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ラストメモリー

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 「たくさんあってどれにするか悩んでしまうわ。これはお酒かしら?」
  永遠はピンク色の液体が入ったグラスを顔の前に持ち上げた。
 「お酒、弱いの?」
 ジュリーはすでにほとんど無色の液体を口に運んでいた。
 ワイングラスに入っているから恐らく白ワインだろうと永遠は目星をつけた。
 「わからないわ。私、未成年だもの」
 ジュリーはもう一口飲んでから永遠を見つめた。
 「人間って短い命なのに、どうしてわざわざ楽しみを奪うような決まりを作るのかしらね?」
 永遠はただ肩をすくめた。
 ジュリーはひとつずつ指先で軽くグラスに触れていった。
 「ワイン、シャンパン、アセロラジュース、ピーチカクテル、ウィスキー、牛乳…」
 永遠はジュリーを見つめた。
 「すごい! ヴァンパイアの力?」
 ジュリーがアセロラジュースと言ったグラスに口をつける。
 確かにアセロラジュースだわ。
 ジュリーは肩をすくめた。
 「わたし、触れたものの成分がわかるの」
 へぇーと永遠は頷いた。
 目はクリスチャンを探していた。彼の相手の女性が赤い髪で少しドキッとした。だが予想に反して赤い髪は短かった。
 「イイ男よね」
 「えぇ」
 上の空で答えてから、ジュリーの言葉に気付いて顔を赤らめた。
 「あなた、彼のところに戻りたいんじゃないの? わたしのことは気にしなくていいのよ」
 「いいえ、もう疲れちゃったの。私はヴァンパイアじゃないんだもの」
 永遠はジュリーを見ていたが、ジュリーは下を向き、空になったグラスを弄んだ。
 「…永遠は、どうしてわたしがルークと結婚しているのか、不思議に思わない?」
 恋人かなとは思ってたけど、まさか結婚してたなんて。口が裂けても二人がお似合いの夫婦だとはいえない。
 「彼を愛してるの?」
 ジュリーは鼻を鳴らした。
 「まさか。彼はわたしの財産目当てに結婚したの。あの当時は彼がわたしのことを愛してくれてるんだと思っていたわ」
 ジュリーはため息を吐いた。
 「馬鹿よね。今では財産も食いつぶされて、古いドレスを手直しして着ているの」
 腕を広げてドレスを見せた。
 「離婚したいとは思わないの?」
 永遠は尋ねた。
 「離婚しようがしまいが彼にとっては同じことよ。いつも女の後を追いかけているわ。わたし、永遠にはあいつの毒牙にかかって欲しくないの。だけどあなたは目移りする余裕はなさそうね、彼一筋みたいだから」
 永遠は熱くなった頬を手で挟んだ。
 ジュリーはにやっとして言った。
 「ヴァンパイアを殺す方法があるのを知ってる?」
 永遠は首を傾げた。
 「ヴァンパイアは不死身なんだと思ってたわ。太陽も平気みたいだし」
 「わたし、一度試してみたのよ。でもルークはわたしを愛していないんだって思い知らされただけだった」
 永遠がどういうことか聞こうと口を開いたとき、ブリスがニヤニヤしながらやってきた。
 「すっごくかわいいよな」
 「何が?」
 牛乳のグラスを取り一気に飲み干しているブリスに永遠は尋ねた。
 ブリスの心を射止めたのは誰かしら?
