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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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「そうそう、愛里くんのお母さんが発表しようとした事は、実は今日僕が言った秘密だったんじゃないかな? 消されるには十分な理由だ。これがもし世界に暴露されたら、権力者たちはそりゃあ困っちゃうだろうなあ。政府のシェルター隠ぺいなど小さなことだ。もし、彼女の復讐をするなら相手は政治家なんかじゃない。もっと恐ろしい、大きな組織なんだよ。まあこの戦争によって彼らは灰になった可能性が高いけどね」
「う……」
 俺たちはついに黙ってしまった。颯太も今聞いた話に打ちのめされている。
「黙ってしまったか。ショッキングな内容だったから無理もない。さて僕はそろそろ眠くなってきた。東条君を掃除係に落とすのはともかく、颯太君には消えてもらってカードを回収しないと。君にプレゼンで負けた恨みはまだ忘れていないし、そのカードは本来君が持つべきものじゃない。そうだ、ついでに美奈くんにも消えてもらって、太一君にそのカードをプレゼントしようかな。あははは」
 俺は颯太の前に立ち、戦いに備えて身構えた。颯太をあんな虫にやられてたまるか!身体に今まで感じたことない力がみなぎって来るのを感じた。
 だが……
「あれ? おかしいな」
 竜崎は手元で何か操作していたが、眉間にしわを寄せている。
「どうしました? 竜崎さん。カメレオンならもうあなたの命令を聞きませんよ」
 颯太は勝ち誇ったように言った。
「何故だ! おまえ、ここに来る前に何かしたな?」
 竜崎の声は焦りを含んでいた。彼が敵対している相手も、まぎれもない『天才』なのだ。
「ちょっとメインフレーム室に立ち寄りました。あなたがお話に夢中になっている間にこのカードを使ってね」
 指先に挟んだカードをひらひら振ってみせた。
「ふん。まあいい。だがコイツは僕の命令を忠実に聞いてくれる」
 竜崎は脇の下のホルスターから鈍く光る拳銃を取り出した。
 さすがにこれには、颯太もなすすべは無いだろうと思った。その時、颯太と目が合う。颯太の目は、任せて下さい!と言っているようにみえる。
「さよなら、颯太君。天才の頭脳を打ち抜くのは非常には残念だが、僕に一度勝ってしまったのが運のつきだったね」
 まさに引き金を引こうとした時だった。颯太を庇おうと身構えていた俺の耳に、後ろから変な音が聞こえてきた。
「ういいいいいいいん!」
「ういいいいいいいん!」
 間違いない、後ろの方からいくつもの音が重なって聞こえて来る。振り向くと子供たちの解凍装置のフタが持ち上がってきている! 数百のフタが一斉に持ち上がる様子は、変な話だが壮観であった。颯太はやはり仕掛けをうっていたのだ。
「おい! おまえ何をしやがった! 拓哉ああああああああああああああ!!」
 竜崎は気が狂ったように叫びながら、自分の子供のカプセルに一目散に走る。
「今です! 走りますよ!」
 颯太が先にドアを開けて飛び出ていく。
「何てことをするんだ! これを止めろ! このまま解凍したら拓哉が死んでしまう!!」
 その声を後ろに聞きながら、俺たちはNoah2ブレインシステムAIのメインフレーム室に走った。竜崎は自分の子供のフタだけを押さえようと必死になっている。
「先輩、時間がありません。とりあえず全てのブロックのドアを解放します!」
 颯太はキーボードを二台同時に高速で叩いている。
「分かった。何か手伝えることは無いか?」
 すぐにドア解放のアナウンスが施設中に流れる。
「子供たちの冷凍装置をオートに切り替えて下さい。その後タイマーをセットして、もう一度冷凍して下さい。十分以内に再冷凍すれば、子供たちは安全です」
「了解! ……よし、セットした。しかし竜崎はすぐに追いかけてくるぞ。どうする?」
「『颯太特製カメレオン』を操作します。ところで先輩、聞こえませんか?」
 警告音に交じって足音が沢山聞こえてくる。沢山の人々がニュートラルエリアのエレベーターに向かっている様子がモニターに映っていた。
「実は、さっきの竜崎さんの話を全部、『施設の人全員』に館内放送を通して聞かせました。僕はここでまだこれからやることがあります。先輩はすぐに愛里ちゃんの所に行って下さい!」
「分かった! あとは頼むぞ。愛里を見つけたら、すぐ戻ってくるからな」
「大丈夫ですよ。僕はもう“殺人装置を無効にしたカメレオン”を掌握しましたから」
 颯太はまだ物凄い勢いでキーボードを叩いている。
「凄いなおまえは。よし、必ず戻ってくる。後は頼む!」
 俺は人でごった返すニュートラルエリアを走り抜け、愛里のいるD‐ブロックに飛び込んだ。
 十分後、愛里を出産プログラムエリアの一室で見つけた。目が合った瞬間二人とも自然と涙がこぼれてきたが、俺はそのまま彼女を抱きしめた。
「よく頑張ったな。館内放送を聞いてたか?」
 愛里の髪の毛を撫でながら聞いた。
「うん。海人の声や颯太の声を聞き間違える訳ないわ。私、ここを動かない方がいいと思って待ってたの」
「正解だ。今、各ブロックから人々がエレベーターで地上に出ようとしている。D‐ブロックの外はパニック状態になってるかもしれない」
「会いに来てくれて嬉しい。お腹の赤ちゃんもきっと喜んでるわ」
 お腹にそっと手を当て微笑んだ。
「ああ、きっと大喜びだな。これも全て颯太のおかげなんだ。あいつは凄いヤツだよ」
「そうね、『よっ、天才!』ってまた褒めてやらなきゃね」
 ふふふと彼女は笑った。
「俺はまだこれからやることがある。ここは安全だから、俺が戻るまでこの部屋にいてくれ。その頃にはパニックは収まっているはずだ。必ず戻ってくるから!」
「分かった。海人、気を付けてね」
 お互いに拳と拳をぶつけた。
 俺はまた颯太の元へ急いだ。ニュートラルエリアでは既に混乱は収まり、みんな順序良くエレベーターの順番待ちをしている。人々の表情は晴れやかで、男性も女性も楽しそうに話している様子が伺える。
(さすが日本人だなあ……。これがきっと日本人の持つ美徳なのかもな)と妙に感心しながら走り抜けた。
「颯太あああ! あれ? あいつどこいったんだ?」
 メインフレーム室に走り込んだが、颯太の姿が見えない。俺は踵を返すと、すぐに竜崎のいた場所に向かった。
 C-ブロックに続くドアは開きっぱなしだった。しかし、颯太の姿も、竜崎の姿も見当たらない。子供たちの解凍装置のフタは今は閉じている。更に奥に進むと、竜崎が転がってもがいていた。近くに拳銃が落ちていて、竜崎は透明なモノに動きを封じられて苦しんでいた。
「東条君か? た、た、助けてくれ。いや、助けて下さい。コイツらを追い払うように颯太君に言ってえええ!」
 竜崎は汗まみれで叫んだ。さっきまでの自信満々の姿からは想像もできないぐらいの情けなさだ。
「颯太を見たか?」
 俺は竜崎の傍に落ちていた拳銃を拾い上げると、銃口を彼に向けて言った。もし愛里がコイツによって殺されていたとしたら、俺はためらいもなく引き金をひいただろう。
「一度様子を見に来たよ。子供達の冷凍装置が正常に動いているのを確認したら出て行った。頼む、助けて!」