欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~
『エターナル・会議室』 十二月二十二日
今日の緊急会議にはトップ5が全員集まっていた。一人は自殺、愛里は地下施設なので、実際はもう三人しかいないのだが。
「さて、我々はハルマゲドンが起こる正確な日時を、世界に対して発表せずにここまで来てしまいました」
太田は那智博士と舟木の顔を見まわした。
「正確な日時なんてものは、厳密にはミサイルを撃つヤツにしか分からないだろ。もう発表してもいいと思うぞ。それよりも、道を歩けば『L・D・Fは本当に大丈夫なんですか?』と日本のやつらにも聞かれる。まいったよ」
椅子に深く腰掛けた舟木は、ずっとしかめっ面をしている。彼はあと三日しかないというのに、日本とエターナルを行き来して弟子の世話をやいていた。
「世界がL・D・Fのことを知らなければ良かったのじゃが、記者会見での襲撃事件で公表してしまったからの」
博士は肩をすくめる。
「そうですね。では公式に発表しましょう。しかし『二十五日に核爆弾が降ってくる』といま発表すれば、エターナルに更に人々が殺到してくるのは必至ですから、後で対策を練らなければなりません」
太田は部屋の中央まで歩くと、エターナルの地図をプロジェクターに映し出した。
この時点で政府専用シェルターの事だけは、ネットやマスコミに既にリークしてある。それを受けて「国民もシェルターに入れるべきだ」と抗議団体が日本各地でデモを起こしているらしい。
過激な一部の団体は、シェルターを探し出してはそれを地図付きでネットに流している。今や日本国民はクリスマスどころではなく、政府に対する不信感で右往左往していた。
「東京の芸能事務所は一応活動を続けておるが、タレントの半分は田舎に帰ったらしいぞ。人類最後の日には、やはり肉親と居たいのだろうな」
手を顔の前で組みながら、沈痛な面持ちで舟木は言った。
確かに、お笑い番組など最近はほとんど放送していない。その代り世界の終末を予想する番組や、家庭用シェルターを売るコマーシャルなどがテレビで頻繁に流れるようになった。
「あと三日でハルマゲドンが起こるという確率を、博士に計算していただきました」
モニターに軽くタッチすると、プロジェクターに数字が映し出される。
【98・087%】
「この数字は全ての要素を加味した結果じゃ。ほぼ確実にそれは起こると考えたほうがよろしい」
分かっていた事だが、この数字を見るとみな落胆の色を隠せない様子だった。
「今日よりエターナルの警戒レベルを最高の5に上げます。博士は改良型L・D・Fの最終動作確認をお願いします」
太田はいつもより強い口調で宣言した。
「分かった。ところで、あの颯太君な、あの子は本当に使えるぞ。もし彼が一か月前から研究に協力してくれていたらと思うと残念で仕方ない」
本当に残念そうな顔をしてうつむく。
「愛里くんの紹介ですから間違いないでしょうね。彼のハッキング技術は世界最高クラスと聞いています」
「彼は発射プログラムを制御できないと判断すると、すぐにミサイルの座標をずらすウイルスを作り始めたからのう。残りの1・193%は颯太君の作戦の可能性を示す数字だと言ってもいいくらいじゃ」
「わずかな可能性ですがゼロではないと。これで少しだけですが希望が持てます。では我々は我々の仕事を始めましょう」
作品名:欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~ 作家名:かざぐるま