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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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 ここの生活にも慣れ始め、友達も何人かできた。今日は、初日に声をかけてきた涼子とテニスコートに来ている。涼子は愛里と同い年で、ポニーテールが似合う運動が得意な女の子だ。地上でもテニスをよくしていたようで、半袖から突き出た腕は小麦色に日焼けしている。
 三十分ほど軽いラリーをやり、汗を流す。涼子が打ったボールが愛里の頭をはるかに超え、コートの隅に転がっていったので拾いに行った時……。
 愛里の視界の隅を素早く何かが横切った。それはまるで蜘蛛のような形をしていて、透明な膜で覆われている感じだった。いつか観た『プレデター』という映画に出てきたような、光を屈折するものをまとっているように見える。
「愛里、何やってんのよー!」
 遠くから涼子が呼んでいる。
「はーい! いま行くねー」
 眼をこすり頭を軽く振ると、ボールを拾い上げコートに戻った。途中で見上げたテニスエリアの天井には、透き通るような青い空と雲までが精巧な映像で投影されている。
 さっき愛里の見たものは何だったのか。いまは爽やかに汗を流す女性たちの楽しそうな声が、いつものようにコートに響いているだけだった。
(きっと環境が変わったからヘンなものを見るのね)
 目の錯覚だと思い込むことにした。
 しかし……確かにそこにいたのだ。ブレインシステムAIにリンクして、指定された個人を常に観察する目的を持ったモノが。
【迷彩蜘蛛型ロボット。通称、カメレオン】
 一人につき一匹が常に個人を監視していた。カメレオンは高解像度カメラを持ち、瞬時に外殻の色を周りの色に変化させることが可能である。特殊な足を八本持ち、垂直の壁や天井にも軽々と登れる。一日一回のみ、専用の出入り口からブレインシステムのAI中枢に行き、充電とデータ転送を行っていた。注意して見ても分からない程の迷彩性能であるが、色を同化させるのにコンマ三秒程度のタイムタグがある。
 愛里が見たのは、ちょうどその変化の途中だったのだろう。
 つまりこの施設には最低でも2000匹の『カメレオン』が常に個人を監視しているということになる。そしてこの存在には、彼らが故障でもしない限り誰も気づかないだろう。



『エターナル・研究室』 十二月十八日 


那智博士と颯太は昼食を出前で済ますと、早速仕事にとりかかっていた。
「颯太君、君は飲み込みが早いな。次はレーダー照射のタイミングと、反射角度の補正結果を十分以内に出してくれ」
「はい。ところで太田さんから何か僕のこと聞いてませんか?」
食後の珈琲を美味しそうに飲みながら質問した。だが片手はキーを高速で叩いている。
「太田君からは『天才がエターナルにもう一人増えたから、L・D・Fの改良を早急によろしく』としか聞いてないぞ」
博士の口元は綻んでいる。天才と言われる若者と仕事ができるのを、密かに喜んでいる様子だ。
「なんかすっごいアバウトですよね。愛里ちゃんのメモを見せたら、全てがすんなりと行っちゃって。メモに、秘密の呪文でも書いてあるのかと思いましたよ」
不思議そうな顔をしてまばたきをする。
「それだけ彼女が太田君に信頼されているということじゃよ。あの二人は本当の兄妹みたいだったからの」
白いひげをいじりながら、孫を思い出すような遠い目をした。確かに博士の年齢からみたら、二人とも孫ぐらいに年が離れている。
「なるほど。じゃあ僕も期待に応えないといけませんね。そう言えば、L・D・Fシステムを起動させる電力はどこから引いているんですか?」
膨大な電力の供給先に颯太は特に興味を示していた。
「基本的に伊方原子力発電所から供給される。その時が来たら、エターナル中の電力を一時L・D・Fに全投入しなければならん」
「なるほど。初期電力の供給と瞬発力が大切という事ですね。エターナル全体が停電でパニックにならなければいいですけど」
仕事柄、停電の怖さをよく理解していた。
「大丈夫じゃろ。太田君が既に住民に警告しておる。……我々は自分に与えられた仕事をすればいいじゃん」
颯太は盛大にコーヒーを噴き出した。
「博士――いま最後に何て言いました?」
「ふむ。最近の若者はみんな『じゃん』ってつけるんじゃないのかね」
「いやいや、そんなことは無いです。しかも、今ちょっと考えてから言いましたよね」
博士はしゃべりながらも、難しい計算式の答えを紙に次々に書き取り続けている。
(やはりこの人こそ天才だ)と颯太はコーヒーを拭き取りながら感心していた。