水晶少女
彼女のロッカーを壊した犯人はすぐに知れた。
学校側も備品であるロッカーを壊されたことは看過できなかったようで、調査に乗り出したようだった。そして、僕の想像通りの複数犯、そして主犯格は彼女と一悶着起こした大見さんだった。大見さんは前々から彼女に恨みを持っていた生徒を呼び集め、報復を込めて悪事を働いたということだった。
大見さんは学校側の調査に怯えたのか、すぐに名乗り出たらしい。それに、大見さんたちが彼女のロッカーを壊している様子を見た生徒も何人かいたということで、結局は遠からず露見することだった。
大見さんは学校側から口頭注意の処分のみで済まされたようで、先生に対しては神妙にしていたらしいが、友達やクラスメイトに対しては反省する様子を見せなかった。むしろ、悪名高き針女には当然の報いであり、自分は何も悪いことはしていないと周りに吹聴していた。
僕は胸糞悪かったが、しかし一切口を出す気はなかった。ただ、黙って推移を見守っていた。
ある日の朝。友人たちと話していた大見さんの前に、登校したばかりの彼女が立った。教室中が何事かとざわめき、ざわめきが止むと皆一様に二人の姿を注視した。
互いにじっと見つめあう大見さんと彼女は、一触触発の空気を醸し出していた。そして、ピンと張り詰めた空気の中、なんでもないことのように、ぽつりと彼女は言った。
「ごめんなさい。あんな風にあなたの誘いを断ったのは、失礼なことだったと思い直したわ。どうか、許してくれないかしら」
彼女は深く頭を下げた。そして、それだけの言葉と所作を終えると、彼女は自分の席に戻っていった。大見さんは驚いていた。言葉を発せないかのように、口をパクパクしていた。
周りの生徒も、同様の様子だった。直前まで僕と話していた男子生徒が、
「……驚いたな。針女が謝るなんてよ。こりゃ、前代未聞だぞ」
彼も衝撃を隠しきれないようだった。
「そうだね」
僕は、自分の机に鞄を置き教科書を取り出している、彼女の静かな横顔を見ていた。
「何かあったのかね。あいつの性根を変えるようなことでもよ」
僕は首を振った。
「さあ? 僕には分からない」
彼は胡散臭げに僕をじっと見て、
「……怪しいな。お前、あいつに何か吹き込んだんじゃないだろうな」
「え? そんなことないって。僕は何もしてないよ。きっと彼女自身で考えて、謝ろうと思ったんじゃないかな」
彼は両手を広げて、いかにも納得いかないというポーズをした。
「信じられん。あの針女だぞ?」
まるで幽霊を見たあとのような彼に台詞に、僕は少しだけ苦笑しながら、
「……関係ないよ。針女なんて呼ばれても、本当は普通の優しい女の子かもしれないんだ」
「まったく。なんだよ、針女は丸くなるわ、お前は何か悟ったような顔をするわ……どいつもこいつも」
彼はまったく理解できん、と最後に投げやりにまとめた。
どうやら僕と彼女は仲良く彼に呆れられているようだ。
僕は何も言わず、ただ笑って見せた。