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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『日本国・首相官邸危機管理室』 十二月二十四日 午後二時


 首相官邸の地下一階にある危機管理室には、総理大臣、防衛大臣、国家公安委員会の面々が集まっていた。会議が始まって既に八時間が経とうとしている。
「天皇陛下はすでに松代のシェルターに避難を完了されている。我々はこのまま戦争になったら指揮をとらねばならない立場にある。もしここが被災した場合、当初の予定通り立川広域防災基地に作戦本部を置くこととする」
 内閣総理大臣、大河内一郎は疲れた顔の大臣たちを一人ずつ見廻した。
「総理。各地で暴動が起こっていますが、すでに警察では鎮圧できない状態です。治安出動を認めていただけないでしょうか」
 防衛大臣が、恐る恐る提案する。
「皇族の方々と日本政府の要職を守る方が先決だ。暴動の規模が大きくなったら対処する。それまでは自衛隊の半分を東京、松代近辺に集結させ危機に備えろ」
 大河内は厳しい声できっぱりと答えた。
「お言葉ですが、今や昭和記念公園の周りには数万人の避難民が集まり、収拾がつかない状態です。近くの交番が襲われて拳銃が奪われる事件さえ起こっています。早急に治安を回復しなければ、ミサイル攻撃の前に国が崩壊しかねません」
 国家公安委員長が進言した。すでに皆疲れ切った顔をして、額には脂汗がにじんでいる。
「諸君、これから言うことはこの部屋の中だけに留めて置いて欲しい」
 大河内は静かな声でゆっくりと話し始める。
「一般国民は“我々には生きる権利はないのか”と私たちに言うが、率直に言わせてもらうと“そんなモノは無い”んだよ。シェルターの数は絶対的に不足している。自由競争のこの国で、私たちは国民にチャンスを与えてきた。国民は自分で、いや自分の金でシェルターなり何なり準備しなければならなかったんだ。政府に期待するのはそれこそ甘えだ」
 総理のこのまさかの発言に、部屋中の空気が凍りついた。太田が疑惑を抱いていた特権階級の、自分勝手な思想がここでついに顔を出した。
「我々だって人間だ。命は惜しい。諸君もこの地位まで這い上がってくるまでに、一般国民には考えられない程の努力をしてきたはずだ。その報酬として優先的に命を守られる権利があるのはあたりまえだ。そう思わないか?」
 大河内は目を血走らせながら続けた。
「しかし総理。私たちは、その国民からの税金で安全な設備を作ったのです。国民も守られる権利はあるのでは? 例の地下道を解放すれば、多少の人間は助かるはずです」
 建前でもこれを言わないといけないと感じたのか、防衛大臣が発言する。
 首相官邸と国会と皇居は地下で繋がっていて、非常事態の際には地下を移動できると昔から噂になっていた。しかしもし本当だとしても、一般国民はこの地下道を見る事さえできないだろう
「きれいごとを言うな! 国民ならいくらでも代わりはいる。だが私たちの代わりはいない。そうだろう?」
 部屋の中の者はみんな目を伏せ、下を向いている。もう偽善者の立場をとるものは、この部屋には誰も存在していなかった。長い会議は総理のこの言葉をもって終わった。各要職の面々は、この部屋に来た時よりも大分濁った眼でそれぞれの持ち場に帰っていった。
 もし国民がこれを聞いていたら、法律を守り税金を真面目に納めていたのがバカバカしくなったであろう。そして彼らの特権階級意識は、決してこれからも変わることはない。
 この時点で、ミサイル発射まであと二十二時間を切っていた。