水晶少女
一週間後。日本史の先生の前のお言葉通り、僕はまた呼び出され、前回と同じようにこき使われた。しかし一回やり方を心得たせいか、この前ほどに疲弊することはなく、それなりに要領よくこなせたと思う。
そしてどうやら先生は僕を気に入ってくれたらしい。
どの辺が気に入ったのですかと訊いてみたら、『お前はやる気があるように見えてやる気がない。でも本当はやる気のあるヤツに俺は思うね。そこら辺だよ』と妙に分かりづらい褒め言葉を貰った。最後に先生は食堂の自販機でジュースを奢ってくれた。嬉しかった。
ジュースの缶を手で弄びつつ、僕は自分の教室に戻った。ある期待を持ちながら。
そうして辿りつき、僕は扉のガラス越しに中を見た。
やはり今日も彼女はいた。誰もいない教室で僕の席に座りながら、ひっそりと本を読んでいた。夕日が彼女の頬に当たり、幻想的な美しさを醸し出していた。夕風が凪ぎ、カーテンがふわりと舞う。西日を受け、無人の机たちから影が伸びている。
僕は軽く扉をノックした。その音に気付いたのだろう、彼女がこちらを見る。それを見計らって、僕は少し扉を開け、
「入って……いいかな」
僕は極力静かにそう言った。彼女は無表情のまま僕を見て、
「教室は私のものじゃないわ。どうぞお好きに」
彼女の不愛想な許可に僕はほっとしつつ、
「ん。じゃあ失礼します」
僕は教室に足を踏み入れ、前と同じよう彼女の三つ前の席に座った。
鞄と缶を机の上に置き、窓にもたれる。缶ジュースのプルタブを開け、少し口に含み、彼女の様子を窺う。
彼女はいつものように本を読んでいた。と、彼女がいる(くどいようだが本当は僕の)机の端に紙パックの飲み物が置いてあるのに気付く。銘柄は『イチゴ牛乳』。僕は思わず口にあるジュースを吹き出しそうになった。
『イチゴ牛乳』は彼女に似合わないだろう。どちらかというと、にがーいブラックのコーヒーの方が似合っている。彼女も甘いもの好きの普通の女の子だったらしい。僕は一人でにやけてしまった。