欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~
『地下施設・A‐ブロック』 同日
竜崎真也は図書館に来ていた。
だだっ広い図書館に入館者は五人もいない。昼食後はここでくつろぎながら、古代の歴史書を読むのが日課だった。知的でハンサムな容姿なのだが、それを隠すようにボサボサの髪型に加え、口髭を生やし伊達メガネまでしている。MICで彼の部下だった者でも、余程注意深く見なければ彼とは気づかないであろう。
MICに入社する前の竜崎は、政治の世界を目指しエリート官僚コースを順調に走っていた。
しかし十年前にどういう訳か出世を諦め、MICに中途入社したのだ。MICに入ってからはめきめきと頭角を現し、カリスマ的なリーダーシップをとるようになっていった。社長の吉永からも信頼を得て、将来的に日本本社を任されるのではという噂が立っていた。
そして数年前に、サラの上司として部下500人をかかえ極秘プロジェクトの総責任者となる。
極秘プロジェクトとはすなわち、『地下シェルターの建設』だ。このプロジェクトが決まった時、彼はある決心をした。
(どんなことをしても、ここに入って生き残ってやる。俺は他のやつらとは違うんだ)と。
颯太からこれを取り上げる事は簡単だった。負けず嫌いな竜崎は、若造にプレゼンで負けた恨みを決して忘れていなかった。いくら颯太が天才でも、階級社会においては権力を持つものが最終的に勝利するのだ。あらゆる手を使って責任者の地位を手に入れると、サラにも計画の一部しか告げず都合のいいようにデータの改ざんをした。まず、彼は新しい名前とコードを手に入れた。
『杉崎真也』という名前を。
マーカーに特殊な信号を出す装置を付け、セキュリティに引っ掛かることもなく入所できた。サラが消去された経緯も知っていたが、特に悲しんだ様子もない。
彼が少し手を貸せば彼女は死なずに済んだであろうが、、もしかしたらカメレオンの性能を確かめる目的で、わざと放置したのかもしれない。
竜崎は氷のような冷たい心の人間だったが、彼にも心を許す唯一の存在があった。
彼のたった一人の子供『拓哉』である。妻とは性格の不一致から離婚をしたが、拓哉だけは目に入れても痛くないほどの可愛がりようだった。
ハルマゲドンの情報は、政府筋とMICの極秘情報網などによりかなり前から知っていた。だが、子供はこの施設に入れることは出来ない。いかに天才竜崎の力を持ってしても不可能であった。そこで彼のとった行動は、驚くべきものだった。
天才は『盲点』をついたのである。
作品名:欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~ 作家名:かざぐるま