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Ramaneyya Vagga

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 「ぼくはいまの人間が、金に支配される、愚かなアンドロイドだとは思わないよ。みんなどこかで、同じ人間として、友情を持っているはずだと思うんだ。ぼくはここのところ、ずっとストーブについて考えているんだ。ストーブは薪をくべられて、火を内におこし、部屋を、みなを温める。ぼくには、人間の愛というのは、こういうものなんじゃないかって思えるんだ。つまり、ここでは薪は人間の行動で、火は、感情だ。世界は、人間は、優しい行動と感情によって、温められるんだ。ねえ六郎太、そうは思わないかい?」
 それでスズはぼくにすりよって、もたれかかって、肩を抱いてきた。
 「ああ、そうだね。そう思うよ、ストーブか」
 ぼくはそう言って、もう一服して、TVを見て、コーヒーを飲んだ。


 第二回 きみの世間
       なにが起こる

 結局寝坊して、ぼくはあわてて支度するはめになった。服を着て、コーヒーを飲む時間もなさそうだと落胆していると、電話がかかってきた。
 「はい、赤池です」
 「高野です。起きてた?」
 「あたりまえだよ、もう出掛けるんだ」
 「ひとつ忘れていたわ。ジョイント一本持っていきなさい。緊張してたまらなくなったら、一服するのよ」
 なんだって? ぼくは以前、石になったまま工場の面接を受けて、ひどい目にあったことがある。全身がふるえて、痙攣したようになってしまって、ぶっ倒れそうになった。もうあんなのはこりごりだ。
 「冗談だろ? 絶対よくないよ、それ」
 「あたしを信じないの? ならいいけど」
 「わかったよ、一本持っていってみるよ。じゃあ急ぐから」
 電話を切り、大急ぎで一本巻いて、煙草と一緒に。
 電車に乗って、いろいろ考えたけれど、どんな演技も、ぼくには出来なさそうだし、だいたい、そんなことをしてまでやりたい仕事でもなかった。リラックスすることにした。時間もなかったし、髭もそのままだった。4年ほど前から、自分に髭があるかないかについて、気づかないまでになった。いつものままのぼくでも採用してくれるようなところなら、少しは楽しく働けるだろう。それで電車を降りて、歩きながら半分だけ吸った。ビルの4階で、いざ面接となったとき、ぼくはちょうどぴったり、堅い石になって、背筋を伸ばし、息を深く吸って、リラックスしていたのだ。咳はしなかった。高野さんの助言について考える。ボスだ、チャンプだと自信を確かめるくらいにしておいた。それがよかった。
 「これはどうもこんにちは。はじめまして、ぼくが赤池です。これからぼくの話を聞いていただきます。履歴書ですか、ええでもあれ、実はほんとうに、いい加減に書いたのです。情報科? いえ、ぼくは富士宮4中の卒業式にすら行かなかったのです。中学、ろくにおもしろいのがいませんで、散歩ばかりしていたんですよ。高校? 覚えがはっきりしないんですが、夜学に一ヶ月通っていたはずですよ。もっとも、出席したのは三日ばかりなんですが。職歴? 給料をもらった覚えも、ほとんでありませんで。ダンボールの重さは、少しは覚えていますよ、中身が、ブドウ糖だったこともね。懐かしいです。あとは、ゲーム屋で音楽を聴いたり、本を読んだり、コーヒーを飲んだりしていました。すみません、こちらの時間の方が、よく覚えているようで。ええ、ぼくはあまり働いてこなかったんです。それというのも、ぼくは考え事をして、それについて書き物をしていたのです。それがあまりに楽しいので、ぼくはずっと、何カ月でも、没頭してしまうのです。でもそのうち、ポストにいろんな請求書がたまるようになって、全部捨ててしまうので、よくわからないんですが、借金がたまってしまったようなんです。集金に来たという人が、頻繁にやってきて、一銭もないんですがと言うと、ぼくを憐れむような様子をするんです。オレンジジュースですか! 100%? やあ、ぼくはオレンジジュース大好物です。いただきます。食べ物はファーストフード店のごみをかすめたり、友達にご馳走になったりしているのですが、ぼくは豆腐と海苔と果物とか、そういうものを食べていきたいという計画があって、それでお金がいるんです。泥棒は、したくないんですよ。そんなことをして、捕まったらどうしようなんて、どきどきできるほど、ぼくは心に余裕がないんです。書いているもので、お金をもらえればそれで済むんですが、どうにもまだ下手なので、読んでもらえないようです。ぼくは、一日の時間を短くする決意をしたんです。考え事や、運動や、読書や、書く時間を、あきらめて、お金を貯めて、食べたいものを食べ、行きたいところへ旅ができるように、なりたいと思っているんです。ぼくは、長生きすることに決めたのです。ジョイントを吸っても? オランダの銘柄です。禁煙ですか、失礼。それでなにをすればいいのかわからないんですが、とにかくぼくにはなんでもできますので、ぜひお願いしたいのです」
 こうして、ぼくはあくまで誠実にこの面接官とつきあうことができた。ところが彼は、ぽつりぽつりと、自閉症の子供かなにかみたいに、ええ、赤池さんのやる気は感じますよ、しかし、わたくしどもの会社では、とかなんとか、つぶやきだした。ぼくから顔を背けながら。ぼくはがっかりした。彼はぼくと普通に話してはくれなかった。相手にしてくれなかった。ぼくはあきらめて、そうですか、残念です、どうも、と言って、家に帰った。
 電話だ。コジーンだ。ぼくが今日、なんでも正直に話し、いつもどおりにやったと言うと、ひどく怒った。なんて馬鹿なんだきみは、そんなことやってたら、どこでも受かるわけがないじゃないか。きみはヒッピーのコンミューンの入村式にでも行って来たのか? 自由な人生への抱負を語ってどうするんだ。逆じゃないか、ぼくは機械なのです、ぼくの血はガソリンで、ぼくの日々の食事は、核廃棄物の火で調理されているのです、と言わなきゃならないんだ、などと。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu