水晶少女
「私には人の本質が見抜ける『力』があった。物心ついたときから、ああこの人は本音を言っていない、嘘で装飾して自分の汚さを覆い隠そうとしている、ということを理解できた。それがどうしてかは分からないわ。きっと、生まれたときからそういう力を持たされていたのね。先天的な奇妙な洞察力」
彼女は僕の目から視線を片時も揺るがさず、ゆっくりと語った。
「初めは、『力』を用いて本質を暴いていた。そうすることが正しいことだと思っていたの。嘘をつくのは卑怯で、それを暴くのは当然のことだ。そういう正義感を糧にして。あるいは、人の本質を見抜ける『力』を神通力のように思えて誇らしかったのかもね。だけど、嘘を暴かれた相手は、いつだって不快感を露わにした。当たり前よね。本音だけで生きていけるなら、誰でも聖人になれるもの。でも、そのときの私はそれに気付かなかった。むしろ何も間違っていないと、自分を正当化ばかりしていた」
「そして私は糾弾された。ある日を境に、私に近づく人は一切いなくなった。どうして。そう思って訊いてみたらこう言われたわ。人の嫌な部分ばかりを見つけて、自分はいい子ちゃんだと思い上がっていると。お前と話せばどうしたってこっちが悪者にされる。お前と話したがる奴なんているわけない」
「ショックだった。自分の生き方が根本的に間違っていたと思い知った。そして私は生き方を改めようとした。あなたのように、周りに合わせて自分を殺す、理想を捨て現実に順応した生き方を選ぼうと思ったの。最初はうまくいくと考えていた。でもできなかった」
「私自身の心が、『力』によって嫌でも見えてしまう他人の醜さを……そしてそれに迎合し自分が汚されるのが許容できなかったの。きっと、ある種の潔癖症なのでしょうね。吐き気すら幾度も催したわ。結局人の嘘を積極的に暴いたのも、それはただ極度の潔癖性が原因だったのだと、私は知った。そして私は孤独を選んだ。私から近づけば人を不快にさせる。あちらから近づけば私が不快になる。だから、一切の関わりを持たないよう、人を徹底的に排斥した。そうするしか、私には生きる術がなかった」
「そして、そんな毎日を……人を排斥する日々を続けていくうちに、ある日私は思った。今の私の有様は、一体なんなのだろうと。常に孤独に生き、周りに奇異な視線で見られ、陰では頭のおかしな女だと囁かれる、そんな自分を省みた。そして気付いたの。私の『力』は、人の本質を見抜いているわけではない、と。人のエゴ……嘘や憎しみ、虚栄心は見抜けるけれど、人の優しさや温かさを見抜けていない、と。人の心は裏表があるわ。醜い心があるなら、それに等しく清い心があるはず。だけど、私には一切人の美しさが感じ取ることはできなかった。醜さだけを掬い取ってきた」