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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『地下施設・A‐ブロック』 一月十七日


 颯太から竜崎の情報を得た俺は、この日から彼を探し出すことに全力を注いだ。最近ジムで親しくなった、十八歳のスーパー高校生の太一にも手伝ってもらうことにした。
 太一は飛び抜けて運動能力が高い。コミュニティ内はともかく、水泳の日本記録に迫る勢いで記録を日々更新していた。
 彼は、坊主頭で引き締まった体型をしたイケメン君で、ある日人懐っこい爽やかな笑顔で突然俺に話しかけてきた。彼特有の不思議な魅力でたかしや斉藤ともあっという間に仲良くなった。タイプは違うが、颯太と話しているようで楽しかった。
 竜崎を探し出せば、施設の目的を聞き出せる。だがまずは、カメレオンによる“消去という名の殺人”を一刻も早く止めなければならない。この脅威さえ取り除けば、人々は人権を取り戻せるかもしれないのだ。
 朝から四人で、施設の中を手分けして探し回った。
 しかし1000人がこのだだっ広い施設を気ままに動いているという現状が、捜索を難しくさせた。竜崎が名前を変えているということも障害のひとつだ。だが、整形まではしていないと思われるので俺が顔を見れば分かるはずだ。
「……絵がヘタですねえ。これで見つけられたら奇跡ですよ」
 俺が書いた似顔絵を、たかしと斉藤、太一に見せた時の第一声がこれだ。
 写真があれば一番いいのだが、ここの端末からMICのデータにアクセスすることは出来ない。
 だが、颯太の努力により、今日やっとMIC時代の写真が転送されてきた。その写真を手にとり、俺と太一、たかしと斉藤に別れて聞き込みを始めた。
 まずは竜崎の偽名であるスギサキという名前を端末に入力して検索したが、プロテクトがかかっていて不可能だった。やはり足で探すしかないという結論に達した俺たちは、ペアに別れて東ブロック、西ブロックを捜索することになった。



 東ブロック


 俺と太一は東ブロックにある最大のコミュニティ『アンダーグラウンド・ファイトクラブ』に向かった。
 なかなか洒落の聞いた名前である。ここは文字通り『地下』なのだから。要は地下施設の腕自慢が集まって、トーナメント形式の格闘イベントを行っている団体だ。会員は180名を超え、今や地下施設のエンターテインメントの中核をなすまでになっていた。
 テレビコミュの人たちとも連携し、週末の夜には各部屋のテレビでこの試合を見ることができるようになっている。
 男性は基本的に格闘技が嫌いではないし、やはり男性が大勢いると余った体力のはけ口が必要になってくるのは自然な事だと言える。
 俺と太一はA‐ブロックの中心にある中央公園から、東に500m程行ったところに建っている東総合体育館に入って行った。この体育館は普通の学校の体育館の数倍の大きさを誇っている。
 ファイトクラブの練習生がいるエリアに入って行くと、数十人の男たちが汗を流していた。バーベルを持ち上げている者、スパーリングを行っている者を横目で見ながら暑苦しい空間を歩いて行く。一応この団体の代表、橋本にはアポをとってある。
「こんにちは! 約束していた東条です。忙しいところ申し訳ありません」
 奥の広い空間を事務所に改造してあり、『アンダーグラウンド・ファイトクラブ』と書いた立派な木の看板が飾ってある。
「おお、よく来たね。何か聞きたいことがあるんだって?」
 橋本は笑顔で挨拶を返すと、大きな手で椅子を勧めた。
……でかい。とにかくでかいこの男は地上ではレスラーだったんじゃないかと思わせる体格を持っていた。しかし笑うと子供の様な笑顔を見せる。そのギャップに驚くと同時に親しみやすさを覚えた。
「あの、人を探しているんです。スギサキという名前で、体格は中肉中背のサラリーマン風なんですが」
 持ってきた竜崎の写真を見せた。
 太一はテレビで見たことがある橋本を前に、少し緊張しているようだ。
「うーん。一人スギサキという練習生はいるが、顔が違うな。体格もそこの若いヤツぐらいでかい」
 橋本が顎をしゃくった方を見てみると、ゴリラみたいな体格の若者が飲み物を持って部屋に入ってきた。
「そうですか……。一番大きな団体から探しているんですが、もし後で何か分かりましたら、ここに連絡下さい。あ、ファイトクラブいつも観てますんで、これからも頑張って下さい」
 俺は写真のコピーを渡すと、運ばれてきた紅茶に口を付けた。
「分かった。ところで、この写真の男は何かしでかしたのか?」
 少し興味を持った様子で太一に向かって訪ねた。
「いえ、詳しいことは言えませんが、非常に危険な男です。もし見かけても安易に捕まえないで下さい」
 太一は頭が良く、余計な情報を与えない。
「マシンガンでも持っているのかな。まあいい。ところでお兄ちゃんもいいガタイをしてるな。俺たちと一緒にトーナメントを戦って、地下チャンプを目指してみないか?」
 鋭い目で太一を見てにやっと笑った。ダボダボの服を着ていても、分かる人には太一のトップアスリート並の肉体が分かるのだろう。
「僕なんかまだまだですよ。とりあえず、今やっている水泳を極めたいですね」
 太一は白い歯を出して爽やかな笑顔で答えた。
「そうか、残念だな。ではこれから打ち合わせがあるのでこれで失礼する。写真のスギサキだっけ? その男の情報が分かり次第連絡するよ。もし必要なら、顔写真を俺達の番組で公開してやってもいいぞ」
 ぎしっと大きな音を立てて、俺たちより一回りデカい椅子から立ち上がる。
「いえ、公開は必要ありません。姿を隠される可能性がありますので。今日は本当にありがとございました」
 俺たちも立ち上がり、記念に二人とも橋本と握手をすると部屋を出た。
「東条さん、次の大きなコミュは『アミューズメントクラブ・もぐら』ですね。ここはカジノを運営したり、ゲームセンターなどを仕切っています。こちらは西ブロックなのでたかしさん達にまかせて、僕らは三番目に大きい野球コミュ『ポテンヒットクラブ』に向かいましょう」
 メモとにらめっこしている太一には、まだまだ疲れは見えない。
 俺もゲーム好きなので『アミューズメントクラブ・もぐら』の会員にはなっているが、今まで竜崎らしい人は見たことが無い。たかしと斉藤もいつの間にか会員になっていて、今ではかなりの常連らしい。カジノではお金を賭ける訳でもないのに、二人がチップの貯金残高を自慢しあっているのをよく聞いていた。
 今日はこの調子で数件回らなければならないだろう。次の『ポテンヒットクラブ』も会員数100名を超えるので、少しは期待できるかもしれない。
 俺と太一たちはこうして一日のほとんどをコミュニティ巡りに費やした。いつか本人を見つけ出して、この施設の謎を彼の口から聞きださなければならない。



 西ブロック


 同じころ、たかしと斉藤は中央公園から西へ数十分ほど行ったところにある『アミューズメントクラブ・もぐら』に到着した。彼らはここの常連なので、ずかずかとクラブの中へ入っていった。
 一階はゲームセンターになっており、地上にあるあらゆるゲーム筐体を揃えていた。UFOキャッチャーのエリアに、たかしの友人の伸二がスタッフとして働いている。