Ramaneyya Vagga
地図売り
旅をしている者がかかりやすい病気のひとつに、物売りや客引きへの憎悪がある。インドで出会ったアイルランド人のマリーは、率直なところ、これを病んでいた。
ふたりでボンベイの街を歩いていたとき、地図売りが声をかけてきた。インド亜大陸のタぺストリー地図をたくさん手にぶら下げて、
「あなたたちは映画に出てくるカップルのようですね。地図はいりませんか?」
と言う。
マリーは露骨に無視した。それは痛々しい暴力であった。俺はといえば、思わず吹き出して笑っていた。そこでマリーは、俺がこの狂おしい憎悪を解決する方法を教えてくれるかもしれないというような、すがりつくような顔つきで、俺に尋ねた。
「なにがおかしいの? あなたは彼ら物売りが好きなの?」
「彼については、大好きだね」
「なんで? どういうところが?」
「だって地図だよ、地図! クラシカルすぎるよ! 19世紀に来たような気分になって、おかしかったんだ」
マリーは俺の答えを喜んで、心が解きほぐされたときの、安らいだ笑顔になった。俺たちはしばしクスクスと笑いあった。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu