ワン メイクラブ one make love
ワン メイクラブ 「One make love」
「ねえ、ねえ、ねえ・・・・」
僕は揺り動かされてるのに気が付いて目を覚ました。
広い窓の向こうには海が見えた。いや正確に言えば港だ。
そういえば新年の同窓会ということで、昨夜はしこたま飲み過ぎ調子に乗って、隣に座っていた京子を強引にホテルに連れ込んで来たのを思い出した。
「はっ?・・あっ・・・おはよ」僕は裸の同級生に心臓が止まりそうになる。
酒の媚薬的な魔法がなくなり、しらふで対面すると酷く恥ずかしい。
「ねえ、ねえ、あたし帰らなくちゃ」
「何時だ?」
「6時・・・」
「まだ始発には早いんじゃないの。俺、寝てるから」
照れ隠しをカモフラージュする為に突き放すように僕は言った。
「ひど~い、私1人じゃ出るの恥ずかしいよ」
「じゃ、始発ぎりぎり迄、寝ておくから後で起こして」
僕は京子に背を向けると昨夜の痴態を思い出そうとしたが、所々、記憶が飛んでいる。学生時代はそんなに付き合いがなかった彼女だが、昨夜はつい調子に乗ってしまった。
中年も過ぎると道徳も生活に応じて、いい加減になってくるみたいだ。
まあ、まともな仕事も出来ない僕にまともな道徳を当てはめるのも無理がある。こんなハチャメチャな僕になんで気を許したのか、京子は軽く誘いに乗ってきた。
正月早々、なんてこったと明日にでも忘れる反省をしながら僕は目を覚ますことにした。
「ふぁ~、おはよ~・・・昨晩はどうも・・・」
「いえいえ、こちらこそ・・・」
「なんかしたっけ俺達」
「したようね・・・」
二人の他人行儀のやり取りに思わずお互い笑い出した。
「ちゃんと、やれたっけ?」
「吠えてたわよ」
「えっ、吠えた? わお~~んとか?」
「ふふっ、近かったわ。手が付けられないオス犬だった」
「なるほど・・・・性癖なんだ。悪かったな」
「いいのよ、お互い様だから。しっかし、なんであんたと寝ちゃったんだろうね。私も正月から馬鹿やってるな」
「・・・・同じく・・・・」
僕は同意するとせっかくだからと、京子の裸の感覚をまた楽しみたくて温かくすべすべした腰に手を回した。
キャッ・・・声にならない声をあげて京子は僕の胸に顔を埋める。きっと彼女もしらふでは恥ずかしいんだろう。京子の温かい吐息が胸の辺りでくすぐったい。そして僕の下半身はまた固く熱くなった。押し付けるように密着する。
「あったか~い」京子の甘えた声がした。
シーツの中ですっぽり包み込むように京子を抱きしめると、一週間前までお互いよく知らなかったことが嘘のようだ。
少しの背徳感と現実感のなさを一緒に腕の中で抱きかかえる。
あやふやの関係というものは時として夢の中のようでいて居心地がいい。
一晩で出来上がる愛なんて即席麺のようで本物の気はしないが、それはそれで味がある。
出来そうでいて出来ないもの・・・それは一晩だけの愛。
いや、そもそも愛なんて言葉はおこがましい。
ただ、やりたかった中年が重なっただけと言えばロマンがないか。
しかし、この照れくささは新鮮なときめきだ。柔らかい肌を再確認するようにまさぐる。
京子もまた僕の背中の広さを確かめるように指を這わす。
キスは・・・キスはやめとこう。いろんな意味を込めて。
「ねえ、ホントに帰らなくちゃ」京子が顔を持ち上げて言う。
目と目が合ったが一晩だけの即席愛がばれそうで目をそらした。
「ああ、わかってる。ありがとう付き合ってくれて」
「内緒ね」
「なんで?」
わかってる癖にという仕草で彼女は僕の胸を叩いた。
結婚してたっけ?それさえ覚えてないけど多分そうなのだろ。
大人になったら品行方正にしとかなくちゃならないってことはない。
むしろ、いろんな傷や重さを抱え心は体同様疲れきっているのだ。
だから、多分僕達は昨晩お互い心を開きあって許しあった。
大人から子供に戻るためには素直になることが一番だったのかもしれない。
同窓会というのは姿年齢が変わっても、あの時の時代に戻れる。
疲れも嘘も堪えることも欺瞞も、持ち得なかったあの頃に。
僕達は人生に疲れてしまって一晩だけ昔に戻りたかったのだ。
いろんな理由はあるだろうけど聞かない言わない。
「ねえ、教室の窓の下に朝顔を植えたよね」僕は聞いた。
「どしたの急に・・・。そうね、理科の実験だったかしら」
「朝顔の種って、ずっと残るんだろ。あの時の子孫の種ってどこかで咲いてるのかな」
「・・・・・私達じゃない?」
「なにそれ?」
「ずっと思い出を抱えてる私達があの朝顔の子孫じゃない?」
「・・・・そうか。それも言えるな。あの時の記憶の共有か・・。
