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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『エターナル・作戦本部』 十二月二十五日 クリスマス 零時


 太田の指示により、夜中の零時をもってエターナルは『非常警戒体制』に移行する。
 まず住民は最寄りの避難施設に行くか、自宅待機を命じられた。次に、今日の正午に嘉手納基地に着弾するミサイル撃墜のために、沖縄に向けイージス艦二隻を終結させた。これは日本政府からの応援要請でもあったが、エターナル側はもともと撃墜の為には協力するつもりであった。
 着弾を阻止することができれば双方の国ともメリットがあるうえに、今は撃墜の可能性を少しでも上げるべきだと太田は考えた。だが問題はミサイルの弾頭が通常か、核かということだ。             
 通常弾頭だった場合は、その後の対策が大きく変わってくる可能性もある。ただこの段階まできてしまったら、どちらにしても既に威嚇では済まされないが。 
 イージス艦の情報とともに、最終着弾予想地点も日本政府に伝えてある。しかし、この時点で『座標が変更』された事と、日本に『三発同時発射』することを日本政府は、いや太田でさえも予想していなかった。
 残念なことに、ミサイルの座標をずらす颯太のウイルスは結局間に合わなかった。MICが埋めたスパイプログラムは、ついに発見され撤去されてしまったからだ。
「入国審査を済ませた人々が、明石海峡大橋の検問所で大行列を作っているもようです!」
 太田のもとに先ほど報告があった。
「午前十一時までになるべく多くの人をエターナルに入れるように」と太田は関係者に通達した。
 なぜなら大型L・D・F発動時に、レーザーの発射装置の近くいると非常に危険だからだ。午前十一時になり次第、橋から全員退去してもらうしかない。
 太田と博士、颯太はこの時間から、本部室に籠りっきりで作戦の指示に当たる事になっている。
「私は自宅待機しているよ。せっかくエターナルに家を新築したからね。出番があったら呼んでくれ」
 舟木は爆弾など恐れるほどのものではないという様子で、自宅待機を選んだ。
 作戦本部には広い室内に数台の端末と大型モニターが設置され、エターナル各地の詳細な映像が見られるようなっている。颯太が改造した新型レーダーにより、エターナル上空はより完全にカバーできるようになった。海岸線の要所に放射線感知装置を設置し、放射線の濃度もリアルタイムに報告されるようになっている。
 太田は一通り指示を出し終わったあと、部屋中央にある作戦責任者の席に座る。しばらくして彼の内線が鳴った。
「入っていいよ」
 ブロンドの髪に緑の瞳。入って来たのは……なんと、アイリーンだ。
 襲撃事件で逮捕された三人は、しばらく本部の拘束室に拘留されていた。
「俺たちと一緒にこの国を守ってみないか?」
 あろうことか自分の命を狙った相手に、太田は敬意を持って提案した。傭兵だった三人の経歴と実力を素直に認め、力を貸して欲しいと彼らに熱く語りかけた。
 アイリーン達にはかなりの報酬額を提示したが、彼らはそれを拒否し、たったひとつだけ条件を出した。
「エターナルの国民になりたい」と望んだのだ。
 彼らは、太田の『国を愛する気持ち』に惚れ込んだのである。今では太田の右腕となって、警備面の責任者を彼女が任されるまでになっていた。
 内部では危惧する声も上がったが、彼女たちの実直な勤務態度を見ているうちにスタッフたちもだんだんと打ち解けていった。
 武器の扱いにも実践にも慣れたこの三人に、太田は重大な任務を与えた。それは、伊方原子力発電所の警備だ。この発電所はどんなことがあっても破壊、侵略されてはならない重要な設備である。
「アイリーン、いよいよ今日が勝負だ。分かっていると思うが、発電所の方を頼んだぞ。L・D・F発動前の停電が心配だ。工作員が暗躍しているという報告がある。アリ一匹入れないようにしてくれ」
「まかせて。場合によっては発砲を許可して欲しいけど」
 深い緑の瞳が太田を見つめている。
「そちらの判断にまかせる。プロの目で状況をしっかり把握してから判断するようにと、ボビーとチャンにも伝えてくれ」
「イエス、サー。……母国にいるより安全な環境を提供してくれて、太田には本当に感謝してる。いくら私でも核にはかなわないもんね」
 かかとを合わせ敬礼したあと、意味ありげにウインクすると部屋から出て行った。
「博士、アイリーンさんが太田さんを見る目がなんかアレですよね」
「ああ、すっごくアレじゃな」
 颯太と博士は、隣り合ったコンソールでひそひそ話をしていた。
「颯太、今は無駄話をしている時じゃないぞ」
「はい、すいません」
 太田は咳払いをひとつしてから二人に近づいてきた。
「実はな、誰にも言ってないんだが、今回の事が落ち着いたらアイリーンにプロポーズするんだ」
 短髪に指を入れて、照れ臭そうに頭を掻く。
「ええええええ!」
「ふお!」
 颯太と博士は顔を見合わせた。博士など飲みかけの珈琲に、白い髭が浸かったまま固まっている。全く予想しなかったカップリングに驚くのも無理はない。
「一緒に警備面の仕事をしているうちにね。不思議なもんだよな」
「人間どんな状況でも恋は芽生えるものじゃな。これはめでたい! 何としても今日を乗り切らなければの。ご褒美に太田くんのプロポーズが見れるぞい」
 お父さんのような笑顔をして手を叩いた。笑うとますますアインシュタイン博士にそっくりだ。
「では、この話題はこれくらいにして作戦に入ります。颯太は着弾三時間前からレーダーで警戒してくれ。何かあったらすぐ知らせるように。博士はL・D・Fの発動スイッチをお願いします」
「了解です」
「まかせてくれ」
 颯太の顔が引き締まり、キーボードを叩く指がピアニストのように踊り出す。
「太田君いいかね。まず三十分前に島全体の大型L・D・Fを発動する。その後小型のL・D・Fを全て発動。じゃが脅威レベルによっては、小型の発動はしばらく見送るかもしれん」
「ではそのような段取りで行きましょう。初期電力の確保に伴い、着弾の一時間前から必要施設以外は停電になります。その時が一番テロリストに狙われやすいので、注意しなければなりませんね」
 太田から発せられる空気が変わる。顔は使命感からか引き締まり、より一層カリスマ性を引き立つ。
「現在の時刻をもって、エターナルは非常防衛体制に入る!」
 マイクをがっしりとつかむと、テレビやラジオ、有線の全ての回線を使って宣言した。作戦本部のスタッフたちには、これからの長い戦いに備えて苦いコーヒーと栄養ドリンクが配られ始めた。