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海野ごはん
海野ごはん
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ワン メイクラブ one make love

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「楽しかったわ」付き合いのような笑顔で京子は返事をする。いや京子の本当の気持ちなんだろうか、よく知らないまま一晩だけのメイクラブは嘘のようであり現実感が感じられない出来事だった。
「俺も・・・」
電話していいか、連絡するから・・と普段だったら言う言葉を僕は飲み込んだ。それはどこか愛もないのに抱いてしまったという罪悪感がそうさせたのだろうか。いつもの自分とは違うぶっきらぼうな返事になってしまった。
「じゃ~な」
「じゃ~ね」
改札口のずっと手前で僕達は手を小さく振り別れた。
次の約束がない男と女の別れは、やはり昨夜のメイクラブに愛がなかったということなのだろうか・・・そんな事を考えながらバス停の方へ足を向けた。

「お~い斉藤~、朝から何してんだ」男の声が聞こえた。聞こえたほうに顔を向けると大学時代からの男友達がニヤニヤしてコート姿で立っていた。
「何だ、横田か」
「朝帰りか?いいな~、相変わらずモテちゃって。しかし駅での中年の別れは目立つぞ。特に朝はな。今までホテルでやってきましたって、みんなに見えるからな」
「ほっとけ」
「まっ、忠告だ。俺みたいに誰かが見てるしな。あ~俺もワルに生まれたかったよ~。不良中年かっこいいなぁ~。うらやましいよ」どこかに嫌味が重なっている。

「もう出勤か。大変だなサラリーマンはご苦労さん、行ってこいよ早く」
「あ~うらやましい」
「やかましい、とっとと働いてこい。ご主人様の機嫌をちゃんと取るんだぞ」
僕は横田の背中を一発叩き、コンクリートの箱の中に追い急き立てた。
「ちゃんと働けよ!」捨てセリフのように横田は言い放った。
「うるさい!」

蟻とキリギリスという童話がある。彼が蟻で僕がキリギリスだ。キリギリスは気の向くまま楽な生き方で人生を過ごす。蟻はせっせと毎日働く。どちらがえらいかというと10人中9人は蟻がえらいと言う。蟻はそんなにえらくないと言う一人はこの僕だ。人の一生なんて自由でなきゃつまらない。足枷、お金に縛られ、道徳、家庭に縛られ生きてゆくなんて辛いに決まってる。
わざわざ辛い人生を自ら進んで歩くのは気が知れない。どこで野垂れ死にしようが、後ろ指さされようがキリギリスの生き方を応援する。
蟻の口癖は愚痴だ。キリギリスの口癖は「やあ、楽しいな」だ。
しかし今まで何とかキリギリスでやってこられたが、この先老いという重たい現実がやってくる。フットワークも遅くなるだろう。体も動かないだろう。しょうがないキリギリスの運命だ。楽しかった思い出を胸に抱えて死んで行けばいい。受け入れる覚悟はないから最後はもがきあがくんだろうけど、その時はその時でしかない。浅はかな生き方がかっこいいとは思わないが、それしか出来ない人間もいる。みんなが蟻だったら、キリギリスとの話しも生まれてきやしない。僕はキリギリス、堂々と名乗ろう。



京子は足取りが重かった。通勤電車と逆方向の電車はガラガラに空いてて車内は活気がない。替わりにさんさんと窓から降り注ぐ陽光がまぶしく、のんびりとした空間を作っていた。
今まで、朝帰りをしなかったわけではない。女友達と飲み会ということで相方には数回嘘をついている。いや嘘ばかりでない女だけの飲み会の方が多いのは確かだ。男との朝帰りは2度目だった。それももう、ずっと昔の話しだ。
久しぶりに本当の嘘をつかなければならないのが面倒くさかった。
なんで寝ちゃったんだろ・・・そういえば最近ずっと相方とセックスなんかしてなかった。面倒くさいのだ。歳を取ると面倒なのは遠慮してしまう。何事も簡単楽なほうがいいのだと京子は自身を振り返った。
「ただいま~」きっと相方が何かを言って来るに違いない。重たい。
「やあどうだった同窓会は盛り上がった?また飲みすぎてホテルだったの」
「そうなの、女同士盛り上がっていつものことよ」
「ほんとか~」そう言いながら相方の目は笑ってる。なら安心だ。
「この歳でそんな色事あるわけないじゃない」
「また、また~心配したんだぞ一応」
「何よ、その一応って・・・あら、まだ妬く元気があるの?」心が痛む。
「じゃ、今からするぅ~?」
「いや、やめとく」
「ほらっ・・」
こうやって相方はいつもするりと避けるのだ。いつの間にか仲はいいがセックスレスになってしまった。急に斉藤学の肉体を思い出した。一晩だけで忘れるはずがフラッシュバックする。相方の体つきに塗り重ねるように、彼の体が覆いかぶさる。罪悪感を少し感じながら京子は何事もなかったように自分の部屋に戻りよそ行きの服を脱ぎだした。




僕は自分の部屋に帰ると、寝不足を補うようにベッドに潜り込んだ。彼女の裸が目の前に現れる。触った感触が蘇る。柔らかい肌、固い腰骨の出っ張り、丸い尻。しかし不思議と彼女の顔が思い出せない。途切れ途切れの記憶が体と顔をノイズで掻き消し、やがて夢の中に落ちた。

電話が鳴ったのは午後2時を過ぎた頃だ。現在つき合ってる綾香からだった。
「おっはよ~、起きたの今でしょ?」
「あ~、飲みすぎて眠いんだ」
「同窓会どうだった?悪いことしなかった?」
「するもんか、するわけないだろ。朝まで飲んでただけだよ」スルリと嘘が出る。
「誰と~?」声は笑ってるが、どこか疑っている。
「男同士だし、あ~めんどくせ~」
「ごめん、ごめん。暇だったらあたしんちに来ない?」
「なんで?」急に京子の裸が浮かんだ。次に綾香の顔が浮かんだ。
「買いたい物があるの、付き合って~」
「なんだよ、またアッシーか。電車で行けよ」
「あら、冷たいわね。いいわよ、デートしようかと思ったんだけど・・・」
「・・・・あ~、わかった何時に行けばいいんだ。4時でいいか」
「うん、ありがと、待ってる」
綾香はもう長くつき合ってる女だ。長くなり過ぎてどれくらいつき合ってるかもはっきり覚えちゃいない。大恋愛のようなものを経て、いつの間にか最近は夫婦と間違えられるくらいお互い馴染んでるようだ。
結婚は考えられなかった。お互いキリギリスのような男と女だから、気楽な方がいいのだろう。一度だって本気で結婚しようという話題は出なかった。
綾香の男関係はあるのだろうけど知らない振りをしている。知れば別れることになるし、つい居心地のいい関係とご破算を天秤にかけるのだ。
嫉妬して別れるくらいなら、目をつぶっておくほうがましだ。不純な交友はお互い様ということで関係を続けている。だからといって愛はないかと言われれば、今朝の京子よりよっぽど愛がある。いやこれは愛ではなく、腐れ縁なのか。どっちにしてもお互いが時々必要としてるということは疑いようがない。キリギリス同士はそれが都合がよいのだ。



4時に待ち合わせしたデートは買い物2時間、夕食2時間で終わった。
僕は綾香との会話中、何度も京子とのセックスのフラッシュバックに襲われた。その都度、綾香に悪いと思い優しくするのだった。何年もつき合ってると肉体関係に新鮮味がなくなる。それは夫婦だって同じなんだろう。
中年過ぎての精力減退、そして彼女は更年期の始まり、よく考えてみたら京子とのセックスが不思議なくらいだ。所変われば品変われば、また新鮮味がセックスにも現れるらしい。
「何、考えてんのよ、ボォーとして」