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Ramaneyya Vagga

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 それで髪の毛を切るだけにした。ナイフでは切れなかった。剃刀がどこかにあったはずだ。リュックをまさぐる。
 「ちょっと、なにしてんの」
 「髪切るのさ」
 「なんでよ」
 「さあ。いずれ、きみには関係ないよ」
 もうやめにしたかったが、どうしても妻に冷たくしてしまう。無理もないじゃないか!
 剃刀を取って風呂場へ行く。すると妻が俺の腕をつかんで離さない。
 「やめや! そんなこと、やめてや! お願いやから!」
 べそをかいて俺にしがみつく。
 「危ないよ、ほら刃が...」
 言っているうちに、妻の頬を俺が持った剃刀が打つ。妻の頬から血がたれる。こ、これではいけない...まるで、激情して妻に切りつけたみたいじゃないか。なんてかっこわるいんだ。
 妻はびーびー泣いた。俺は剃刀を投げ出し、妻を力尽くでベッドに放り投げる。髪を剃る。
 丸坊主になった。気持ちがよかった。
 荷物をまとめる。妻と俺の荷物はほとんど分けられることなく大きなリュックと小さなリュックに入っている。仲がよかったよね、俺たち...
 「なにしてんよー」
 泣きじゃくりながら妻が言う。
 「荷造りだ」
 「なんでやよー」
 「きみは出ていく元気なさそうだから」
 「やめてやー」
 「いやだね」
 「待ってやー」
 「もういいよ。リュック、持ってくよ」
 話すこともなかった。俺は小さいほうの、いつもは妻が背負っている、悪趣味なピンク色のリュックを選んだ。必要なものだけ詰めた。金はきっかり半分にした。
 「ちょっと待ちーやー」
 「いやだ。バイバイ」
 俺はリュックを背負う。妻が再びしがみついてきた。恐ろしい力だ。俺はベッドに引きずり込まれた。たちまちズボンとパンツを降ろされた。妻は俺のあれにしゃぶりつく。瞬く間のことだった。
 「や、やめろ!」
 なんということだ。こんなことは許されない。俺はすでに、あの男が抱いたあとで、妻を抱いていた。しかしそれは知らなかったからだ。知ったいま、こんなことは俺にはとても耐えられない。
 俺は怒って妻を蹴飛ばした。妻は号泣した。かわいそうだとは思った。でも、俺には、彼女を助けてやる元気はなかったし、そうしたくなかった。リュックをもう一度背負う。すると妻はここが正念場と思ったか、死力をふるっているらしい、またもや俺にしがみつき、俺の首もとにかみついてきた。
 「あんたは、あたしのもんや!」
 「うわ、痛い!」
 まったく痛かった。俺たちはしばらく格闘した。これはまさに喧嘩だった。しかし俺は勝った。ぜいぜいと息を切らせてしまったが、妻をベッドのポールに、洗濯物用のロープで縛りつけることに、なんとか成功したのだ。
 「信じられへん! 置いてかないで!」
 縛られたまま、妻は怒声を張り上げる。気性の激しい女だということは承知の上で一緒になったが、しかしその声の大きさ、激しさは、俺の、人間の常識を越えていた。これは女などではない。人間ではない。鬼だ。俺はギリシアのオデュッセウスのことを思い出す。彼は最後、魔女になんと別れを告げたっけ? 覚えていなかった。それでありきたりに言うしかなかった。
 「いろいろありがとう。バイバイ」
 俺はコテージを出た。まだ夜中だ。リシュケシュ行きのバスが出るにはまだ5時間はかかるだろう。俺は山の中で、沢のほとりに腰を降ろす。ながくずっと妻と一緒だった。いまひとりだ。気持ちがよかった。ようやく自分のムードにひたれる。
 俺は禁欲する。菜食をやろう。きのう食べた鳥が恨めしい。もう一ヶ月肉も卵も食べていなかったのに、きのう、妻が食べたいと言うので食べたが、おいしくなんかなかった。肉なんか、女と同じだ。食べた後、必ずなにか、むかむかするものがやってくる。残る。もう二度と食べるものか。女なんか、いるものか。あんなもの、なんだというんだ。たいしたことは、ないじゃないか。女なんか、二度と抱いてやるものか。なんにも、してやらない。なんにも、くれてはやるものか。女なんか、すべてをあげてしまっても、骨になってしまっても、それでもまだ、いくらでも、欲しがってばかりで、自分では、なんにもしないんだ。俺は人間らしい仕事をしてやる。誇らしい人間に、戻ってみせる。
 禁欲してやる。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu