水晶少女
針女。彼女のあだ名。僕はそれについて考えた。結局それは正しかった。
確かに彼女は針を持っていた。人の心を刺し穿つ鋭利な針。僕はそれに刺されてしまったことを自覚する。皆が言うように、僕の心の中には大きな空洞が空いた。
しかしそうは理解しても、僕はそれが針とは少し違うもののような気がする。どちらかというと鏡、というものを思い起こした。
彼女を媒介に反射して、自分のエゴを見せ付けられる。自分の心の汚泥を強く思い知らされる。
『われわれ各個人は、他人の裡に自己を写す鏡を持っている』
とは誰の名言だったか。世界史の先生が授業の合間の雑談で引用した言葉だと記憶している。この名言を残したのは哲学者だったのは覚えているが、具体的な名前は思い出すことはできない。しかしその言葉の真意を僕は強く実感する。
噂に上がっていたバスケ部の先輩も、幅を利かせていたという女子生徒も、僕と同じよう彼女によって自分の心の醜さを反射してしまったのだろう。
想像するなら、バスケ部の先輩は、彼女を手に入れようとした理由を。
幅を利かせていた女子生徒は彼女を屈服させたい理由を。
そして僕は……確かに憧れていた。常に一人でいる彼女に。
いつもただ一人で、誰にも頼ることができないなんて、そんな生き方をするには僕は覚悟も強さも足りていない。心の中で他人を冷めた目で見つめながら、しかし排斥されるのを嫌って他人に迎合するしかできない僕自身の弱さ。
彼女の孤独ではなく孤高の在り様は、僕にとってとても眩しく見えた。彼女の言うとおり、僕は彼女に、自分の願った理想像を、勝手に当て込んでいたのだろう。
もはや、あの放課後の教室に僕の居場所はない。その事実が例えようもなく空虚な気分になる。
彼女にどんな言葉を言われても、そんなことは関係ないと、無理やり迫っていく強さが欲しかった。でも、僕はそれをするにはあまりに臆病で、そして小賢しすぎた。