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Ramaneyya Vagga

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 俺たちは必死で運んできた食い物を連中に渡して、それから奴らがワインをくれたんでがぶがぶ飲んだ。我ら勇敢な鯨捕り二十名が完全に酔っぱらったころ、広間のドアが開いて、一人の女が入ってきた。ブルボン水兵服もりりしく着こなした見事な美人。俺たち酔っぱらいどもは彼女に釘付けになった。
 「おおい、女だ!」
 「美人だ!」
 「抱かせてくれよ!」
 みんな口々にまくし立てた。馬鹿な奴らだ。俺が見たところ、彼女はロマン主義者だ。もっとスマートなやり方を好むはずだ。みろ、彼女すっかり不機嫌そうにしかめっ面してるぜ。
 俺は彼女を眺めていたんだが、いったいこの女なにしに来たんだ? きょろきょろ俺たちを見回してる。俺と目があった。俺はウィンクしてみた。彼女俺に向かって歩いてきた。こりゃついてるぜ。
 「よう、なんだい」
 彼女は無表情だった。美人だった。エイジアンだな。インド系のアーリア人だろうな。
 「おまえはポルトガル人だな」
 「そうだよ」
 「アーナンダ・ホーンシップだな」
 なんてこった! 彼女俺の名前を知っているぞ! 俺は物心ついたころからただの下っ端の船乗りで、武勇伝もなにもないのにな。
 「なんだってんだ」
 俺はさっぱりわかんなかった。
 「キャプテンがお呼びだ。船長室まで来てくれ」
 みんな色めき立った。俺はただの航海士だった。チャールトンが話を聞く立場にいるはずだった。案の定、チャールトンが酔っぱらった舌で叫んだ。
 「おい女! この船団の責任者は俺なんだぞ」
 「私はそんなことは知らない。キャプテンが彼を呼べと言っている。それだけだ」
 彼女はクールだった。世界中をめぐって知らないものなどないといった感じだ。自信に満ちて、肝が座ってた。もろに俺の好みのタイプ。
 彼女についていくと真っ暗な狭い部屋に入れられた。海賊船のくせにコーヒーなんか積んでるとはますます妙な船だ。そこはコーヒーがたっぷりつまった倉庫だった。シベリアの凍った海の上で嗅ぐコーヒーの香りは格別だった。真っ暗で彼女の顔は見えなかった。俺たちはうずくまった。俺は彼女にならってそうしたんだ。彼女は体をぴったりくっつけてきた。なかなか情熱的な女だ。
 「アーナンダ、探したわよ」
 彼女の押し殺した声。ヒンディ語だ。
 「なんだ、キャプテンはどこだ」
 「馬鹿ね、嘘に決まってるじゃない。私を覚えてないの?」
 「知らないな」
 そう言いながら俺は彼女について考えた。いろいろ女は抱いたけど彼女のことは思い出にはないな。アーリア人とはほとんど寝てないからな。
 「パールラヴィを忘れるなんて、信じられない」
 「パールラヴィ!」
 俺は叫んだ。彼女はあわてて俺に軽く平手打ちを放った。思い出したぞ。彼女ったら俺の従姉じゃないか。お袋の姉の娘だ。俺の家族が船に乗ってたころゴアで何度か会った覚えもないではないぞ。昔から可愛い子だったっけ。
 「こんなとこでなにしてる」
 インドから遠く離れた極寒の地で、しかも氷づけの船上でパールラヴィと再会だって? なんともロマンティックだけど、さっぱりわけがわかんないぞ。
 「あんたを探してたに決まってるでしょう」
 「俺になんの用だ」
 「しらばっくれんじゃないわよ。あんたの親父さんの財宝に決まってるじゃない」
 初耳だった。親父の財宝なんてものは見たことも聞いたこともなかった。親父は確かに立派な海賊だった。それなりに有名だった。スペインの悪い奴らからごっそり金貨を巻き上げた。でもインドの不可触民に全部くれてやった。だから財宝なんてないはずだった。
