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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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危惧


『エターナル・伊方発電所』 十二月二十四日 早朝


 颯太と那智博士は、早朝から伊方発電所を訪れていた。明日の電力確保の最終確認を行うためである。
「ここは加圧水型軽水炉が三基ありますが、今回はこの電力を全てL・D・Fに一時的に供給するんですよね」
 整然としたメインコントロールルームを見廻しながら博士に訪ねた。精密な計器が並び、モニターには制御棒の情報が常に表示されている。
「うむ。だが一部の電力は酸素供給装置に常に送り続けないといかん」
 博士は手元の端末に指を走らせながら続ける。
「酸素供給装置はL・D・Fの次に大事な装置じゃからの。上空で汚染が確認された場合、エターナル国民はその大気から隔離されねば意味がない。その場合の酸素の供給は非常に重要になる」
「でも博士。エターナル全体に酸素を送り続けるのは、実質的に不可能じゃないですか?」
「もちろん不可能じゃよ。だが各都市の施設、公民館、学校、避難所などには常に供給できるようになっておる。そしてそこには完全に密閉された部屋を多数設置してある。まあ、これを使う事が無いように祈るのみじゃな。ところで、わしが開発したこの放射線防護スーツを見てくれ」
 段ボールから、オレンジ色の宇宙服のようなスーツをごそごそと自慢げに取り出した。
「まるで宇宙服ですね。え、ちょっと博士! 僕着ませんって。今着ても意味ないですって」
 結局、颯太は防護スーツを着せられて宇宙飛行士みたいな恰好になった。
「どうじゃ? 思ったより動きやすいじゃろ。しかも装着は簡単で体温調節装置もついておるぞ」
「本当ですね。これなら長距離移動しても大丈夫そうです」
 その場でくるくると回った。
「これを全てのエターナルの国民に配布する。MICの資金力が無ければ、この短期間ではまず不可能だったじゃろうな」
「ということは、核爆弾の物理的な破壊力をL・D・Fで無効にしたうえに、万が一の放射線もこれで防ぐと」
 着ごこちを試すように、部屋中を歩き回る。
「だが実はな……放射線も、島全体を覆う大型L・D・Fでほぼ防げる計算になっとるんじゃ。太田君もL・D・Fへの電力供給を気にしてたろ? 供給に問題が起こらない限り、汚染された空気も遮断できる。つまり、エターナルはずばぬけて安全なんじゃよ」
「改良型の性能はよく分かりました。ではここの警備を特に厳重にしないといけませんね。……あと、これもう脱いでもいいですか?」
 言うが早いか、すばやく防護スーツを脱いだ。信じられないことに、汗ひとつかいていない。
「じゃあ、次は博士の番ですね」
 颯太は防護スーツを手に持って構えた。
「わしは十分性能を知っとるから、パスじゃん?」
 博士はこう言い残すと、軽やかな足取りでメインコントロールルームを出て行った。
「逃げ足と計算だけは速いんだからなあ、もう」
 苦笑いを浮かべながら腕時計を見ると、もう夜が明ける時間になっていた。残された時間はあまりにも少ない。
 確かにこの防護スーツを着てさえいれば、放射線を気にしなくても大丈夫であろう。しかし、逆にこれを着る時が来てはならないと感じたのか、それを持った颯太の顔は次第に引き締まっていった。