水晶少女
その後彼女は、恒例行事である僕の別れの言葉に応じることはなくなった。
何も聞こえなかったというように、完全に無視をした。
僕だけじゃない。彼女はいつも以上に、他人の接触を拒む、強い拒絶の意志を含む空気を纏っていた。僕には、それは少なからずショックだった。
何が彼女の気に障ったのだろう。友達になってくれ、という言葉だろうか。それを不快に思った。ならば、彼女は僕と友達になんてなりたくない、ということになる。その結論を、僕は簡単に認めたくなかった。
友達になってくれと彼女に伝えたのは、僕は決して後悔はしていない。いずれ伝えるべき言葉だからだ。いつまでも上辺だけのクラスメイト、そんな虚しい付き合いを続けたくなかった。
でも、結局のところ、彼女の心に触れるには、急ぎすぎただけだったのだろうか。
……せめて、僕を拒否する理由だけでも訊きたかった。
放課後。今日は雨だった。乱層雲からしとしと降り注ぐ水の粒は、学校の中にいても響く。
雨は嫌いだった。鬱陶しい空気の湿りと、どんよりとした空の色。気分が重くなってくる。何より雨の日はいい思い出はない。小学生の頃、とても楽しみにしていた初遠足は雨天中止だったし、中学生の頃気になる女の子とデートできたはずの夏祭りも雨だった。受験で第一志望を受けたときにも雨で、受験会場に向かう道中スベッて転んで結局そこの学校も見事に落ちたというオチがついた。
雨はどうも僕にとって縁起の悪いものだと僕は勝手に決め付けているし、実際その通りだった。
日本史の先生の手伝いは身が入らず、幾度もミスを繰り返し先生に注意され、挙句もう今日は帰っていいと突き放されてしまった。すみません、以後気をつけます、と先生に伝え、僕は放課後の校舎に一人取り残された。僕は無心でふらりと教室に向かった。
彼女に会って、僕を拒否する理由を聞き出したかった。そしてあわよくば彼女と和解し、また優しい時間を共有して、鬱屈した気分を晴らそうと思ったのかもしれない。
教室に着き、僕はドアを開けた。
彼女はいつものように僕の席に座ることなく、立ちながら鞄を肩に掛け、窓に腰を預けていた。そして、何をするでもなく、ただ雨水が強く降りしきる学校の校庭を見ていた。
彼女の横顔。整った顔立ちと、耳が隠れるように掛かる長いストレートの黒髪。雨という状況とあわせて、幽玄の美という言葉を僕は思い浮かべた。