 「かわいいなー」
 会話が成り立たず永遠は眉をひそめた。
 「ブリス?」
 よく見ると足元が少しふらついているようだ。
 「彼、酔ってるんじゃない?」
 ジュリーが新しいグラスを傾けながら言った。
 「ブリス、お酒を飲んだの?」
 ブリスの手が新しいグラスに伸びた。
 「んー?」
 牛乳をぐびぐびと飲み干す。
 「ブリス、聞いてるの?」
 「んー、牛乳を六杯飲んだだけー。あれっ、七杯だったかな? どーでもいいや」
 くすくすと笑うブリスに永遠は目を丸くした。
 牛乳で酔うなんてことがあるの? でもウェアウルフについてよく知ってるわけじゃないし、この様子を見れば…。
 「ほんとかわいい。永遠大好き!」
 「きゃっ」
 ブリスにいきなり抱きつかれて永遠は小さな声を漏らした。
 「あらま、あなたも罪な女よね。イイ男を独り占めだなんて」
 「ちょっとブリス、恥ずかしい。ジュリー、見てないで何とかして」
 ブリスの胸を押してもびくともしない。それどころかどんどん顔を近づけてくる。
 ふわっと体が軽くなった。
 クリスチャンがブリスの襟首を掴んでいた。
 「わたしに喧嘩を売っているのか?」
 「クリスチャン、乱暴なことはしないで。酔ってるみたいなの」
 「そのようだな」
 クリスチャンはぐっすりと眠り込んだブリスを肩に担ぎ上げた。
 「ジュリー、しばらくだな。永遠とはもう意気投合したのか」
 「ええ、楽しませてもらってるわ」
 黙って二人を交互に見ている永遠を横目で見たジュリーは顔をほころばせた。
 「永遠、わたしたちはただの親戚よ。クリスチャンとルークが従兄弟なの、知らなかった? まあ、クリスチャンは言葉足らずだから、仕方がないかもしれないわね」
 クリスチャンはジュリーをねめつけた。
 「君は相変わらずお喋りだな。永遠に余計なことを吹き込んではいないだろうな?」
 「言いがかりはやめてよね。わたしたち女は結束しなくちゃ―」
 「グー」
 ブリスが寝息を立てた。
 「クリスチャン、ブリスをベッドに寝かせてあげましょう」
 永遠はクリスチャンの袖を引っ張った。
 「ああ、そうだな。ではジュリー、また」


 階段を上りきるまでのこり数歩という所で、階上をドレス姿の人影がさっと横切った。
 クリスチャンはドキリとして足を止めた。
 まさか、こんなところまでわたしに付いて来たのか…?
 だが今宵はパーティーだ。ドレスを着た女性はいくらでもいる。
 たとえそれが数世紀前の型だとしても。そして彼女が好んで着ていたものと瓜二つだとしても。
 階上に上がってみると人影は跡形もなく消えていた。
 永遠はクリスチャンの様子には気付かずに、部屋へ先に駆け、扉を開けた。
 彼女はクリスチャンが通るまで扉を支えていた。
 「ありがとう。だが君がそんなことをする必要はないのだぞ」
 クリスチャンは永遠を横目で見ながら通り過ぎた。
 ブリスをベッドにどさりと下ろす。
 永遠は甲斐甲斐しくブリスに毛布をかけてやった。
 「今、何時?」
 部屋の照明は月明かりだけで、彼女には時計の針が見えないのだろう。
 「十二時過ぎだな」
 永遠が小さなあくびをするのをクリスチャンは見逃さなかった。
 「もう眠いのだろう? 招待客のことは放っておいて休もうか」
 「いいの? お父様達に挨拶もしないでいなくなっても」
 クリスチャンはタイをはずした。
 「二人は互いのことに夢中で、我々のことなど忘れている」
 薄闇の中で永遠の顔に笑みが浮かんだ。
 きっと彼女も同じ結論に至ったのだろう。
 「こっちへおいで」
 クリスチャンは窓際のひときわ明るい場所へと永遠を誘った。
 彼女の髪が月明かりに淡く染まる。
 「美しい」
 永遠の口元がほころんだ。
 「本当にそんな気がしてきたわ」
 手袋のはずされた永遠の指が頬に触れる。
 「ねぇ、ヴァンパイアを殺す方法があるって本当?」
 ジュリーの仕業だな。
 クリスチャンは柄にサファイアが埋め込まれた短剣を取り出した。
 「どうしてそんなもの持ち歩いてるの?」
 「護身用だよ」
作品名:ラストメモリー 作家名:Lucia