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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『地下施設・出産プログラムエリア』 一月十五日


「吉永さん。赤ちゃんは順調に育っていますね」
 椅子に座った医師が、エコー写真を見ながら愛里に向き直った。
「あの、この子の父親がこの施設に居るんですが、会うことはできませんか?」
(前から思っていたんだけど、なんでこの先生も顔を隠しているんだろう?)と考えながら質問した。前に診察をしてくれた医師も顔をマスクで隠していた。
「皆さんそうおっしゃいますが、それは不可能です」
 まっすぐ愛里を見つめながら目を伏せた。
「皆さん? 私の他にも妊婦さんがいらっしゃるんですか?」
「ええ。十名ほど個室で経過をみています。もう少ししたら、あなたも誰かと顔を合わせるかもしれませんね」
 出産プログラムエリアもかなり広く、巨大なショッピングモールぐらいある。
「この子の父親は東条海人という名前で、A‐ブロックに居るんです。先生のお力で何とかなりませんか」
「……東条? あの東条さんかな」
 つぶやくように言ってから首を傾げた。
「先生、知っていらっしゃるんですか? 東条海人です。この子は施設に入る前に、彼から授かりました」
 医師は――はっきりと覚えていた。交配プログラムが始まってから、ただ一人だけ人工授精を望んだ男の事を。そしてその受精は成功し、母親はこの出産プログラムエリアにいるということも。
「いや、私の勘違いでした。では、今日はこれで診断を終わります。激しい運動を避けて、なるべく栄養をとって下さい」
 カルテを机に置くと、椅子をくるりと回し背を向けた。
 愛里は医師の言い方に妙なものを感じたが、それ以上は聞いても無駄と判断した様子で診察室を後にした。
 自室に帰り、頭を整理してから海人にメールを打つ。
「海人、赤ちゃんは順調よ。でも先生がヘンな事を言ってたの。海人の事を知ってる感じだったわ。もし、何か思い当たることがあったら隠さずに教えてね。先生に海人に会えるようにお願いしたけれどダメだった。残念だわ」
 愛里はメールを打ってからお腹に手を当てて横になった。
(これから他の人と会えるかもって先生は言っていたけど、彼女たちのお父さんって一体誰なのかしら)
 答えは出ないまま睡魔に襲われ、眠りにひきこまれていった。