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かざぐるま
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novelistID. 45528
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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「お父さんどうしたの? なんで泣いてるの? どこか痛いの?」
 娘がひろしの止まってしまった指先を見て、心配そうな顔で見上げている。
 ひろしは妻と娘を守れない自分の無力さを悔やんでいた。ひろしと幸恵は今日このクリスマスの日に合わせて、娘にプレゼントを用意していた。前から欲しがっていた補助輪付きのピンクの小さな自転車だ。留美は飛び上って喜び、ごはんを食べたら乗る練習をするらしい。
 しかし、もし噂通りの事が起これば、この自転車に乗る娘の姿を明日から見ることはできなくなってしまう。
「何でもないよ。留美のじゃがいもがヘンだから、笑っちゃって涙が出たんだよ」
 留美はお父さんが自分の顔を見るたびに、時々悲しい顔をしていることに気付いていた。七歳になったばかりの留美も今日の事を友達に聞いて何となく知っていたが、信じてはいなかった。“お父さんとお母さんがいれば絶対に大丈夫”と信じていたからだ。
 あと数時間で起こる事など忘れたかのように、家族は最後のカレー作りに夢中になっていった。
 楽しそうな笑い声とカレーの香りが、開けっ放しのベランダから漏れてくる。これを使いきったら、もうカレーを作る材料など手に入らないという事も両親は分かっていた。
 たぶんお昼には間に合うはずだ。いや、無理にでも間に合わせなければならない。初めて三人で力を合わせて作ったカレーは、きっと今までで、いや世界で一番美味しいだろう。
 ドオオオン!
 家が細かく揺れる。留美がびっくりして父にしがみついた。
(ミサイルの爆発にしては音が小さいな)とひろしはいぶかしげに天井を見上げた。
 コンロにかけたカレーは、まだ完成していない。
「おい、この部屋は誰かいるぞ。そのままぶっ壊しちまえ!」
 玄関のドアが誰かに無理やり壊される音が、マンション中に響き渡った。