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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『地下施設』 一月十二日 午前


「部屋番号4221号室の東条海人さん。一時間以内にゲート前に待機して下さい」
 突然の館内放送で、この日俺は起こされた。
 何度もこの館内放送は聞いていたが、俺の名前が呼ばれたのは初めてだ。たかしも最近呼び出されたが、D‐ブロックで何が行われているのかについては貝のように口を閉ざしている。俺は颯太から聞いているので、大体の事は分かっているつもりだった。
 三十分後、ゲート前に行くとたかしと斉藤が見送りに来ていた。
「東条さん、俺から言う事は何もありませんけど、ルールには従った方がいいですよ。あの、もし鈴木ひとみさんって人に会ったら伝えて頂きたい事があるんですが」
 たかしは歯切れが悪そうに言った。
「いいよ、なんて伝えればいい?」
「あ、やっぱりいいです。すいませんでした」
「そうか。とにかく行ってくる。斉藤くんも見送りありがとう」
「いえ。よく分からないですけど、東条さんも頑張って下さい」
 斉藤は本当に見当がつかない様子だ。
 マーカーをかざし、ドアをくぐってD‐ブロックに向かった。案内通り2025号室に入って部屋の中をぐるっと見回すと、まるでそこは病院の個室のようだった。大型モニターが部屋の壁にかけてあり、ソファーとテーブル、端末があるだけだ。
 ソファーに座って色々考えていると、ドアが開いて女性が入ってきた。たぶん十代後半ぐらいであろう。大きくて、澄んだ綺麗な目をしている。
 久しぶりに女の人を見て、ちょっと感動さえ覚える。お互い自己紹介をして、向かい合わせにソファーに腰を下ろした。彼女は相馬理紗と名乗った。
『ようこそ。あなた方は交配プログラムに組み込まれました。目の前のモニターをご覧ください』
 モニターの電源が自動で入り映像が流れ、やがて終わった。理紗は最後の映像を見てショックを受けたのか、顔から血の気が引いていた。だが、俺は別の事でショックを受けていた。映像の最後に出てきた女性が、サラに似ているのだ。まさか……。
「あの、東条さんも放送で呼び出されてここに来たんですか?」
「あ、うん。今の説明では、俺たちはこれから子供を作らないといけないみたいだな」
 理紗の声ではっと我に返る。
「私たちのブロックでは、ここは何をする所か密かに噂で流れていました。女はおしゃべり好きですからね」と、にこっと笑った。もう彼女の顔には血の気が戻って来ている。
「強制的に交配させるってことだろうけど、悪いが俺には結婚を決めた女性が地下施設にいる。しかし、拒否イコール消去というルールでは仕方がない。俺は人工授精を望むよ。……今は、死ぬ訳にはいかない」
 彼女は何かを考えている様子で下を向いていた。
「あの、東条さん。男の人が人工授精を選んでも、『女性にとっては同じこと』って気づいてますか? ここのルールだと、選ばれた女性は初めて会った男性の子供を、強制的に産まなければならないんです。愛なんてどこにも入る隙間は無いんですよね。……あ、もちろん東条さんが人工授精を望むなら、私もそれでいいです」
 顔をぱっと上げると、何か吹っ切れたように理紗は答えた。
「この施設の目的が何であるかは大体想像できるけど、人間の人権を無視しちゃいけないよな。俺はこんな方法は間違っていると思う」
「私も同感です。でも、人類を未来に残すためには仕方ない事なんですよね。あの、ぶっちゃけちゃうと、東条さんって私のタイプなので、少しだけ残念です」
 理紗は少し顔を赤らめながらうつむいた。マーカーからの影響もあったのかもしれない。
「え? あ、ありがとう。嘘でも嬉しいよ」
 言葉の真意を理解した瞬間、俺も動揺してしまった。
 その後二人は端末に向かい、マーカーをかざした。人工授精を選びエンターキーを押すと、ラボに案内するアナウンスがあった。
 ラボに入ると白衣を着た四人の医師が待機していた。しかしどのような目的でそうしているのか分からないが、その医師たちの顔はマスクのようなもので隠されている。
 その後俺たちには必要な処置が行われ、俺だけその日のうちにA‐ブロックに戻された。部屋に戻ると、今日起こったことで頭の中がいっぱいになる。
 (たかしが出発間際に言っていたのはこのことだったのか)と俺は納得した。この条件で全てを拒否できる人は、たぶんいない。人間は本能的に生存する方を選んでしまうだろうから。
 ただ、愛里の立場から見れば倫理的にも許される事ではない。自分の愛する人が“他の女性と子供を作った事実”には変わりはないのだ。この地下の世界にはタブーなど存在しないということなのか。

 夕方になり、颯太に送ったメールの返信を待つ間に、愛里にメールを送った。
[体調は大丈夫か? 今日愛里のいるD‐ブロックに行った。同じブロックに愛里がいると思うとやるせない気持ちになったよ。エリア間のセキュリティは完璧で、出産プログラムエリアには近づけもしなかった。きみが交配プログラムに組み込まれなくて、本当に良かったと思っている。たくさん食べて子供に栄養をやってくれ]
 人工授精の件は結局書けなかった。いつか愛里は知るかもしれないが、妊娠している愛里にいま余計な心配をかける訳にはいかない。自分勝手な考えとは分かっているけど……。
 打ち終わって三十分ほど経った時、端末に颯太からのメッセージが表示された。
[頼まれていた件ですが、先輩が映像で見た外人女性はサラの可能性が高いですね。ハッキングした結果、あの日の時点で女性は1000人に到達するはずでしたが、最後の一人が入室していません。質問ですが、サラを包んでいた物体はどんな感じでした?]
 やはり見間違いではなかった。あれはサラだったんだ!
[そうだな。なんか透明というか、光を歪めて動いているたくさんの虫みたいな感じだった]
[やっぱり……。社長に無理にお願いして資料を探してもらったんです。結果、その虫をMICが開発していたことが分かりました。名前は『カメレオン』といって、色を周りの景色に溶け込ませる事ができる蜘蛛型の高性能ロボットです。大きさは手のひらぐらいですが、高解像度カメラと優れた運動機能を持っています]
[なに? と言うことは、MICが開発したそのロボットがサラを消去したってことか……ひどい話だな]
 ふつふつと腹から怒りが湧いてきた。
[いえ、カメレオンは気付かれないように対象物を監視するだけで、人を消去する機能は備えていないと社長は言っています。ただ、それを改造して超高電圧を流すシステムを作った人間がいるとしたらどうします?]
[そんなヤツがMICにいるのか! 一体誰なんだ]
 俺は、キーボードを叩く手に力を込めた。
[先輩も知ってますよね。Noah2と似たようなシステムを独自で開発していて、僕とのプレゼンで負けたあの……]
[まさか、竜崎さんか。そう言えば彼も天才って言われていたな。しかし、なぜ?]
[僕の知らない所で、Noah2のブレインシステムAIの改造をしていたみたいなんです。彼はサラより上のポジションにいましたから、自由自在に手を加えられたと思います]