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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『天才ハッカー』 高校時代 夏


「颯太! 久しぶりじゃん!」
 秋葉原の駅前で、元気のいい声と共にぱーんと背中を強く叩かれた。
「いってぇぇー! 誰だよ」
 耳のイヤホンを外して振り返ると、愛里がニコニコしながら立っていた。十七歳の夏のことである。
「お、帰って来てたのか?」
「うん。また一緒の学校だよ」
 愛里は久しぶりに会う颯太の顔を見つめ、嬉しそうに答えた。
「おまえ頭いいんだからさ、もっといい学校に編入できただろ」
 不思議そうな顔で首を傾げる。
「いいのいいの。颯太や幼馴染もいるしね」
「マジでヘンなやつだよな。おまえって」
「ヘンとか言わないでよ。しっかし、今日は暑いわね。せっかく会えたんだからお茶でも飲む? 私おごるわよ」
 この日の都内は三十℃を軽く超えていた。
「うーん。そうだ、ちょうど良かった! 例のヤツやっと完成したぜ。これから家に帰って起動するけど、どうする?」
「マジで? ……もちろん行くっしょ」
 愛里は子犬のように目を輝かせている。もし彼女にしっぽが着いていたら、きっとぶんぶん振っていたに違いない。

 颯太の部屋は一言でいうと、秘密基地だ。パソコン端末が数台並び、ワケのわからない配線が部屋中を這い回っている。彼はいったいどこで寝ているのだろうか、ベッドがどこにも見当たらなかった。
 女の子が遊びに来て決してくつろげる部屋ではないが、愛里は「ふむふむ。なるほどね。ほー! そうきたかあ!」と何やら頷きながら部屋の中を忙しく歩き回っている。玄人向けの機器や役割、それに繋がる配線までも理解しているようだ。
 颯太は(やっぱりヘンなヤツだ)と吹き出しそうになるのをこらえて、横目で愛里を見ながらメイン端末を起動した。
 いつの間にか隣に座った愛里が「よっ! 天才ハッカー!」とか、「隊長! まだでありますか?」と敬礼しながら、目をキラキラさせてモニターと颯太を交互に見ている。
【Noah2 ハッキングプログラム・バージョン?】
 骸骨がリンゴを齧って行く画面が終わると、その下にこの文字が表示される。
「ちょっと信じられないだろうけど、コイツはどんなファイアーウォールもバキバキに突破できるんだぜ」
 颯太は自慢げに続ける。
「実はさあ、三日前に世界一のハッカーと言われている、ジョン・ハーヴェイとハッキング勝負して勝っちゃったんだ。もちろん非公式だけどね。さてと、試しにどこかに侵入してみようか?」
「……颯太、実はお願いがあるんだ。私のお母さんの事でどうしても気になることがあるの」
 はしゃいでいた時と別人のように、急に悲しい目をしながら切り出した。少し言いづらそうに続ける。
「帰国したらね、差出人の名前がない私宛の手紙があってさ。お母さんは、“事故じゃなくて政府に殺された”って書いてあったの。新聞社の局長だったお母さんは、何か大きな秘密をメディアに公表しようとしていたんだって」
 颯太はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「分かった。前にハッキング仲間から聞いた事があるけど、政府の機密が詰まっているサーバーがどこかにあるらしい。とりあえずそこに侵入してみるよ。パスワードやなんやら時間はかかると思うけど、何かわかったら連絡するから」
「ありがとう! 颯太」
 うるんだ眼で颯太に深々と頭を下げ、愛里は部屋を出て行った。後姿がとてもか細く見え、それが颯太の闘志に火をつけた。

 その夜、颯太から電話で呼び出された愛里は、再び颯太の部屋にいた。
「いい? ここをよく見て。政府は2000年から、密かに国民全員の指紋とDNAデータを採取していた。これがまずひとつ。二つ目は、来たる核戦争を想定して秘密裏に地下シェルターを建設しているらしい」
「2000年って……」
 信じられないという顔をして愛里は目をまるくしている。
「恐ろしいことに有事の際、このシェルターに一般市民は絶対に入れない。政府と関係する一部の特権階級と、その親族たちしか入れないんだ」
 颯太は興奮して続ける。
「つまり、一般市民はなにもできずに死ぬしかない。ひどいね。次に、『情報漏えい対策本部』からの報告書の中から、排除対象と思われる共通したシリアルナンバーが出てきた」
【B‐088824557】
「これをNoah2で収集したDNAデータベースと、暗号解読プログラムに照らし合わせた結果……」
「お母さんね」
「吉永京子。そう、君のお母さんだ。手紙を書いた人は本当の事を書いてたんだ! その手紙を今持ってるか?」
「うん。持ってきた」
 バッグから手紙を取り出すと颯太に渡した。よく見ると、手紙の右下に小さな字で何か番号が書いてある。
【A‐075135547】
 颯太は愛里の目の前で軽やかにキーを叩きだす。政府の機密サーバーに軽々と侵入し、DNAデータベースにこの数字を打ち込んだ。
『太田勝利・二十四歳・O型・日本新聞社勤務』とまず表示されてから、住所や電話番号、そして最後になぜか不必要だと思われるほど詳細な〈遺伝子情報〉が書かれていた。
「とにかく、この人に会ってみることだね。何か必要な情報があればすぐ調べるからさ」
「そうね。まずはこの人が、今生きているかどうかを調べて」
 怒りを抑えたような静かな口調だ。その両手は固く握りしめられている。
 颯太は思った。愛里のお母さんの謀殺に政府の組織が関わっていたとしたら、この太田という人の身も危険に晒されてるかもしれないと。