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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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ワン メイクラブ one make love

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「ああ~、飲んでる。なんか用?」
「一緒に飲まない?」
「いや、今日は昔の同級生とつき合いだ。遅くなるから無理」
「女?」
「いや、あ~、ま~男も一緒。みんなだ・・・」汗が噴き出す。
「そう・・・じゃ終わったら電話して」
「ああ、・・・・じゃまたな」
向かいの席で京子がニタニタしてる。酷い奴だ。

「ほら内緒でよかったじゃない」京子はお絞りで口元を押さえながら笑いを堪えている。極力慌てた振りを見せないで僕は京子に言った。
「バッドタイミングって、こんな時言うんだろうな。まっそういう訳だ。彼女はいますってことだ」
「いいのよいたって、私だって夫がいるから」
「なんだ、そしたら不倫になるのか」
「仕方ないじゃない、やってしまったものは・・」
「なんだか、開き直ってるなこいつ。いつも、やってんな」
「そんなことないわよ。失礼ね」
ふぅ~、僕はなぜだか溜息が出た。男と女という糸はいつも絡んでしまう様に出来てる。あっさり一晩の恋で終わるなんて滅多にないんだな。絡んでこんがらがって、解くのに大変になるのに、さらにいじってしまいたくなる。
絡んだ糸を最終的に広げてみると、誰かが意図して編んだ織物のように綺麗に見える時もある。男と女のタペストリーは複雑なほど人は感動するのかもしれない。あ~きっと京子はいじりたくなったんだな。

「でっ?」僕は手酌で冷酒を注ぎながら京子に聞いた。
「どう、したいんだい?」
「恋人ごっこしよう」京子が前のめりになる。
「大胆だな・・奥様は。しらないぞ」
「二人で内緒。内緒の秘密って楽しいじゃない」
「どうした?なんか嫌なことがあったのか」どうも疑ってしまう。
「いいの、いいの気まぐれだから。つき合ってぇ」
「女性から押し倒されるのもどうしたもんかな。下半身動かね~ぞ」
「品がない男ね~。ロマンチックがしたいのよ」
「ロマンチック?中年の?」
「うん・・・いけない?」
「いや、いけないことはないけど得意だし・・・」僕はもう一杯冷酒を喉に流し込んだ。
「ほら、この前はとっととホテルに行ってしまったじゃない。あんなんじゃなくて二人で夜の街を歩きたいのよ」
「中年の徘徊か?」馬鹿な事を言いたくなる。
「何よ、その言い草。まだまだ、若いし・・・」
「どこが?」
「どこもかしこもよ。知ってるでしょ?」
「なんだ?そうだったかな・・・忘れた」
「酷い人・・・」
京子の少し緩んだ腹を思い出した。でもこれは黙っておこう。
それから僕達はもう一本冷酒を貰い、少しばかりの酒の肴をつついた。
どうやら毎日に飽きが来て、相方の旦那もおもしろくなく刺激が欲しい毎日が続いていたということだ。

安定を求める蟻の生活は毎日行儀よく暮らさなければならないので肩がこる。京子は蟻の家の中で暮らすキリギリスなのだろう。時々羽目をはずさないとやって行けないそうだ。それとも蟻も時々ヒステリックに狂うのか・・。
同窓会の延長のような話しを聞かされて僕は少々退屈した。自分のことは喋るけど僕の事は大して関心がないらしい。まあ、その方が根掘り葉掘り質問されるよりましなのだが。
「そろそろ、出ようか」11時になろうとする時計を見て京子を外に促した。
初夏の夜は風が気持ちよかった。風は湿気を含んでおらず爽やかだった。

