ミヨモノリクス ―モノローグする少女 美代の世界
十月 憂秋
私は、皆が当然のようにやっていることができない。でも、そういう人達には出来ないことを、私はやっているのだと思う。それについては、誰にも負けていないとも思う。
この私の世界は、とても限定されている。この寝台、この部屋、この家、この庭、自転車にも乗れない私の外界。金を使って空間を移動するということに対する嫌悪感。生きている時間。この時代、母親。振り返らずに、まっすぐに前を見て歩き続ける私の前に、唐突に現われる一筋の境界線。けれども、私はそれを敢えて越えようとは思わない。悪戯に広さだけを追求して、広さを獲得することが自分自身の存在を強大にするのだという頭の悪い妄想に取り付かれた人間達が、どのような不安に苛まれているのかを私は知っている。 誰が定めたのかは知らないが、私には半径三キロメートルの世界でもまだ広い。私は、これだけの要素を全て私自身の内部に取り込まなくてはいけないのだと思うだけで、存在そのものが苦痛に感じられてくる。私の縄張りを乱そうとするものを、たえず監視し、主である私の知らないところで何らかの変革が起きることを阻止し、またその変革を認めつつ、絶えず、私の内部にある世界と、現実に存在している世界との差異を克服していかなくてはならない。私は、何によって生きているのだろうか。そう考える時、私が生きていると考えている世界と、現実との差異の狭間にむかってはてしなく落下し続けているかのような、不安、恐れ、焦燥、猜疑心、悲愴感に責め苛まれ続けるのだ。
作品名:ミヨモノリクス ―モノローグする少女 美代の世界 作家名:みやこたまち