 風に揺れチリンチリン・・と美しい音色を奏でた。

私は この観音が好きだ・・ と思った。
目を閉じると、瞼の奥に眩い光がキラキラ揺らめくのを感じた。

「 見ようとしてはいけない・・
顕在はひとつの魔法 目に映るものは幻。どんなに姿を変えても、大切なものがそこに隠されている 」
ナアナが言ったの?目を開けると、そこには誰も居らず ナアナはもう先に降りて戒壇の入り口に入ろうとしていた。

現象界の天使アリエルは ナアナを媒体として現れる。
風が木を揺らすように・・
その存在は 感じる事でしか確かめられない。
意識が捕まえた!と思っても その瞬間に掻き消えてしまう・・

サワサワサ・・ 高音の優しい 風の囁きが・・

「 ここは意識の闇の世界。外に閉じ込められた五感
状態の次元が真実 頭は使ってるだけ・・ 頭は使ってるだけ・・
観音とは・・ 振動を音と認識する究極のリアリティ・・ 」
断片的にアリエルの声が 私の中で呼霊のように響いていた。


私はナアナの後に続き 左手で壁を伝いながら、狭い漆喰の闇の中へ足を踏み入れて行った。
本当に真っ暗で何も見えない・・ ギッギッ軋む床の音だけが暗闇に鳴り響いた。
今にも何かがぶつかりそうで 先に進むのが怖かった・・ 壁を触る左手だけが頼りだ。
ふとコミュウのお父さんが言った話を思い出した。

「 ヤタカラスは どんな暗い闇の中でもいち速く飛んで、行く者の先を導くんじゃ。
どんな闇の中も・・ どんなに見えない意識の闇の中も 概念に摑まらず導く 」

「 信じろということ? 私のまともな意識・・既成概念に摑まらずに 」私は声を出した。

「 意識は分からないを嫌う。意識がする事はただ一つ。手放すだけ・・
私は何も知らなかったと、それは分かったになる 」アリエルが語りかけて来る。
「 意識が邪魔をしまければ・・ 意識が邪魔をしなければ・・ 」私は繰り返していた。

先を進んでいるナアナの声がした。
「 あれ、この前と違う。観音様の絵が浮かんでるよ! 」
暫く闇を進むと 左手に緑色に光る観音の絵が触れた。
特殊な蛍光塗料で描かれた観音が 闇を進むと月明かりのように
ポウッと灯って現れるように等間隔で描かれていた。

「 この前は この明かりも消えてたんだね。本当に漆喰の闇だったよ 」ナアナが笑った。
「 この闇の世界でも いつも見守ってくれてるんだね・・ 」私は言った「 不可視を進む私達を 」

相対の闇。状態の光。
観音とは 感じる私達の内なる宇宙、状態次元の世界の事だ。
私達が本当に存在する場所、そこでは天使界と繋がっている。


闇の戒壇を抜けると、眩しい太陽の光に包まれ 目が慣れるのに暫く時間がかかった。
外の回廊に上がり、一段高くなった御殿のような奥部屋に 大きな11面観音が鎮座していた。
3メートルもありそうな巨大な観音像は半眼の優しい微笑みを湛えていた。

「 これが千年以上前からある 女神島のご神体だよ! 」ナアナが言った。

部屋全体が優しい氣に満ち溢れ、古い寺院の重苦しい暗さは微塵も感じない。
まるでポッカリこの場所だけが 花の咲いた異空間に浮かんでいるようだった。

11面観音の隣には 1人の僧侶の写真があった。
「 マライダーラだ・・ 」テレビで見たことのある僧侶で顔は知っていた。
「 彼は11面観音の化身と言われてるんだよ 」ナアナが言った。
「 ヘー、アバターってわけね 」

サワサワサワ ・・ チリーン チリーン ・・

風が揺らす鈴の音色と共に またアリエルの高い囁き声が聞こえて来た
「 光が色に分かれて生まれてきた・・ 」

「 光が色に分かれて?どういう意味だろう 」ナアナが言った
「 光が色に分かれて・・まるで人間の身体の中にあるといわれる
エネルギー磁場 チャクラのようだね 」私が言った
「 チャクラって、車輪て意味だよね? 身体の中に車輪があるなんて・・なんか凄いね! 」
ナアナが言った。
「 そう、私たちはいつも車輪を回してるんだよ。どの瞬間もね・・ 」

ここでは 五感が拾うノイズの 耳鳴りや振動を感じない
ナアナと私は久しぶりに 光の静けさの中で安らいだ。



~ 6 ~


風が冷たくなって来た・・
傾きかけた太陽が 木立に長い影を落とし 全てを金色に染めていた。
風に揺れる光と影がダンスをするように

ざわめく木立の間を抜けながら ナアナと私は 足を速めた。
「 最近 日が暮れるのが早いね 」ナアナが言った。
作品名:ゾディアック 作家名:sakura