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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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終局


『地下施設・C‐ブロック』 一月二十三日 


「東条君。いくら叫んでも現状は変わらないぞ。さてと……そろそろかな」
 竜崎はポケットから小型WEB端末を取り出した。
 突然ドアが開き、勢いよく誰かが飛び込んできた。
「せんぱーい、大丈夫ですか?」
 颯太だ! しかしどうやってここに? 颯太の顔を見た瞬間、何ともいえない心強さを感じた。
「遅かったじゃないか、颯太君。やはり君がハッカーだったんだね。美奈につけたカメレオンからの映像でそろそろ来ることは分かっていたよ」
 口調は憎たらしい程冷静そのもので、颯太の登場にも驚いた様子を見せていない。
「久しぶりですね、竜崎さん。お察しの通り美奈ちゃんから聞いて来ました。しかし、壮観ですね、これだけカプセルがあると。いやー、子供たちを冷凍保存かあ、考えましたね。ところで、早速ですがここは取り引きしませんか?」
 なんだろう。颯太も落ち着いている。
「取り引き? 君が僕に何を与えてくれると言うんだ」
 竜崎はせせら笑う。
「あなたのした事は間違っています。例えばサラを消去したこと。しかし公表はしません。もしエターナルの住人になりたいと望むのなら、それも認めます」
「はっはっは! 僕は別にここを出る気は無い。だって僕はここの支配者だ。何ひとつ不自由はないんだよ」
 竜崎はせせら笑いから今度は可笑しそうにケラケラ笑いだした。
「そうですか。分かりました。では、力づくでも先輩たちと、そしてここに不満を抱いている人たちを解放します」
 しかし、颯太にはそんなに腕力があるとは思えない。第一ここには、竜崎の命令ひとつで自由に動くカメレオンが、手ぐすねひいて彼の命令を待っているのだ。
「まあ、一旦落ち着こう。時間はたっぷりある。戦うのは今から話す事を聞いてからでも遅くないよ」
 竜崎は壁に背をあずけた。だがその手はいつでもカメレオンを動かせるように、マーカーに触れている。
 この瞬間から俺たちは、数百人の沈黙している子供達とともに、想像もし得なかった黒い歴史を聞くことになる。
「まず、これは知っているかな? 東条君に備わっている特殊な遺伝子、君たちはT遺伝子と呼んでいるらしいな。この遺伝子はいきなり発見されたのではない。話は1963年11月22日の“ケネディ暗殺事件”まで遡る」
 自分の声にうっとりした様子で続ける。
「彼の暗殺後、検死が行われた。公表されていないが、検死官は妙な現象を目の当たりにした。大統領の脳にはひどい損傷があったはずなのに、次の日には脳の一部が再生されていたのだ。だがこの時は原因が究明されず、記録も隠ぺいされた。ひょっとして彼は“最初のADAM”だったのかもしれないな」
 俺と颯太は突拍子もない話に不思議と聞き入っていた。
「そして、1976年のモントリオールオリンピックでそれは動き始めた。当時の大統領ジェラルド・フォードの元に驚愕の情報が届けられた。『アメリカは金メダル確実です。なぜなら100メートルを3秒で走る選手を見つけましたから』と。しかし、この選手は表舞台に立つことなく事故で亡くなった。この事を知っている関係者全員もだ。フォードの圧力かもっと上の力か知らんが、この選手の情報も全て隠ぺいされた」
「100メートルを3秒で走る選手なんているわけがない」
 俺は呆れて両手を広げる。
「そうだな、普通に考えたらいる訳ない。だが、非公式には確かに存在したんだよ。ところで、この選手のD・N・Aから何が見つかったと思う?」
「……T遺伝子ですか」
 颯太が俺に代わって答えた。
「はーい、正解。この頃から世界中に“異常なほどの運動能力を持つ者”が発見されだした。その数は、ほんのわずかだがね。例えば、砲丸投げの世界記録は大体二十三メートル程だが、100メートル以上の記録を鼻歌まじりに出す者とかね。だが、彼らもまた何らかの事故にあって亡くなっている」
 自分の語り口に酔ってきたのか、うろうろと歩きながら続ける。
「オリンピックってのは莫大な収益にもなる。このような“スーパー競技者”が一人でもこれに出場したらどうなると思う?」
「みんな白けて、オリンピックなど成立しなくなりますね」
 颯太は当然という顔をして答えた。
「そう! 野球で例えると非常に分かりやすい。時速300キロで投げるピッチャーの球なんて打てるわけがない。キャッチャーだって命がけでそんな球は捕りたくもない。そいつがマウンドに上がったら、野球なんて誰も見なくなるだろ? そこでこのT遺伝子を過剰に持つ人々を『抑制する組織』ができた訳だ」
「抑制ってどういう事ですか?」
 颯太と俺は顔を見合わせる。
「遺伝子を残さない為に事故死させるのは最終手段だ。まず目立ったヤツの食べ物に『特別な抑制剤』を混ぜる。こんなのは組織にとって簡単だよね。だが、まれにこれが効かない人間もいる。この場合は、誘拐してしまうんだ。日本でも年間に約十万人が行方不明になっていて、そのうち一割強が発見されずに行方不明だ ちょっとおかしいとは思わないか?」
「……ひどい話だな」
「身近な日本の例をあげよう。君たちも昔『給食』を食べた事があると思う。T遺伝子が運動能力や頭脳に働いて、将来超人類の片鱗が見える子がクラスにいたとしよう。自治体などに潜り込んでいる組織は、その学校の給食に『集中的に』抑制剤を混ぜるんだ。“なるべく平均的な能力の子供にする”ためにね」
 ここで竜崎は一息つく。俺たちは今聞いた話の薄気味悪さに黙ってしまっていた。相変わらずこの暴露劇の観客は、沈黙した子供たちと俺達だけだった。
「何だ? 急に黙っちゃって。海外なんてもっとエグいぞ。予防接種の時に抑制剤を混ぜて打ってしまうんだから」
 注射の形に手を作り、親指を動かしながら唇をちゅーっとすぼめた。
「つまり、昔から超人類の出現を嫌がっているヤツらがいるってことか?」
「そうだ。彼らは猛獣のような運動能力や、科学を格段に進化させてしまう頭脳を持つ超人類が怖いんだ。例えば超人類が、石油に代わる新しいエネルギーなんて開発してみろ。石油産業で利権を吸っていた連中がどうなるか分かるよな。どんな手を使っても抹殺しなければ、自分たちが今まで通りに君臨できなくなってしまう。武器産業も同じ行動をとるに間違いない。……さて、オリンピックの話に戻そう。オリンピックは何年に一度だっけ?」
「四年だろ」
 もうこの長い話には付き合いたくないが、この男の話はどこか人を惹きつける魔力がある。
「うん。オリンピックの本当の目的は、“世界の国々が、四年間に超人類の成長を国が見逃していないか”のチェックなんだよ。その証拠に出場選手は、見事に平均した運動能力で競っているじゃないか。そう……人類は、生まれた瞬間から監視されているのだよ」
「バカな。しかし日本でも出生時にD・N・Aを登録する制度ができている……」