「気持ちいい~」京子は腕を組みしなだれかかってきた。
「今夜はどうするんだ?一緒に泊まるのか?」
「そのつもり・・・いけなかった?」
「いいのか、旦那は」
「いいの、いいの。女友達と泊まって来る予定だからと言っているから」
「それだけで済むのか。簡単だな」
そういえば綾香も「女子会だから」と言って時々外泊してくる。きっと京子と同じ事をやってるのだろう。世の中の男は騙されやすいのか、騙された振りをしてるのか、それともどうでもいいのか・・・。みんな違うかもしれないが嫉妬がそれほど湧かないのは確かのようだ。
倦怠感で相手を嫌になるより、お互い新鮮な空気を吸いたいというところだろうか。なんだか愛も信頼も地に落ちてしまったようで虚しい気になる。
そう考えながらも、京子の嘘の肩棒を担ぐ、いや根本原因になってる自分自体が嫌になってくる。しかし反面、楽しんでいる自分もいる。
対岸の火事はさほど気にならないが、多分綾香の浮気現場を見たら怒り狂うのだろう。

繁華街から大きな公園に出た。暗い場所ではなにやら怪しい恋人達がキスを交わしている。しかし、よく見ると若い奴らばっかりだ。そこに中年のおじん、おばさんが混じったら確実にきもいと言われるに決まっている。
「あそこ見てごらん。かなり濃厚にやってるな・・・若いな~」
「ほんと、凄いわね。今の若い人達って大胆ね」
「俺達もやってみるか」
「冗談でしょ,嫌、嫌」
「冗談に決まってるだろう。できね~よ」
若いカップルで溢れる公園を通り過ぎ、ビジネス街の中を歩き出した。
所々、1階が商業ビルで3階以上はマンションというビルが並んでいる。
僕は1階にコンビニがある雑居ビルの裏口に廻ると、ビルの薄暗い階段を上りだした。
「えっ、どこ行くの、あなたの部屋?」
「いいや、ここの屋上は街の夜景が綺麗に見えるんだ」
「何で知ってるの?」
「仕事関係で上ったことがある」
「いいの?鍵は?」
「かかってない。セキュリティもない。無人。穴場・・・ははは」
「いいの、だめじゃないの」
「だめだけど、いい。結構きついぞ登るのは」僕は京子の手を引っ張りコンクリートの階段を登り始めた。12階屋上迄へはなかなか足腰がきつい。京子は黙ってついて来た。
「さっ、ここだ。やっと着いた」僕は鍵がかかってないフェンスの扉を押した。
案の定、誰もいなかった。築年数は古いが見晴らしはいい。屋上ルーフからは繁華街の明かりや海の灯りが見えた。
「すご~~い、綺麗。でも大丈夫なの」
「大丈夫。穴場だって言ったろ。前にも来た事あるんだ。別の女と」
「なによ、それ。女ったらし」
「はは、そう怒るなよ。ここは特別な場所だから」
「そりゃ特別な所でしょうね」京子は笑いながら蹴りを入れてきた。
「いいじゃないか、見るだけ。夜の街を見るだけだから」
そう言いながら僕は京子の肩に腕を回した。どかさないところを見ると怒ってはないんだろう。今の自分がよければいい。刹那に生きる人間は大抵、今さえよければいいのだ。昔の女は関係ないのだ。
「見るだけで済むの?誰もいないわよ」京子は僕の正面に廻ると抱きついてきた。今までと違った女の匂いがした。京子の匂いだ。抱きかかえるように僕も腕を回した。すっぽり覆いかぶさるように京子の体を抱きしめた。
そのまま、じっと二人抱き合っていると街の喧騒が聞こえる。生きてる音が聞こえてくる。そして僕の心臓の音も聞こえてくる。久しぶりに胸が高鳴った。
「ここでキスをすればロマンチックじゃないか?」僕はおどけて聞いた。
「そうやって、前の女にもしたんでしょ」
「おっ、気にするのか・・・やったかやってないか忘れた」
「嘘つき・・・」
「じゃ、やめとこう。街の明かりと星だけ見て帰るか」
「・・・・いや、もったいない・・・・キスして」
「何だ、嫌じゃなかったのか?」