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Ramaneyya Vagga

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 「実はこのような爆弾を作る必要はなかったのです。自然というものはこの爆弾と同じ機構をすでに備えていて、人間が増長しすぎれば地球は誰がスイッチを押すまでもなくこなごなになるのです。カーリーという爆弾は、この自然の機構をスピードアップして、この爆弾を作った人たちの意に添うようにしたものにすぎません。そういうわけでこの爆弾を作った人々自身が、すでに爆発への臨界を上げる最大の貢献者ということになります。なるほどこの爆弾は人々が何もしなければ爆発しない。他人を疑い、自己顕示をし、人をおとしめ自分が優位に立とうといらぬ努力をしなければそれでいい。カーリー爆弾なるものがあるにせよないにせよ、なるほど世界はそれで万事うまくいく。それは簡単で単純なことのように聞こえる。しかし----しかしです。人間はこの簡単な、単純な真理を理解し、実行できないからこそ悩んできた。このような欲望の虜となってしまったとき、恥じ入ってきた。人類の歴史とは決して醜い欲望の歴史ばかりではない。誠実な人々もいた。献身的な努力に一身をささげた人々がいた。そうしてなんとか持ちこたえてきた世界を、現代的な都合で危機におとしめて、それは我々にどんな利益があるのか。確かにいま世界の人々は日常的な利己心というものに強制的に向き合わされた。それはかつてなかった状況です。カーリー爆弾がなした偉業といっていい。しかし利己的な人間というのは----つまりは単に人間の意ですが----ナイーヴなものです。こうした状況では、その残虐さをますます増大させてしまう。つまり、カーリー爆弾は人々の利己心を抑制するどころか、助長するだけなのです。幸いカーリー爆弾はまだその実在が確認されていません。世界中の人々が自身の内部に向き合う機会を得たことでよしとして、この爆弾を作った人々が、自らスイッチを切るか、はじめからそんなものはなかったと発表してくれることを望んでおります」
 彼が指摘したように、カーリーの爆発への臨界度が80%を超えたと発表されたとき、政界の有力者たちは秘密裏に火星への脱出計画を立てはじめた。権力と財力のある者たちが、若く美しい女たちを連れて宇宙に逃れる計画である。カーリーは利己的な感覚に慣れすぎてしまった人々には、その意味すら理解させることができなかった。平凡な、無知無学な俗人たちに対しても同様で、彼らもまた責任をなすりつけあうばかりだった。
 オランダとベルギーがアメリカとイギリスの圧力についに屈してバクティックヨーギンカウボーイとクラウドたちはインドへ逃れた。インド政府は変わることなくレーベルを支持。インド首相がヒンドスタントゥデイ紙に語る。
 「カーリー爆弾は神の怒りそのものです。それが実在するにせよ、しないにせよ、インドはバクティを支持する」
 2004年10月、カーリーの臨界度が90%を超えたころ、バクティックヨーギンカウボーイはハロウィンの時期に10日間に渡るビッグレイヴパーティを告知した。会場はインド、リシュケシュのスワラグアーシュラム。パーティネームは「そんなの作るわけないでしょ??」
 アメリカ・イギリスとの臨戦体制の中世界中からクラウドがスワラグアーシュラムに集まり、パーティは異常な熱気の中大成功を収めた。パーティ最終日、レーベル代表赤池六郎太は、
 「カーリーなんて爆弾、作るわけないでしょ??」
 と宣言。クラウドを熱狂させた。
 『カーリー、口からでまかせ』
 『史上最悪のジョーク』
 とニュースが世界中に飛び交った。
 あとには権力社会の報復が待っていた。アメリカ合衆国の爆撃機がアフターアワーズを楽しんでいたクラウドたちを爆撃。クラウド数百人、バクティックヨーギンカウボーイ代表赤池らが死亡。逃れた者たちもアメリカ軍の追跡に次々と逮捕、もしくはその場で処刑された。
 カーリー事件を通して心ある人々は納得した。世界はシリアスなのだ。真剣に、この方向を変えることなく推し進めるつもりなのだと。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu