水晶少女
放課後。夕暮れの教室。僕と彼女しかいない空間。
「君は、小説が好きなんだよね」
僕の質問に、彼女は小説に注いでいた視線をゆっくりと僕に向けた。彼女の視線に剣呑さが和らいでいる、と感じるのは、僕の勝手な思い上がりだろうか。
「どんな小説が好きなの」
「どんな?」
「ジャンル。例えばミステリーやホラー。SFやファンタジーだってあるよね」
彼女は視線を中空に漂わせ、思索に耽る仕草をした。
「人の心の中が綺麗に綴られている物語が好きね」
なるほど。前にも彼女が言っていた。小説が好きな理由は、人の思考や感情を体験できるから、と。
彼女は人の心の動きに、興味があるのかもしれない。
「じゃあ、青春小説とかかな。あと純文学って言われている奴とか」
僕は小説をほとんど読まないから、文学の定義など知らないし、それらしいものは教科書しか見たことがないが、なんとなく勝手にそう想像した。
「そうね。嫌いじゃないわ」
「なるほど……ありがと。くだらない質問に答えてくれて」
「別にいい」
彼女はそう零し、そして視線を再び小説に落とす。