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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『地下六十階・B‐ブロック コンピュータ室』 十月十八日 深夜


「先輩! 僕たちもう二日もろくに寝てないっスよね」
 颯太はメインコンピュータ室の椅子にふんぞり返り、濡れたタオルを目に当てていた。サーバーが乱立している部屋はだだっ広く、声が無駄に反響する。ブーンブーンとくぐもった音が、ガラスの向こうから聞こえてくる。
「全くだよな。何が快適な寝室だっての。ほとんどここに缶詰じゃん」
 冷めた珈琲を一気に飲み干すと、画面に映っている見取り図に俺は目を移した。この地下施設は大きく分けて四つのブロックに分かれている。
 A‐ブロック 男性1000人収容。
 B‐ブロック 女性1000人収容。
 C‐ブロック 10000種の動植物。冷凍保存。
 D‐ブロック 謎のブロック。収容人数も資格も知らされていない。
 このような分かれ方だ。
 ビジュアル的には上から見ると、二本の通路が十字架のようにクロスしており、十字架の先端にはそれぞれ広大なブロックが繋がっている。ここが『シェルター』であることは、一つ三メートルもある分厚い壁が五層構造で施設を取り囲んでいることで分かる。更に、施設から地面までの五百メートルの間には、厚い天井が幾重にも積み重ねられていた。
 構造的には、「どんな核爆発にも耐えられる」と専門家に太鼓判を押されていた。
「先輩、今も選民プログラムが動いてるんですけど、相変わらずD‐ブロックだけ動きませんねえ」
【A‐0316 B‐0385 C‐9626 D‐0000】
 そういえば、最近妙にここ、B‐ブロックがざわざわしている気配がする。ABC‐ブロックの数字は、俺達が初めてこの部屋に入った時から着実に増えていた。なぜD‐ブロックだけがゼロのままなのは未だに謎だが。
 果たしてこの中に俺たちは入っているのだろうか……。油断するといつも家族や愛里のことを考えてしまう。だが、それは選民プログラムが決めることなのだ。
「とにかく、早く終わらせてここから出ようぜ」
――返事はない。
 振り返ると、颯太は軽いイビキをかきながら気持ちよさそうに眠っていた。



『渋谷』 十月十七日 夕方


 街は華やかな色彩の服を着た若者たちで、ごった返していた。
 道玄坂沿いのこじゃれた小さなカフェで、久美、あかね、千歌はいつも通りのお喋りを楽しんでいた。マスターは相変わらず暇そうに煙草をくゆらせている。
「ねえねえ、そういえばさ、昨日変な封筒があたし宛に送られてきたんだけど」
 千歌はバッグから封筒を取り出しながら、思い出したようにみんなに見せる。
「なあに? 見せてみなよ」
 あかねは目の前のカフェオレをくるくるとかき混ぜると、あまり興味なさそうに聞いた。
 ずっしりと膨らんだ封筒は重く、差出人の名前には『MIC』と書いてある。
「MICってさ、確か大企業じゃん。アンタまさかこっそり就職活動始めてんじゃないでしょうねー?」
 久美は興味津々に覗き込むと、千歌に冷ややかな視線を送る。
「なわけないじゃん。まだ十七歳だし」
 久美の疑問を否定しつつ中身を取り出そうとした時、一枚の紙が先に出てきた。
【おめでとうございます! あなたは選ばれました!】
 これでもかというぐらいの、大きく赤い字で印刷されていた。
 ちょうどその時、入口の鐘の音が鳴り響きドアが勢いよく開いた。あかねの彼氏だ。
「やっぱここだったんだ。みんな待ってんぞ!」
 息を切らせながら、呆れたような声であかねたちに言うと、ついてこいといわんばかりにくいくいと彼女たちを手招きした。
「もうそんな時間? ヤバイヤバイ!」
 あかねが氷の溶け切ったカフェオレを一気に飲み干すのを横目で見ながら、千歌はそっと紙を封筒に戻しバッグに押し込んで店を出た。

 その夜、千歌は門限ギリギリの十一時に帰宅すると、バッグをぽんっとベッドに投げた。バウンドしたはずみでさっきの封筒と、ウサギのぬいぐるみが豹柄の敷物に落ちる。
「そうだ。忘れてた。ちょっと開けてみるかあ」とまず紙を取り出してみた。
『おめでとうございます! あなたは選ばれました! ただちに同封したマーカーを手首にはめてください。なお、二十四時間以内に本人照合が行われない場合、権利は消滅します』
 次に時計に似た金色のブレスレットが出てくる。持ってみると思ったより重い。
「うっわ! なにこれ、ダッサい。おっさんがしてる時計みたいじゃん。でも久美が大企業って言ってたしなあ……」
 よく見ると変な絵の右下に数字が浮かんでいる。
【01:52:32】
 数字はカウントダウンしているように見える。千歌は軽い興味を持ち、左手首にそれをはめてみた。
「いた!」
 金属的な音と共に、鋭い痛みが手首の内側に走る。間髪入れずにブレスレットから音声が流れ始めた。
『水野千歌 認証されました。ただちにWEB‐EYEを装着してください』
 千歌は命令されるまま※WEB‐EYEをかけた。すると……四国までの移動方法やチケットの予約完了画面の窓が開く。次にエンターキーを瞬きでクリックしてみるとメッセージと共に手首にひきつったような軽い痛みが走る。
「マーカーはあなたの生体組織と一部一体化しました。十二月二十日までに四国に向かってください。なお、無理に外した場合、残念ながらあなたは生きる権利を永遠に失います」
 今まで感じたことのない強迫観念が湧いてくるのを感じ、呆然とした様子でWEB‐EYEを外した。
 マーカーが生体組織と一体化した時から、特殊な電子パルスが大脳皮質に直接送り続けられていることを彼女は知る由もない。
「行かなきゃ……」
 うつろな目で身の回りの荷物をまとめ始めた。

※WEB‐EYEとはこの時代の最新情報端末である。例えるなら色が薄いサングラスと言ったところか。MICの開発したこのメガネ型端末は、今や世界中の若者から老人まで、ほとんどの人が所有している。一世代前の携帯電話のような普及率だ。
機能としては眼球の動きを正確に判断してマウスポイントとし、瞬き一回でクリック、二回でダブルクリックとなる。目を見開くと拡大、細めると縮小する。他の機能も豊富に併せ持つこの機械は、パソコン端末が眼鏡に集約されたと考えてもらえると分かりやすい。