じゃ。僕達のこの朝の記憶の子孫はどこにいくのだろう」
「ふふっ、これは二人だけで完結なのよ・・・今日で終わり」
「なんだ終わりなのか・・・残念だな」
「ふん、残念に思ってないくせに」また京子は胸を叩いて言った。
「そろそろ起きなくちゃな」
僕は甘い夢の続きを楽しみたかったけど現実に戻ることにした。
年老いることは逃げられない事実だし、彼女と逃避行する理由もないし、偶然に頼るほど夢想家じゃない。
僕は裸で立ち上がると脱ぎ散らかした服の中から、京子の服を選り分け横になっている彼女のそばに置いた。
「ありがとう、あっち向いてて」
「いいじゃないか見納めだろ」
「馬鹿ね・・・」
そう言いながら京子は少し緩んだ体を起こし、僕の目の前で来た時と同じ格好に戻っていった。
見とれていた僕に「さっ、今度はあなたの番よ」と言って笑いながら京子は意地悪な顔をしてきた。
「えっ、恥ずかしいんだけど・・・」
「何言ってるのよ。しっかり私を見てたくせに」
「まいったな~。見るのは好きだけど見られるのは慣れてないんだ」
「ふふっ、いいわお化粧してくるからその間、着てちょーだいな・・・・かわいいお尻」
「やばいな~」僕はいつもの倍以上のスピードで服を着た。
窓の外の港はまだ正月休みなのだろう、誰もいない。船をロープで係留させる桟橋の係船柱にかもめが行儀よく並んでいるのが見えた。
海は少し青を含んだグレー色で、これからの人生の暗示のようだ。
すっきり晴れた青い海原じゃない。かといって真っ黒でもない。
どこが水平線で目的地か見えない人生、きっとそれが僕の今なんだろう。
化粧室から京子の声が聞こえてきた。
「ねえ、私ってまだいけてる?いい女だった?」
僕はその質問に答えられなくて、一人小さく笑った。
冬のビル街は吹きすさぶ風とコンクリートの無機質が相重なり余計に冷たい。
中核都市の駅は意外と正月にもかかわらず出勤の客で溢れていた。きっと販売系の仕事なのだろう。最近は元旦から初売りという所も少なくない。世間の人の流れに逆行して歩く僕達は何かと目立ってしまう。
「ここらで別れようか」僕はそばに立つ京子に声をかけた。
「うん・・・・ありがと」
「じゃ~な・・・」その後に気の利いたセリフでも言おうかと思ったけど出てこなかった。それは照れでもあり、それ以上に京子の事をよく知らないという遠慮だった。
「ねえ、ねえ、ねえ・・・・」
僕は揺り動かされてるのに気が付いて目を覚ました。
広い窓の向こうには海が見えた。いや正確に言えば港だ。
そういえば新年の同窓会ということで、昨夜はしこたま飲み過ぎ調子に乗って、隣に座っていた京子を強引にホテルに連れ込んで来たのを思い出した。
「はっ?・・あっ・・・おはよ」僕は裸の同級生に心臓が止まりそうになる。
酒の媚薬的な魔法がなくなり、しらふで対面すると酷く恥ずかしい。
「ねえ、ねえ、あたし帰らなくちゃ」
「何時だ?」
「6時・・・」
「まだ始発には早いんじゃないの。俺、寝てるから」
照れ隠しをカモフラージュする為に突き放すように僕は言った。
「ひど~い、私1人じゃ出るの恥ずかしいよ」
「じゃ、始発ぎりぎり迄、寝ておくから後で起こして」
僕は京子に背を向けると昨夜の痴態を思い出そうとしたが、所々、記憶が飛んでいる。学生時代はそんなに付き合いがなかった彼女だが、昨夜はつい調子に乗ってしまった。
中年も過ぎると道徳も生活に応じて、いい加減になってくるみたいだ。
まあ、まともな仕事も出来ない僕にまともな道徳を当てはめるのも無理がある。こんなハチャメチャな僕になんで気を許したのか、京子は軽く誘いに乗ってきた。
正月早々、なんてこったと明日にでも忘れる反省をしながら僕は目を覚ますことにした。
「ふぁ~、おはよ~・・・昨晩はどうも・・・」
「いえいえ、こちらこそ・・・」
「なんかしたっけ俺達」
「したようね・・・」
二人の他人行儀のやり取りに思わずお互い笑い出した。
「ちゃんと、やれたっけ?」
「吠えてたわよ」
「えっ、吠えた? わお~~んとか?」
「ふふっ、近かったわ。手が付けられないオス犬だった」
「なるほど・・・・性癖なんだ。悪かったな」
「いいのよ、お互い様だから。しっかし、なんであんたと寝ちゃったんだろうね。私も正月から馬鹿やってるな」
「・・・・同じく・・・・」
僕は同意するとせっかくだからと、京子の裸の感覚をまた楽しみたくて温かくすべすべした腰に手を回した。
キャッ・・・声にならない声をあげて京子は僕の胸に顔を埋める。きっと彼女もしらふでは恥ずかしいんだろう。京子の温かい吐息が胸の辺りでくすぐったい。そして僕の下半身はまた固く熱くなった。押し付けるように密着する。
