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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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――一体あの決死の脱出は何だったのだろう。愛里が資格者なら、地下でじっと待っていた方が良かったのだろうか。しかし、あの時点ではそれを知らなかったから仕方ない。
 ここで持前のプラス思考が威力を発揮し、すぐに頭を切り替えた。そうだ! こうして生きて愛里に会えたのだから別にいいじゃないかと。
「ねえ海人。こないだ手紙に書いたこと覚えてる? もうここは四国じゃなくてエターナルなの。太田さんが新しい国づくりのリーダーになって頑張ってる。良かったら、私たちもエターナルを暮らしやすい国にするために協力しない?」
「そうだな。太田さんには昔すごく世話になったし、なんてったって幼馴染だもんな。あの人さ、俺が公園でガキ大将にイジメられてた時、風邪でふらふらになりながらも走ってきて庇ってくれたんだ。『弱いものイジメをするなよ!』てさ。今度は、俺が太田さんを敵から守る番だ」
「良かった! 今夜本部で記者会見があるから、彼は本部にいるはずよ。いこっ!」
 愛里は俺の手を握ると、駐車場まで引っ張っていった。握った手をソフトボールのピッチャーのようにぶんぶん振る彼女からは、嬉しいって感情がダイレクトに伝わってくる。タクシーを拾うと、エターナル本部の住所を告げた。車の中でも、彼女は俺の手をしっかりと握っていた。
 エターナルの街並みは平和そのものだったが、街中にやたらと監視カメラが目につく。主要な交差点には武装した警備の者も立ち、警戒態勢をとっている。
 だが、俺にとって久しぶりの地上は、やはり地下とは比べ物にならない程に新鮮で自由に満ちていた。
 しばらく走ると、本部の正面に着いた。建物前には私服のガードマンが数人立っている。その様子を見ると、建物内にも厳重なセキュリティが施されているのだろう。愛里の案内で数か所のセキュリティチェックを済ませ、エレベーターを呼んだ。
 下りのエレベーターから出てきた人物を見て、愛里がはっと息を飲んだ。
「パパ? ここで何してるの? あっ、この人は東条海人さん。二人とも近くで顔を合わせるのは初めてよね」
「こんばんは、東条海人と申します。所属は東京本社の技術部です。入社式は何しろ凄い人数でしたし、遠くからお顔を拝見しただけだったので、こうしてお会い出来て感激です」
 緊張して俺はかちかちになっていた。MICの社長が目の前にいるのが信じられなかった。何故ならこの人は分刻みのスケジュールで世界中を常に飛び回り、めったに日本にいない人だと聞いていたからだ。
「ほほう、君が噂の東条君か。娘から名前は聞いているよ。私の大事な一人娘をかっさらっていった社員だな? ……クビだ」
「え?」
「パパ?」
 俺と愛里はキョトンとして顔を見合わせた。
「はっはっは! ジョークだよ。びっくりした?」
 吉永茂は可笑しくてたまらない顔をして、二人の肩を同時にぽんぽんと叩いた。
「パパ! ふざけないでよ。心臓が止まるかと思ったわよ」
「ゴホン。ところで今日は太田君に用事かな? さっき彼と会ってきたばかりだから部屋にいると思う。そうだ、東条君」
 急にまじめな顔になった。今は少しも笑ってはいない。
「娘を、守ってくれよ」と最後に一言だけ言い残すと、秘書を連れて歩き去っていった。
 社長は『娘をよろしく』ではなく、『守ってくれ』と言った。
 俺は言葉の重さを噛みしめると同時に、やはり社長は全てを知っているんだなと感じた。これから起こる世界の危機のことを。

 エレベーターを十四階で降りると、『エターナル本部』と書いてある部屋に入る。部屋の中には、太田と那智博士が何やら難しい顔で話している。
「おお! 誰かと思ったら海人じゃないか! おいおい、久しぶりだな」
 がたんっと立ち上がって満面の笑顔を浮かべながら近づいてきた。
「久しぶりです! 太田さん少し白髪が増えたんじゃないですか?」
 俺も自然に笑顔になってしまう。
「苦労が多くてなあ。ところで最近全然連絡して来なかったけど、どこに行ってたんだ?」
「ちょっと長めの出張で、カンヅメにされてましたよ」
 愛里はこの会話をニコニコして聞いている。
「では太田くん、先ほどの件を頼んだぞ。わしは研究室にいるから何かトラブルがあったら知らせてくれ」
「分かりました。何か気を使わせてしまって申し訳ないです」
 ひょうひょうたる風貌の博士は資料をまとめると、すっと部屋を出て行った。
「えーとそれでね、海人もエターナルの発展に力を貸してくれるって。太田さんと一緒に頑張りたいって」
 ここで太田さんは俺の手首に一瞬視線を走らせた。そして急に真面目な顔になり眉間にしわを寄せる。
「海人、おまえまさか……。社長からマーカーの話は聞いている」
 俺は、この言葉をきっかけに今までの事を全て話した。施設のことや、愛里にもマーカーが送られてきたことも。彼はこめかみを揉みながら静かに聞いていた。
「話は分かった。大規模なシェルターの存在も社長からさっき聞いた。そして『資格者』にだけ送られるそのマーカーのこともな。だが、その条件は社長しか知らないし、絶対に話してくれないだろう」
「そうね、でもパパが決めた条件なら私は納得できる。人類に不利益を与えるはずないもの」
「俺もそう思う。ところでな、海人。エターナル代表の立場じゃなくて、俺個人からおまえたちにやって欲しい事がある」
 ここで言葉を切り、大きく息を吸った。
「お前たち二人はすぐにでもシェルターに入れ。愛里はマーカーを着けて施設の入る準備をするように。たった二十四時間しか猶予がないんだろ?」
「いやよ! 海人には内緒だったけど、エターナルの幹部として今ここを離れる訳にはいかないわ!」
 顔を真っ赤にして彼女は叫んだ。
「ちょっと待て、愛里。それはレジスタンス時代も所属していたってことか?」
 思いがけない彼女の言葉に面食らってしまう。
「ええ……。黙っててごめんなさい。詳しい事情は後で話すわ。とにかく一緒に働かせて、お願い」
 太田さんは片手を上げ、愛理の言葉を制する仕草を見せた。
「愛里、博士の作ったL・D・Fは確かに信頼できるが、100%安全という訳ではない。現在もL・D・Fに対して色々な破壊工作が行われているのが現状だ。ハルマゲドンの時に役に立たなかったら、エターナルは終わりなんだぞ」
「太田さん。俺は愛里を守ってくれと直に社長から頼まれました。安全性だけを議論するならば、シェルターの方がはるかに優れてはいるでしょう。しかし、俺はシェルターの人々の命も大事ですが、エターナルの人々や太田さんも守りたい。恩返しをしたいんです。もし地下に収容されたら、二度と太田さんの力になる事ができなくなる。そして……もう一度収容されたら脱出することは絶対に不可能です」
 独りよがりかもしれないが、できる限りの事はやってみたいと強く主張した。
「海人は今日地下施設から脱出してきたのよ! 死ぬ思いまでして」
 俺の手についた小さな生傷をちらっと見て、彼女は今にも泣き出しそうだ。俺達の必死の意気込みを感じたのか、彼は困った様子で黙り込む。
「少し、時間をくれ」
 窓際まで歩き、こちらに背中を向けながら長い時間そのまま考えこんでいる。