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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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過去





『出会い』 五年前 初春


 それは五年前の桜の咲くまだ肌寒い季節だった。
 俺はMICの技術者となって一年が過ぎ、やっと仕事を覚えてきた時期だ。帰宅後は疲れてすぐに寝てしまうので、趣味のオンラインゲームをやっている時間もなかった。
 やっと休みが取れた日の夜、久しぶりにゲームを起動してみた。
【パーティーハンティング】
 タイトル通り、パーティーを組んでモンスターを狩るゲームだ。いつものように白い愛馬に跨り、モンスターを探していると……。
 浜辺で一人佇んで海を眺めている少年がいた。
(一人で何をしているんだろう)と思いつつ、ゆっくりとした歩調で後ろを通り過ぎようとした時だった。
「お湯が沸きました」と電子ボイスが台所から聞こえてくる。
 立ち上がって珈琲を入れて戻ってくると、右上のチャット画面に書かれたメッセージが点滅している。
「こんばんは。友達とはぐれちゃったんだ。悪いけど次の街まで乗せてってくれない?」画面をよく見ると、ちゃっかり馬の後ろにさっきの少年がもう跨っているではないか。
 まあ、このゲームではさほど珍しい事ではない。
「いいですよ。俺はカイト。君は?」と質問してみた。
「ボクはヨッシー! よろしくね」
 ゲームの中の少年が即座に答えた。
 NPC(ノンプレイヤーキャラクター)としかパーティーを組んだ事が無かった俺は、ゲーム内で友人を作ったことはないのだが、この日はこの快活な少年ヨッシー君と夜中まで一緒にプレイした。彼とは何故か話が弾み、すごく楽しかったのを覚えている。
 何度か休みの日にヨッシー君とプレイしているうちに、同じ東京に住んでいることが分かった。そして「今度お茶でも飲みながらゲームの話でもしよう」ということになった。
 これが、ヨッシー君とリアルで顔を合わせたきっかけである。


一週間後
 

「ヤバイ! 五分遅刻しちゃった。ヨッシー君怒ってなきゃいいけど」
 店内を見渡すと、サラリーマンの二人連れや新聞を読んでいる初老の男性、他には若い女性しかいない。今日は、ヨッシー君と初めて会う約束した日だった。
「ヨッシー君まだ来てないみたいだな。年は若そうだったから、当てはまる人いないし」と独り言を言いながら席に着こうとしたその時!
「カイトさんですか?」
 良く通る綺麗な声で、隣のテーブルの人から呼び止められた。
 声の主は、なんと先ほどの若い女性だ。この時俺は「はい」と「いいえ」が混ざって「へえ」と言っていた。
「え、まさかヨッシー君? いや、ヨッシーさん? 男性のはずじゃ……?」
「いきなり笑わせないで、お侍さん。細かいことは気にしないでいいよ。こっちにきて座って話そ。ところで、思ってたよりイケメンだね。ゲームのキャラはひげもじゃのクマ男だったじゃん」
 形の良い唇を押さえてくすくす笑った。
「いやいや、君なんてそもそも性別が違うでしょ」
 俺もつられて一緒にくすくす笑い出す。俺たちの出会いは『笑顔』から始まった。
 ヨッシー君の正体は、黒髪を耳にかけ赤いメガネが良く似合う、めちゃくちゃ可愛い女の子だった。この時は、このヨッシー君が恋人になるとは思いもしなかったけど。
 俺は男の友達には人気があったが女の子の友達はあまりいなかったし、今までこんな可愛い子と話したことは無かった。しかし何が気に入ったのか分からないが、彼女から告白され五年後の今でも仲良く付き合っている。
 現在までに知った事は、彼女はいわゆる『天才』だった。十一歳でイギリス最高峰と言われるオープン大学に入学を許されたらしい。
 更に最も驚いたのは、あの『WEB‐EYE』を開発した本人であるということだ。それもわずか十六歳で。
 なぜ愛里のような才女が、俺みたいなパッとしない男に興味を持ったのかは未だに謎だ。身長は高いが、いわゆるフツメンで運動神経も特に良い訳ではない。趣味といえば、ネットや読書、学生時代からやっている乗馬ぐらいだ。
 秋晴れの広がる気持ちのいい朝、乗馬の途中で一度だけ何気なく愛里に聞いてみたことがある。
「どうして俺と付き合う気になったの?」
「そうねえ……あの時、馬に乗せてくれたからよ」
 悪戯っぽい目をしてそう答えた。
 愛里は十年ほど前に母親を亡くし、父と祖母の手によって愛情いっぱいに育てられた。まだ会ったことはないが、お父さんは大きな会社を経営しているらしい。
 彼女は一人っ子なので俺の母や妹と、本当の家族みたいにとても仲良くしている。俺抜きで温泉旅行なども楽しんでいるようだ。
 妹にいたっては、「お兄ちゃんよりも、愛里お姉ちゃんが好き」などという始末だ。
 だが、たまに彼女は凄く寂しそうな表情をする事がある。家で家族に混ざってわいわい食事している時に、俺の母親をじっと見つめている事があるのだ。
 母の面影を重ねて見ているのだろうと思うと、そのたびに胸が苦しくなった。
 そう――愛理は人一倍“母親”というものにあこがれていたのかもしれない。