 「知らないな」
 「嘘よ!」
 「親父がどんな海賊だったか知ってるだろ。蓄えなんかなかったはずだぜ」
 「それがあったのよ。あんたのお母さんから直接聞いたんだから間違いないわ。ほんとに知らないの?」
 「知らない」
 「なんてこと」
 彼女は肩を落とした。俺にもたれかかった。
 「お袋に会ったのか」
 「会ったもなにも、私の家族と一緒に暮らしてるわよ。マナーリーで。元気よ」
 「ふーん」
 良かった。俺はトドの毛皮を脱ぎ捨てたいくらい体が熱くなった。
 「詳しく聞かせろよ。親父の財宝ってやつ」
 モルディブ沖での戦闘で、親父はスペイン艦隊に負けた。俺はまだ子供だった。スペイン船の奴隷になったわけだけど、俺は逃げだし、しけた海を泳いだもんだった。彼女の話だと、このとき親父の三隻の艦隊は金貨をごっそり積んでたんだそうだ。ゴアに向かってた。ゴアのゾロアスター部落にくれてやるつもりだったらしい。スペイン人たちはこの金貨を奪ったんだけど、内乱があって仲間うちで艦隊戦をやらかした。結果は相打ち。インド洋のどっかに沈んだって按配だ。
 「あんたが生きてるって聞いて、てっきり沈没した場所も知ってると思ってたのよ。一生遊んで暮らせると思ってたのに」
 「残念だったな。こつこつ働くしかないよ」
 「そうね」
 俺たちはそのまま黙ってた。シベリアくんだりまで無駄骨折ったパールラヴィは気の毒だけど、結局、俺たちみたいな人間はたいしたことはできないんだ。せいぜいやりたいことをできる範囲でやって、あとは自分に自信を持てれば上出来だ。誇りを持てればな。
 俺はパールラヴィを抱き寄せて、熱いキスをしてやった。俺は心の中で、彼女のこれからの人生を祝福した。
 「ちょっと、ねえ」
 彼女は俺を押しのける。なんだよ、なかなかいい感じだったじゃないかよ。
 「あんた気づいてるでしょ。この船はかなりたちの悪い種類の海賊船よ。キャプテンは気狂いだし、副官は残酷なだけが取り柄の能なしだし、さっき船長室を通ったら、聞いちゃったのよ」
 「なんだ」
 「あんたたち殺されるのよ。きっとあと一時間もしたら」
 「うーむ」
 「どうするのよ。ガレーで逃げてもきっと捕まるわよ」
 困った。死にたくなかった。だいたい、俺の人生はまだまだ続きがあるはずだった。立派な船乗りになって、お袋に会うまでは。
 そのとき、俺はまさに身も凍るアイデアを思いついた。泳ぐのだ!
 「おいパールラヴィ、おまえ泳ぎは得意か」
 「まあね。なんで?」
 「逃げるんだ。二人だけで泳いで逃げれば見つかるまい」
 「なに言ってるのあんた! なんで私まで逃げるのよ!」
 そうだった。彼女はこの船のクルーなんだった。別に彼女は殺されることはないのだった。
 「いいや、おまえも俺を連れ出したところを見られてる。俺が逃げたらおまえも殺されるぜ」
 俺はとっさにそう言った。言ってみると、なるほどもっともだった。俺は彼女に惚れてた。なんとしても連れていきたかった。
 「そうかもね」
 パールラヴィ。考えてる時間はないぜ。もう俺と君の人生は決して離れることはなくなったんだからな。
 「覚悟を決めろ。俺も親父が死んでスペイン人にとっ捕まったとき、必死に泳いで生き延びたんだ。やる気になればできないことなんかないんだ。一緒に逃げよう。そしていつかインド洋へ行って親父の遺産を見つけようぜ」
 「そうね」
 俺たちはもう一度熱いキスをした。俺は猛烈に彼女に吸いつき、肩を思いきり抱いたり胸を掴んだりしたんでしたたか勃起した。彼女に突き飛ばされた。
 「急ぐわよ」
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu