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Ramaneyya Vagga

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 「おかしいわ、傑作だわ! 鈴木くんったら! それにコジーンときたら! それなりに深刻ですって? とことんうぶね、あんたたち。コジーンと鈴木くんがあんたを好きだなんてこと、私はずっと知ってたわよ。前にほら、四人で一緒に踊りに行ったじゃない。ブーちゃんもいたわね。あのとき、あんたが外へ吸いに行ってるあいだに、鈴木くんとコジーンが、なんか言い合いしだしたのよ。なにかと思ったら、コジーンがね、鈴木くんがさっき、あんたの目の前へ行って、すごく近くで、フラッシュ焚いて写真撮った、あんなことしたら、六郎太は石になって集中して踊ってるのに、びっくりするじゃないか、あんなことは二度とするな、とか言ってるのよ。鈴木くんもむきになって、そんな言い方へんだ、コジーンだってこのまえ六郎太の写真ばしゃばしゃ撮ってたじゃないか、マクロまで使ってさ、ひどく近くでさ、いまごろあの写真はどうした、ちゃんと額に入れたか? とかなんとかきわどいこと言うんで、ブーちゃんが私に、どうなってるのとか聞いて、それで私はそういうことなのよって言って、ブーちゃんはばか笑いして、ふたりの間に入って、私がモデルになるから、写真なら撮ったらいいじゃない、さあどうぞ、マクロで、息がふれあうくらい、とか言って、みんな笑って、ふたりともブーちゃんの写真ばしゃばしゃ撮って、それでようやくおさまったとか、そんなこともあったのよ。あんたが気に病むことじゃないわ。あんたは別にコジーンとも鈴木くんとも寝たいわけじゃないんでしょ? だったら放っておけばいいのだわ、コジーンも鈴木くんも、あんたが乗り気じゃないのにセックス迫るほど、馬鹿じゃないものね。でもあんた、男も女も差別しないわね。そのうち、好きな男のひとりもできるかもね。コジーンと寝るかもしれないし、鈴木くんと寝るかもしれないわね。私? あんたが私を嫌いにならない限り、男と寝ようが、白痴と寝ようが、気にしないと思うわよ。私は初めてあんたに会ったとき、ほんとは、ゲイなのかしらって思ったわ。公園で一緒に陽に当たってデートをしたわね。あんたは内気で、受け身で、私の体を見ることもなく、イチョウの木のあたりを眺めて、気のない返事ばかりしていたわ。それで私は、この子ったらてんで私に興味がないんじゃない、きっとゲイなんだわって。でも私が、あんたが眺めていたへんにあった、ドーナツ屋を指して、ドーナツでも食べましょうかって言ったとき、私は、あんたがイチョウの木を見ていたんじゃなくて、ドーナツ屋を見ていたんだってことを知ったわ。そして嬉しそうに私の目をようやく見て、きみもドーナツ好きなのかい、ぼくは大好物なんだ、チョコレートとココナッツ? シナモン? コーヒーいけるほうかい、ドーナツとコーヒーで考え事をするのは、ぼくは大好きなんだ、ジョイント吸うかい? とか言ったわね。それで私は、あんたが内気でもゲイでもなくて、ただ興味のない話に合わせてこびを売るような子じゃないんだって知ったわ。もちろん、あんたは気分屋だわ。マリコとかいうあの女のことなんか、ちょっと意地悪して、しばらく電話も出てやらないって思ったものだわ。そりゃあの女は、私と違ってセックスのさなか、大騒ぎするんでしょうよ、どたんばたんと、ぎゃあぎゃあと、ボノボみたいにね。それが目新しいからってだけで、たいして心も通わせないうちに、あの女と何度も寝て、たいして心も通わせないうちに、合わなくなったのだったわね。そうだわ、聞いてなかったわ、どうして会わなくなったわけ?」
 ムンクが終わった。次回、シリーズ第四回目は『エルンスト、フロッタージュの幻想世界』です。けっこうこだわるんじゃないか、高野さんときたら。結局、マリコさんは、たいして話も合わなくて、しかもセックスの細部について、彼女がぼくには意味の分からないことを言い、そしてぼくがなかなか射精しないのはなぜなんだと言い、ぼくは、どうも他のことを考えてしまうみたいだ、それにきみってすごくなめらかだね、と言ったらひどく怒って、「なめらかだなんて言い方、やめてほしいものだわ! ゆるいってはっきり言ったらどうなの!」と言ったのが、ぼくへの最後の言葉だったように思う。また笑われると思ったけど、ぼくは高野さんにそれを言ってみた。やっぱりばか笑いした。
 「そう、私の方がごつごつしているの? たまんないわ、おかしいわ、アッハッハ!」
 お腹を抱えて笑う高野さんを見ていたら、なぜだかぼくはひどく勃起して、なんんとしてもはやく彼女とセックスしなくてはいけないという気分になって、それで彼女にキスをし、笑いを止めさせて、それからぼくは...
 病院のロビーでぼくを出迎えた看護婦は、厚い眼鏡をかけた、冷酷そうな、背筋の伸びた女で、彼女はぼくを院長室へ通して、院長はまだ診察中ですので、すみませんがお待ちください。私、あなたに当院の説明をするよう言われておりますの。と言って、院長室の壁に貼ってある額なんかの前へ前へと、ぼくを連れていくのだった。あの那覇から富士山を見に本土へ来たという吉田さんはどこへ行ったのかと、ぼくは言いたかったのだけれど、彼女はぼくにそういった質問をさせる雰囲気はつくってくれなかった。
 「当院は60年の歴史を持つ、精神科、神経科の病棟です。当院ではのべ一万人近い患者さんたちを、いままで診察、治療してまいりました。これをご覧ください。設立当時の木造病棟です。こちらが内部。まだ狭い、患者さんたちがひしめく、修羅場のようなところでした。私? 私はまだここは半年です。それがなにか? こちらが初代院長の白川先生です。あの、お触りにならないで。こちらが昭和49年からの柿崎先生です。髭? 長い? ええ、お髭が長い先生でした。そしてこちらが現院長の遠山先生、あなたがいまからお会いになる先生です。体重? さあ、存じあげませんが。スピード? ダイエット薬? そういったものは、先生は嫌悪されております。昔は、精神病患者には鎮静剤を飲ませておけばいいという悪しき幻想がございましたんですが、遠山院長はこの伝統を、ジョイント? オランダの? お煙草はご遠慮ください。ここは病院なんですのよ。あのいまさら遅いですし、お節介かもしれませんが、あなたどうして不精髭くらい剃ってこなかったのですか。ここは病院なんですのよ、清潔な。いいえ、髭が不潔か清潔かではありませんの。私は清潔な印象のことを言っているんです。それに整髪も。いったいあなたはやる気がおありなんですの? 私、ちょっと驚いているんですのよ」
 それでぼくは少しむっとして、モチベーションと風采を混同するなんて、いまどき流行らないよ、と言ってやった。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu