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Ramaneyya Vagga

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 「まったくきみの世間知らずにもいいかげんうんざりするぜ。いや、おれはみんなのように、そればかりを強調することはやめにしたい。おれはきみがすべてわかった上でとる行動について、知らないわけじゃないんだ。誰かへの当てつけや、自虐でもなくね。きみがそうしなければならなかった動機についても、おれはちゃんと知っているんだぜ。TV? なんと、ほんとだ。こりゃすごい。市街戦じゃないか。ざっと100人は死んだな。ああ、きみが馬鹿の王国をつくり、そこの王になりたがってることだって、おれは知ってるんだよ。だからきみを責めることはしないよ。ただおれはきみが行きたがっているあのビクトリア瀑布のほとりや、セント・へレナの海岸や、クレタの丘なんかに、TVできみと一緒に見たあの景色に、きみが立ったなら、どれだけきみが感激するだろうって思うとね。それがきみのちょっとした妥協ひとつで、実現するのかと思うとね。おれは、きみを不憫なやつだとも思うんだよ。ああ、みんな泣いてるな。ユダヤ人の泣き顔って、ほんと悲しそうだよな。なあ、一個、いいとこ見つけといてやったぞ。精神病院の助手だ。どうだ、気違いどもに囲まれて、気違いについて学ぶ、絶好の機会だとは思わないか。いまから家に来いよ。ナパームじゃないか。こりゃ100人じゃきかないな」
 それでぼくは自転車に乗って、夜の町を走って、コジーンの家を訪ねたのだ。
 コジーンが見せてくれた求人情報は、確かにぼくにぴったりだった。
 「カッコーの巣だ」
 ぼくは笑った。今度はうまく行きそうな気がした。
 「マックみたいに暴れるんじゃないぜ。酋長みたいに、ホウキを握って、隅っこの方で、掃除でもしてりゃいいんだ。患者としりとりでもやりながらな。そら景気つけろよ。ほらライター。ところできみ、きのうスズんちに行っただろう。なんでおれが知ってると思う? あいつがな、わざわざ電話で教えたんだよ。今日、夕方にな。あいつめ、なにがコーナーショップのレコード、そろそろ返してもらっていいかな、だよ。ほらあの、誰もがおっぱいと枕が必要だっていう、あのシングルだよ。借りてんだ。ふん、そうだな。あいつは、平たいおっぱいの女を枕に連れ込む趣味があったっけな。どういう意味かって? へえ、おれに言わせるのかい。いいだろう、先日、おれはきみに、とんだ勘違いのうんちくをたれちまったよ。スズが、心の奥底では、男と寝たがってるだなんてな。あれはとんだ勘違いだったよ。なんだ、あいつときたら、自覚し、確信してるんじゃないか。それどころか、おれに電話で報告するいやらしさまで持ってるんじゃないか。高野さんにもとっくに電話してるよ、わかってるんだ、おれには。ファンカデリック? ああいいよ、二週間くらいならな。コーヒー飲むかい。うん。いいか六郎太、おれがきみに聞きたいのはな、ストーブだ。わからないなんて言わせないぜ。ストーブだよ、六郎太。あいつは、おれに、きみとストーブの話をしたって言ったぜ。薪をくべて、燃え上がる火を眺めながら、暖まったって話をな。フェズ? ああ、いいよ、持ってけ。さあ六郎太、言えよ。どっちなんだ? きのう、おまえはあいつと寝たのか? 頼むから、一緒に火を見ていたんだ、だとか、太陽が月に触れるとき、なにが起こると思う? だとか、くだらない言い方はしないでくれ。おれが聞いているのは、きみたちが裸を見せあったかどうかだ」
 それでぼくは、そんなことはしてないし、なぜスズがゲイだと決めつけるのかと言った。コーヒーを飲んだ。ぼくはレコードをまだ物色していた。コジーンと目を合わせたくない気持ちもあって。
 「ただ、TVを見て、ストーブの話をしていただけさ。スズは、昔のいやな思い出をぼくに話してね。ひどく落ち込んだ。それでぼくにすがりついたよ」
 「抱き合ったってわけか。そうじゃない? そうじゃないって? そうだろうか? でもどうしてスズがおれに自慢するみたいに、きのう、きみとストーブの話をしたことなんか報告するんだ? 言い訳するなよ、まんざらでもなかったんだろう、きみはスズがきらいじゃないだろう、そしてスズは、おれがきみを好きだって思ってるんだ。だからわざわざことの次第を知らせたりしたんだ、頭にくる、おれは実は、今日はかなり頭にきてるんだ。なあ、なぜきみは怒らなかったんだ? なぜスズに抱かれるままにした? きみが進んでそうしたんじゃないなんてことはわかるよ。だがね、きみ、高野さんはどう思うだろうな。なあ六郎太、なぜおれの目を見ない? きみはやましいところがあると、すぐにわかってしまう、ありがたいやつだな」
 「レコード借りるよ。もう帰るよ」
 「そうかい。この話はおわりか。いいだろう、病院、電話するんだろ?」
 「するよ、ありがとう」
 ぼくはもうこれ以上彼の話を聞きたくなかった。なにか意味のある話だとは思えなかった。ぼくはレコードを借りて、自転車に乗って、部屋へ帰った。レコードを聴いた。
 翌朝、精神病院に電話したら、老婦長ふうの人が出て、応募にひどくありがたがられ、長話になった。ええ、募集してみたものの、二ヶ月たっても、たったのひとりも応募者がありませんで、あなたがはじめてなんですのよ。などとはじまって。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu