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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『エターナル チーム・ゴースト』 一月十日 


「いいか! 十時ちょうどにL・D・Fを一時解除する。離陸したら上空を旋回しながら合図を待て。タイミングを逃したら飛行機ごと粉々だぞ。オーバー!」
 松山飛行場に待機している四人乗りセスナ機に、太田からの無線が入った。エンジンの暖機運転も終わり、もういつでも飛びたつ用意はできていた。
「ラジャー! 今のうち防護服の酸素ボンベと、ベントのチェックをしといてね。十分後に離陸するわ」
 アイリーンは防護服の中からチームに指示を出した。他の三人もこの作戦のために軽量化された防護服を身に着けている。
 十分後、滑走路を旋回しセスナ機は勢いよく離陸した。
「3、2、1、今だ! ……ゴーストどうだ?」
 博士と太田の連携でL・D・Fは数十秒解除された。その隙を縫って、今セスナはエターナル上空から一気に飛び出す。ハルマゲドン以降エターナルから出たものは彼らが初めてだった。
「現在、エターナル北の海上を順調に飛行中。脱出成功です!」
「イーッヤッホウ!」
 機内では、防護服を着たままだが全員がハイタッチしていた。
 セスナ機は有視界飛行で島根を目指す。目下には火災の後が扇型に広がり、広島と岡山を焦がしていた。
「こちらゴースト。このまま出雲飛行場に着陸後、陸路で松江に向かう予定よ。もし着陸できそうな道路があった場合は、強行着陸を試みるかもしれないわ。500m程度の道路があれば十分可能だと思うから」
 片手に無線機を持ったアイリーンは、慣れた手つきで操縦している。
「了解した。くれぐれも防護服を破くなよ。外の放射線量はかなり高い。着陸後連絡をくれ」
「ラジャー! あ、颯太から何か伝えたいことがあるみたい。繋ぐわね」
「太田さんですか? あの、今こんなこと言ったらあれですけど、全員絶対無事に帰りますから心配しないで下さいね」
 少しくぐもった声だが、太田にはよく聞こえた。
「頼むぞ、颯太。みんなを守ってくれ」
 颯太に力強くそう答えると、太田からの無線は切れた。
 セスナ機は、島根原発の近くを旋回しながら着陸できそうな滑走路を探した。やがて大きな工場の道路を上空から見つけ、敷地内に着陸を試みる。着陸は無事成功し、太田にこれから現場に向かう旨を告げ四人は飛行機を降りて歩き出した。徒歩で十分もあれば着く距離だ。
 原発のメインゲートの詰所には人影がない。颯太は用意していたIDハッキングキットのハーネスを扉につないだ。彼の得意分野だ。
 この島根原発には沸騰水型軽水炉(BWR)が三基ある。電子ロックを外すと、颯太たちはメインコントロールルームに入り、稼働状況を確認し始めた。
「一、二号機は正常に稼働してますが、三号機の炉心温度が異常に上がっています。冷却水の制御はこちらからはできなくなっています。誰か行って冷却水の弁を手動で調整しないと」
 颯太の言葉に危機感がこもる。
「私とボビーで行くわ。チャンは颯太を手伝って」
「了解です。アイリーンさん、気をつけて下さいね」
 アイリーンは颯太に親指を立てると、ボビーをひき連れて三号機に歩き出した。残された颯太たちは、エターナルへの地下に分岐している送電管を探し出す作業を開始した。
「チャンさんすいません。そっちのパネルを開けて、スイッチをACTIVEにして下さい」
 チャンは機械に詳しく、銃の分解や掃除などアイリーンより早くできる。
 突然、けたたましい警告音が建物内に鳴り響いた。モニターを見てみると三号機に放射能漏れが起きている。炉心温度が上がりすぎ、冷却水を急に手動で流したのがいけなかったらしい。放射線を含んだ水蒸気が、パイプの亀裂部分から周りに漏れ出しているのだ。
「アイリーンさん! すぐに三号機から避難して下さい! 水蒸気爆発が起こる可能性があります」
 颯太は力いっぱい無線機を掴んで叫んだが、雑音ばかりでアイリーンからの返事は聞こえてこない。
「チャンさん、俺見てきますからここを頼みます!」
 言うが早いか走って颯太は三号機に向かった。
 息を切らせながら三号機の建屋のドアをくぐると、奥に二人の人影があった。一人が倒れ、それを介抱しているようだ。
 まさか……。
「アイリーンさあああん!! ボビーさああああん! 大丈夫ですかあああ!!」
 颯太はあらん限りの大声を出しながら二人に駆け寄った。部屋の中は水蒸気によって視界が悪くなっている。
「私は大丈夫よ! でもボビーが」
 近くに行くとボビーの耐熱ヘルメットが、真っ二つに割れて足元に転がっていた。アイリーンはボビーの口をタオルで覆い、青い顔をして声を掛けている。
「冷却水を手動で出したあと、急に水蒸気が噴き出してきたの。ボビーが私をかばってくれた拍子に彼の頭に高圧の水蒸気が直撃したわ。あっという間にヘルメットが吹っ飛んで壊れてしまった……」
 アイリーンは涙声で颯太の腕を掴んだ。。深緑色の瞳が悲しみで濡れている。
「とにかく、外に連れ出しましょう。俺は、これから水蒸気を止めてきます」
 ボビーを建物の外に連れ出すと、颯太は足早に再び建物に飛び込んで行った。建物の影に寝かされたボビーの意識は無く、鼻を中心にひどい火傷を負っている。
 十分後、やっと建物からの警告音が止まった。しばらくして颯太がよろよろ出てきたが、ケガをしているようには見えない。
「水蒸気を非常用のダクトに逃がしました。部屋の中はまだ高温ですが、もう大丈夫です」
ヘルメットの中の颯太の顔は、汗でびしょ濡れだった。耐熱温度ぎりぎりの相当な高温の中で作業してきたのであろう。まさに命がけの勝負だったことを物語っていた。
「ありがとう、颯太。私はボビーを飛行機まで運ぶわ」
アイリーンはボビーに肩を貸し、歩き出そうとした。
「チャンさんにも手伝ってもらいましょう。僕が説明してきますので、ここで少し待ってていて下さい」
 颯太が去って少しすると、チャンが小走りでやってきた。防護服を着て走ることは酸素の無駄遣いだが、今はそれどころではない様子だ。
「ボビー、大丈夫か!?」
 チャンの大声の問いかけにボビーの返事は無い。時間を追うごとに、呼吸は浅く早くなっていく。
「あとは颯太にまかせて、飛行機まで運ぶわよ。一刻も早く医者に診せないと」
「……なあ、アイリーン……みんなで……休暇……行ったカリフォルニアのビーチは、最高だった……な。あんたは赤いビキニで……さあ」
 ボビーが急に目を開けてしゃべりだした。身体が細かく痙攣し、口元から血の筋が流れ出した。
「お願い、もうしゃべらないで! あんたが戦場以外で死ぬ訳ないじゃないの! あたしたちを置いていったら承知しないわよ!」
 アイリーンは、ボビーの身体を揺さぶりながら天に向かって吠えた。涙が頬を伝って流れていくのが見える。
「おい、ボビー! おまえにまだポーカーの負けを払ってないんだぞ! 今度はちゃんと払うから頼む、死ぬなよ。なあ、俺を見ろ。見てくれよ!」
 チャンも戦友の頭を持ち上げ、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
 火傷の跡で分かりにくかったが、ボビーの眼はその時確かに笑っていた。