Ramaneyya Vagga
「ああ! 私は誤った! 私は罪人だ! 殺せ、早く殺せ! 主よ、なぜ見過ごした? なぜ私の誤りを、見過ごした?」
丘に、風に、ヨシュアの叫びが轟く。同時にリアムも泣いた。牛のようなこの動かざる男が、嘆いて、地に崩れた。
(終末だ)
リアムの涙が止まることはなかった。ヨシュアは、右脇に、槍を受けた。
★
リアムを抱き起こす者がある。力無く、泣き崩れた男を、力強く、優しく包む者がある。リアムはそうと知らないが、ヨシュアの母であった。
「クムランのリアムよ」
声が聞こえる。リアムが目を開く。美しい、リアム自身の母にも似た、目を見開く、女がいた。
「嘆くな。走れ。友を救え」
そのように声が通る。
(天使...)
リアムがそう思う暇もない。女は、リアムを投げ出し、促したからだ。投げられたリアムは、そのまま、走り出した。クムランへ戻らなくてはならない。一度振り向く。母が、女が、自分を見つめていた。
★
思えば、人の力に限界などはない。人は望んだものを、いつでも、望んだ形で手に入れることができる。運命というものは、それがいかに人にとって悲しい結果であろうとも、喜ばしい結果であろうとも、人の短慮には目もくれずに、ただやってきては、過ぎ去っていく。神は、運命は、このように、人の情緒には縁がない。それでも人が行い、さまざまな情緒を得る定めにあるのは、その力に限界がないからである。
人は、望めば、いつでも神を越えることができる。運命を、望んだ形に形作り、手にすることができる。神を使役するかのように、生きることができる。人の強さとは、まことこのような生き方について言うのである。
リアムがクムランに着いたとき、すでにすべてが終わっていた。ほとんどの者が殺され、女は犯されていた。あらゆるものが盗まれた。軍勢は引き上げ、ただ、リアムが想像もできなかった、残酷な景色だけが、そこに残されていた。
ジョセフィーヌは、大きな樫の木の側で、裸で、倒れていた。
(どうやって救えばいいというのか)
リアムにはわからなかった。生きているのかもわからない。確かめる気にもならない。
立ち尽くす。目の前に、樫の木の木陰に、倒れた少女に寄り添うように、女が、そこにいた。白いローブを着て、腕をたらして、垂直に立って、目を見開いて、リアムを見つめている。唇を開く。
「身ごもっている」
そう言う。リアムは手で顔を覆う。リアムはまた崩れそうになる。賊徒に犯され身ごもった少女を、どう救うのか。わからない。
「なにを戸惑う? ジョセフィーヌを妻とし山で生きよ。子を育てよ。そうすることに、なにを戸惑う?」
リアムははっとする。女は微笑んだ。その笑みは、リアムの心に、勇気を植え込んだ。そうしてから、女は背を向け、ゆっくり歩き去った。
リアムは少女を包む。胸に抱く。もはや涙はなかった。
「リアムさん...」
少女が目を覚ます。
「ご本は...」
「いいんだ」
軍勢は、聖書を発見することができなかった。しかしそれは、だれにとっても、ささいなことであった。
「セフィー、愛している」
「まあ...」
少女に、恐怖は、記憶されたのか? 夢になって、忘れられたのか? それも、いずれにせよ、ささいなことだ。
リアムは少女に接吻した。
作品名:Ramaneyya Vagga 作家名:RamaneyyaAsu