「あったか~い」京子の甘えた声がした。
シーツの中ですっぽり包み込むように京子を抱きしめると、一週間前までお互いよく知らなかったことが嘘のようだ。
少しの背徳感と現実感のなさを一緒に腕の中で抱きかかえる。
あやふやの関係というものは時として夢の中のようでいて居心地がいい。
一晩で出来上がる愛なんて即席麺のようで本物の気はしないが、それはそれで味がある。
出来そうでいて出来ないもの・・・それは一晩だけの愛。
いや、そもそも愛なんて言葉はおこがましい。
ただ、やりたかった中年が重なっただけと言えばロマンがないか。
しかし、この照れくささは新鮮なときめきだ。柔らかい肌を再確認するようにまさぐる。
京子もまた僕の背中の広さを確かめるように指を這わす。
キスは・・・キスはやめとこう。いろんな意味を込めて。
「ねえ、ホントに帰らなくちゃ」京子が顔を持ち上げて言う。
目と目が合ったが一晩だけの即席愛がばれそうで目をそらした。
「ああ、わかってる。ありがとう付き合ってくれて」
「内緒ね」
「なんで?」
わかってる癖にという仕草で彼女は僕の胸を叩いた。
結婚してたっけ?それさえ覚えてないけど多分そうなのだろ。
大人になったら品行方正にしとかなくちゃならないってことはない。
むしろ、いろんな傷や重さを抱え心は体同様疲れきっているのだ。
だから、多分僕達は昨晩お互い心を開きあって許しあった。
大人から子供に戻るためには素直になることが一番だったのかもしれない。
同窓会というのは姿年齢が変わっても、あの時の時代に戻れる。
疲れも嘘も堪えることも欺瞞も、持ち得なかったあの頃に。
僕達は人生に疲れてしまって一晩だけ昔に戻りたかったのだ。
いろんな理由はあるだろうけど聞かない言わない。
「ねえ、教室の窓の下に朝顔を植えたよね」僕は聞いた。
「どしたの急に・・・。そうね、理科の実験だったかしら」
「朝顔の種って、ずっと残るんだろ。あの時の子孫の種ってどこかで咲いてるのかな」
「・・・・・私達じゃない?」
「なにそれ?」
「ずっと思い出を抱えてる私達があの朝顔の子孫じゃない?」
「・・・・そうか。それも言えるな。あの時の記憶の共有か・・。
じゃ。僕達のこの朝の記憶の子孫はどこにいくのだろう」
「ふふっ、これは二人だけで完結なのよ・・・今日で終わり」
「なんだ終わりなのか・・・残念だな」
「ふん、残念に思ってないくせに」また京子は胸を叩いて言った。
「そろそろ起きなくちゃな」
僕は甘い夢の続きを楽しみたかったけど現実に戻ることにした。
年老いることは逃げられない事実だし、彼女と逃避行する理由もないし、偶然に頼るほど夢想家じゃない。
僕は裸で立ち上がると脱ぎ散らかした服の中から、京子の服を選り分け横になっている彼女のそばに置いた。
「ありがとう、あっち向いてて」
「いいじゃないか見納めだろ」
「馬鹿ね・・・」
そう言いながら京子は少し緩んだ体を起こし、僕の目の前で来た時と同じ格好に戻っていった。
見とれていた僕に「さっ、今度はあなたの番よ」と言って笑いながら京子は意地悪な顔をしてきた。
「えっ、恥ずかしいんだけど・・・」
「何言ってるのよ。しっかり私を見てたくせに」
「まいったな~。見るのは好きだけど見られるのは慣れてないんだ」
「ふふっ、いいわお化粧してくるからその間、着てちょーだいな・・・・かわいいお尻」
「やばいな~」僕はいつもの倍以上のスピードで服を着た。
窓の外の港はまだ正月休みなのだろう、誰もいない。船をロープで係留させる桟橋の係船柱にかもめが行儀よく並んでいるのが見えた。
海は少し青を含んだグレー色で、これからの人生の暗示のようだ。
すっきり晴れた青い海原じゃない。かといって真っ黒でもない。
どこが水平線で目的地か見えない人生、きっとそれが僕の今なんだろう。
化粧室から京子の声が聞こえてきた。
「ねえ、私ってまだいけてる?いい女だった?」
僕はその質問に答えられなくて、一人小さく笑った。
冬のビル街は吹きすさぶ風とコンクリートの無機質が相重なり余計に冷たい。
中核都市の駅は意外と正月にもかかわらず出勤の客で溢れていた。きっと販売系の仕事なのだろう。最近は元旦から初売りという所も少なくない。世間の人の流れに逆行して歩く僕達は何かと目立ってしまう。
「ここらで別れようか」僕はそばに立つ京子に声をかけた。
「うん・・・・ありがと」
「じゃ~な・・・」その後に気の利いたセリフでも言おうかと思ったけど出てこなかった。それは照れでもあり、それ以上に京子の事をよく知らないという遠慮だった。
作品名:ワン メイクラブ one make love 作家名:海野ごはん